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2005.11月号 No.43 通巻244 11月01日発行
アーサー・D・リトル(ジャパン)(株)
 シニアアドバイザー  
      小久保 厚郎
 
付け焼刃的にマネジメント手法を学んでも、上手くいくとは思えません。   まずは、マネジメントのどこに問題があったのか、そして、どうして知恵が発揮できなかったのか、考えるべきでしょう。総括なしに、表層的な「学び」を進めれば、逆効果になりかねないと思います。  
 
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【特集】技術マネジメントとナレッジマネジメント
第1部 技術マネジメントの課題
はじめに
資源のない日本は、技術立国を目指し、技術力の向上に励んできたはずです。にもかかわらず、1990年代の経済低迷とともに、数多くの不調な企業を生み出してしまいました。屋台骨まで揺らぎかねない状態に陥る企業もありました。
社員の質が落ちたなら、この現象も当然でしょうが、そんな証拠はありません。それどころか、以前より長時間働き、一生懸命勉強したのではないでしょうか。
ごく自然に考えれば、この原因は、マネジメント力が足りなかったということでしょう。要するに、社員の貴重な知恵を組織的に生かす仕掛けを欠いていたのです。このことに気付いている人は多いと思います。 
そのため、それなりの対処策も展開されているようです。しかし、付け焼刃的にマネジメント手法を学んでも、上手くいくとは思えません。  
まずは、マネジメントのどこに問題があったのか、そして、どうして知恵が発揮できなかったのか、考えるべきでしょう。総括なしに、表層的な「学び」を進めれば、逆効果になりかねないと思います。そんな観点から、どんなマネジメントスキルが必要か、簡単にまとめてみました。  
ナンバーワンを目指す意志ありき
技術マネジメント力をつけたい人は、どうしても、欧米の基本手法の習得を目指しがちです。体系的によくまとまっていますから勉強しやすいこともあるでしょう。しかし、その大枠は、1980年代の日本企業の成功要因分析にすぎないかもしれません。日本企業が輝いてみえた時代、どうして成功したのか自分の頭で考えることから始めるべきではないでしょうか。 
筆者は、日本企業の一番の問題は、戦略方針設定能力が低い点だと考えています。成長するために何をすべきか自明な時代はよかったのですが、環境が変わって、この弱点が効いてきたのだと思います。
かつては、高品質で廉価な商品をタイムリーに大量生産する能力があれば沢山の企業が生きていけました。そんな時代なら、徹底的な調査分析をすれば、競争力向上も図れました。手法を学べばそれなりに奏功したはずです。
しかし、今では、その程度のスキルではとても勝てないでしょう。商品に魅力を欠けば、すぐに負け組みに陥りかねません。競争が激化しており、お客様をしっかりつなぎ止める力がないと、生き残れないのです。要するに、他社に勝つための武器が不可欠なのです。
武器を欠けば、早晩市場から追い出されてしまいます。一方、勝てる武器があるなら、それが奏功するお客様を対象とすれば、ナンバーワンになれるはずです。
従って、問題は単純です。ナンバーワンになるシナリオを作ればよいのです。ここをあいまいにして、競争力強化を図るから、効果が上がらないだけに過ぎません。
知恵で戦っているとの認識が重要
ナンバーワンを目指せというと、基本特許を所有している訳でもないし、開発部隊にも圧倒的な物量がないのに、空論だと考える人が多いようです。このマインドを変えることが必要です。マインドさえ変われば、日本企業が飛躍する時代が訪れるのは間違いないと思います。知恵があればナンバーワンになれる時代が来たからです。
簡単に説明しておきましょう。(図1)

図1

かつては、大きな工場、高効率な生産設備、津々浦々までの流通ネットワーク、といった他社が持てない「資産」を所有する企業が圧倒的な優位を誇っていました。今でも、それは通用するかもしれませんが、そんなものなどない身軽な企業でも成功例がでてきました。産業が大きく変化しているからです。変化の時代は、巨大な「資産」は武器というより、足 かせになりかねません。優位どころではないかもしれないのです。
そのことをはっきり認識させられたのが、1990年代のインターネット通信の普及です。このお陰で、将来を支えるはずだった電話型のデジタル交換網は一挙にお荷物になってしまいました。ここで忘れてならないのは、これほどのインパクトを与えたインターネット通信は、政府からも、通信産業界からも異端児扱いされていたという事実です。つまり、知恵さえあれば、異端でさえ、主流になれることを、世界中に知らしめたのです。
豊富な資源を所有し、有能な専門技術者を大勢抱えている企業が成功するとはいえなくなった、ということです。企業規模と優位性とは直接関係なくなったのです。これと同時に、情報を徹底的に収集して先を読むスキルの重要性も薄れてきました。未来を提起して、社会や産業を変えることが可能な時代なのですから、当然でしょう。
こうなると、自らの頭で考え、自律的に動ける組織に、勝つチャンスが生まれてきます。
知恵が働く技術分野を考え抜く
知恵で戦うのですから、企業の技術政策も大きく変わらざるを得ません。これからの戦いの焦点は、次世代の新要素技術開発というより、知恵を駆使できる、自社独自の技術体系構築と考えるべきでしょう。保有技術を武器にするにはどうしたらよいかに、頭を使うのです。(図2)

図2

外部の力が使いやすくなってきましたから、同時に、外部の技術と組み合わせて新しい価値を生み出すチャンスも検討するとよいでしょう。
ともかく、事業に関係する要素技術を総ざらいして、得意の対象分野を見つける作業を行うことが出発点です。ただし、得意分野を当たり前の見方で整理しただけなら、ほとんど意味はないと思います。誰でもがわかっていることを説明するだけで終わってしまいかねません。いくら緻密な分析をしても同じことです。
といって、難問パズルを解く話ではありません。要は、自分達で知恵が出る分野を明確にすればよいだけのことです。例えば、製品の極薄化技術といった表現でもよいのです。極薄化といっても、知恵の出し方は企業によって違います。この技術が意味する要素技術群は企業によって違うのです。当然ながら、どのような知恵が入っているかで、技術が果たす役割も異なります。要は、自分達がわかるように、武器となる技術領域を決めればよいだけのことです。
これこそが、戦略的発想の原点だと思います。手法でいうなら、技術の棚卸ということになるでしょう。お奨めの手法です。しかし、繰り返しますが、それだけで答えが見つかることはありません。
緊張感をもって、飛躍を図ろうとの強い意志を持ち、全体をふかんし、考え抜いてこそ、初めてざん新な方策を見つけることができるのです。
武器となる技術領域が決まれば、独自の強みが発揮できる理屈がはっきりしてきます。そうなれば、どのように事業を展開すべきか、自然に見えてくるはずです。言いかえれば、このような発想ができるように、技術領域を定義する必要があります。従って、どう定義するかで勝負がついてしまうと考えても過言ではありません。
要素技術ではたいした力がなさそうに見えても、知恵を生かせる仕組みがあれば、技術が強力な武器になるということです。
ビジョン構築が最初の一歩
といっても、技術を武器にして動くことは、そう簡単ではありません。ざん新な方策に気付いても、皆が納得してくれるとは限らないからです。しかも、多くの場合はリスクも高いのです。しかし、こんなことを恐れていたら飛躍は望めません。
実は、ここが日本企業の一番の問題なのです。
同業他社を横目でにらんで、世界の潮流予測を調べて動くことに慣れきっているため、リスクを恐れず突き進む意思決定がなかなかできないのです。
これを変えるには、全体の技術構造をはっきりさせ、こうすればナンバーワンになれると関係者一同に納得してもらう必要があります。そして、言うまでもありませんが、「ビジョン」を共有すること。これなくしては、リーダーシップは発揮できません。特に、予想外の障害に突き当たったときは、「ビジョン」の意義が実感できるはずです。協力して障害を突破しようとの熱情は「ビジョン」なくしては生まれません。「絶対に実現しよう。必ず実現できる」との感覚を持たない限り、困難に直面すると逃亡したくなります。参画者全員が意志一致しているから、皆、頑張れるのです。実際、そんな緊張感が張り詰めているときに、素晴らしい解決方法が見つかるものです。
多くの場合、こんなときにイノベーションが生まれます。
知恵を生かすには組織風土を踏まえる
それでは、ビジョンを掲げれば、組織は動くでしょうか。ところが、そうはいかないのです。これこそがマネジメント上の肝といえましょう。
もちろん、ビジョン実現のための創造的な戦略は必要条件です。しかし、それ以上に重要なのは、この戦略に合うような組織を編成し、方針と整合するような運営ルールと仕組みを作ることです。これらが、齟齬(そご)をきたしていると、成功はおぼつきません。特に留意すべきは、組織の文化との整合性です。簡単にいえば、社員は、何のために働いており、何に価値を認めているのか、自省し、それに合うようなマネジメントを行うということに尽きます。これができれば、組織的な知恵は自然に生まれると思います。
例えば、改良ばかりしていればイノベーションなどできないと語る人がいますが、本当でしょうか。確かに、漫然と与えられた課題を解決するだけの改良に甘んじているなら、その通りだと思います。しかし、改良業務をしながら、イノベーションの種を見つけることはできるかもしれません。それなら、種の見つけ方と、種を育てるスキルを身に付ければ、イノベーション創出は可能とはいえないでしょうか。
いうまでもありませんが、こうした知恵を生み出す仕組みは、企業ごとに大きく違います。(図3)その違いを無視して、一般的な飛躍の方法を考えるのは実践的ではありません。自社の組織風土に合わせた知恵を生み出す仕組みを設計するしかないのです。

図3

手法とは、あくまでも、この仕組みを考える際に便利だというものにすぎません。手法をいくら学んでも、深層を見抜く洞察力と、本質を言い当てるセンスがなければ、なんの役にも立たないのです。
ぜひ、ご自分達で、徹底した議論を通して、ナンバーワンになる策を案出して下さい。日本企業には、その力は十分あるのです。
PROFILE
小久保 厚郎 (こくぼ あつろう)

アーサー・D・リトル(ジャパン)(株) シニアアドバイザー。
RandDマネジメント・ドットコム主宰
 

東京工業大学高分子工学科卒業 同大学院理工学研究科修士課程修了。
アーサー・D・リトル社入社後は技術戦略策定手法の開発担当として活躍。
技術経営とイノベーション・マネジメント分野担当プリンシパル(パートナー)。
研究開発マネジメント分野コンサルテティング経験25年。

著書

「高度技術の戦略的管理」 日経マグロウヒル社 1986年
「戦略参謀ノート」(共著) ダイヤモンド社 1989年
「技術を生かす経営戦略」 日経BP社 1990年
「戦略参謀マップ」(共著) ダイヤモンド社 1991年
「エキサイティングな会社」 ダイヤモンド社 1992年
「研究開発計画と投資効果評価」(共著) 企業研究会 1994年
「商品開発大全」(共著) 日経BP社 1996年
「イノベーション・カンパニー」(共著) ダイヤモンド社 1997年
「技術・研究開発企画の策定と実際的展開」(共著) 企業研究会 1997年
「イノベーションを生み出す秘訣」 ダイヤモンド社 1998年
「研究開発のマネジメント」東洋経済新報社 2001年
「新規事業・次世代商品の開発戦略策定指針」日本ビジネスレポート 2001年
「事業戦略に合わせた研究開発テーマの取捨選択」日本ビジネスレポート 2001年
「コア技術の設定と技術戦略策定マニュアル」日本ビジネスレポート 2002年
「技術経営者/CTO業務完全マニュアル」アーバンプロデュース 2003年
「実践MOT/技術マネジメントワークブック」アーバンプロデュース 2005年

連絡先Eメール: info@randdmanagement.com

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