注目集まるポリ乳酸とゲル体の作製
記事更新日.07.01.04
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1.注目されるポリ乳酸

炭酸ガスによる地球の温暖化が問題になっていますが、ポリ乳酸は温暖化防止の役割を担うプラスチックとして期待されています。その理由は、石油から造られる一般のプラスチックとは違って、ポリ乳酸は植物を原料とするからです。

ポリ乳酸の製造方法の1例を図1に示します。ポリ乳酸の原料となるのは、サツマイモ、トウモロコシ、サトウキビなどです。これらの植物からデンプンを採り出し、デンプンに酵素を加えて糖に分解します。さらに、この糖に乳酸菌を添加して発酵させて乳酸を生成させます。発酵液中の乳酸を精製し、重合させることによってポリ乳酸が得られます。

このように植物を原料として製造されたプラスチックは、使用後に燃焼させて炭酸ガスが発生しても大気中の炭酸ガスを増加させるおそれがない。つまり、サツマイモやサトウキビは、空気中の炭酸ガスと太陽光線を吸収して植物体内でデンプンを合成し植物中に蓄積しています。したがって、このデンプンを採り出して製造されたポリ乳酸を用いた部品や製品を、使用後に燃焼させて炭酸ガスが発生しても、デンプンを合成する際に植物が空気中から取り込んだ炭酸ガスと等量であり、空気中の炭酸ガスは増加することがありません。このように大気中の炭酸ガス量が変化しないことを、炭酸ガスを構成しているカーボンの名称を使って「カーボンニュートラル」と呼んでいます。

植物を原料として合成されるプラスチックは他にもありますが、ポリ乳酸が最も安価に大量に製造できると考えられることから最も注目されています。

図1

2.ポリ乳酸の物性の短所と長所

ポリ乳酸は、地球温暖化防止の期待を担ったプラスチックでありますが、その物性は一般のプラスチックに比較して劣っているのが現状です。耐熱性、耐衝撃性、耐候性、成形加工性等 が劣っています。
ポリ乳酸樹脂で自動車部品を製造することを想定した場合、次のような問題点が考えられます。  
成形加工性  ポリ乳酸樹脂を射出成形する際に汎用樹脂の場合よりも複雑な工程が必要となり、成形時間が長くなるという問題点があります  
耐熱性  夏季には自動車車内は60℃以上にもなることがあり、ポリ乳酸の耐熱性ではこのような温度で変形の起きることが考えられます
耐衝撃性  車が衝突を起こした際に、衝突部以外の周辺部品まで破壊することは問題となります  
耐候性  自動車の外部は長年月風雨にさらされるので耐候性が最も要求されます。また、車内でも浸み込んだ水による加水分解作用が問題となります  
以上のような問題点を克服するために多くの研究が行われており、その成果として電気製品(パソコン筐体(1)(2)DVDプレーヤー筐体、)や自動車部品(フロアマット内装部品)の一部の部品がポリ乳酸から造られるようになっています。

一方、長所としては上述したようにカーボンニュートラルであることや、生分解性の良いことが挙げられます。このような長所を生かした製品として次のような例があります。

農業用マルチフィルム
地中温度の低下を防ぐためのフィルムであり、1シーズンの使用後に廃棄されますがその際の処理が問題となっています。
このフィルムをポリ乳酸で製造した場合生分解性が良いので、フィルムをトラクターで粉砕して土中に埋めることによって徐々に分解されるため、廃棄物処理の問題が解決されます。
フィルムの価格は通常フィルムよりも高くなりますが、使用後の廃棄物処理費用を考慮するとポリ乳酸フィルムのメリットがあるようです。この他にも、卵を入れるためのブリスターパック等にも使用されつつあります。 

3.ゲルの作製

このように環境保護の点から期待の大きい半面、使用上で問題の多いポリ乳酸ですが、愛知県産業技術研究所では、ポリ乳酸からゲル状の物体を製造する方法を開発して、部品や製品への使用を呼びかけています。
ゲルの作製方法を図2に示します。

図2

ゲルの作製方法を図2に示します。ポリ乳酸エマルジョンにポリビニルアルコールを添加し凍結と融解を3〜5回繰り返すことによってゲル体が でき上がります。
このゲルの乾燥させた状態での電子顕微鏡写真を図3に示します。連続した孔が観察されることから、フィルターや酵素固定化担体などこの形態に適した用途を考えることが必要と考えています。
 

図3 

このゲルを用いた開発試験として行った疑似餌の例を図4に示します。着色済みの微細な木粉をゲル作製時に添加することにより安定した着色が可能となり、水中で脱色することのない擬似餌を開発することができました。魚釣り後に廃棄される漁具が問題となっていますが、このゲルを用いた疑似餌では生分解性が良いためにこのような心配がありません。
 

図4 

他の用途例としては、肥料や農薬の溶液をゲルに含浸することにより、土中で肥料・農薬を徐々に放出する除放性肥料・農薬としての利用が期待できます。生分解性があることから使用後のプラスチックの残存が問題となりません。

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愛知県産業技術研究所 基盤技術部 福田徳生
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