漁網・ロープ等の摩耗試験
愛知県産業技術研究所 記事更新日.08.03.03
三河繊維技術センター
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三河繊維技術センターが立地している東三河地域は、漁網、ゴルフネット、建設用安全ネットなどを製造する製網業や、繊維ロープを製造する製綱業が盛んです。このため、当センターには、漁網やロープなどの引張強さや摩耗特性などに関する試験依頼や技術相談が多数寄せられています。
そこで、当センターで実施している種々の依頼試験の中から、他の試験研究機関ではほとんど手がけていない、網やロープ等の摩耗特性を評価する試験についてご紹介します。

1. 漁網やロープの摩耗試験の必要性
サケ・マス流網漁船による操業では、漁網を操作する場合に揚網機や船べりでこすられて網が摩擦されます。そのため、網の耐摩耗特性が必要となります。また、網の表面が毛羽立つと網糸が太く見えたり、夜光虫が付着して網糸が光り、魚の掛りが悪くなることもあります。

また、トロール船による機船底びき網操業では、近年の船の大型化に伴い網も大きくなったため、網には20〜30トンもの負荷がかかり、より強力な網やロープが必要になっています。とりわけ、アフリカ沖あたりでは、荒場操業といって海底の起伏の激しいところで操業しているため、網を岩に引っ掛けたり、海底と摩擦することの多い使い方をします。また、現状では人手を省くために漁具を省力化、機械化する傾向にあり、網を機械で巻き揚げることで起きる擦れが大きな問題となっています。

このように、操業中の網やロープは幾つかの摩耗現象に遭遇しますが、海中における実際の挙動は良く分かっていません。従って、大漁の時には問題になりませんが、不漁のときに網が損傷していたりすると、たちまち、製網業者に「耐摩耗特性が悪かったのでは…?」といった苦情となって跳ね返ってきます。その結果、当センターに相談が寄せられ、原因を究明するため摩耗特性を評価する試験などを行うことになります。 

2. 摩耗について
物体が他の物体の表面に接触して相対運動すれば、必ず抵抗が生じます。同時に表面がすり減らされます。前者が摩擦現象であり、後者が摩耗現象です。摩擦では主として運動に逆らう力と摩擦係数を検討します。摩耗では摩擦仕事によって、次第に表面が削り取られ破断に至る損傷の問題を取り扱います。このように、摩擦と摩耗は密接な関係にあります。一般に摩耗に影響する因子は非常に多く、摩耗するものの種類、摩擦方向、圧力、速度、温度・湿度などがあります。中でも摩擦する相手によって大きく現象が異なってきます。摩擦・摩耗については、学問的にはトライボロジーと呼ばれ、金属などの固体については多くの研究が進められています。

 
3. 繊維の摩耗試験方法について

糸や織物については、JIS規格の試験方法が定められています。また、自動車用のシートベルトについては、JIS D4604に規定があります(対六角棒摩耗試験方法)(図1)。しかし、現状は漁網やロープの耐摩耗特性に関するJISの試験方法は定められていません。

 
そこで、当センターでは、各方面の資料や業界関係者からの助言を参考にして、摩耗試験機(T)(写真1)、摩耗試験機(U)(写真2)を試作して、耐摩耗特性の評価を行い、業界のニーズに対応しています。
摩耗試験機(T)は、摩耗子として先端部がV字型となっている金属刃を使用し、先端部に当てた試験片を前後に動作させることで、摩耗を与える機構となっています。網やベルトなどの形状がフラットな試験片に適しており、試験片の幅に合わせた金属刃を使用する必要があります。この試験機は当センターの豊橋分場に設置してあります。

 摩耗試験機(U)は、ロープなど丸い形状の試験片を評価するためのもので、摩耗子として表面に菱目型溝(ローレット加工)が刻まれている金属円盤を使用しています。試験片は回転する金属円盤の表面で前後に動作させることで摩耗させられますが、同時に試験片自身も軸方向に回転することにより、丸い試験片でも全体に摩耗が与えられる機構となっています。
4. 摩耗特性の評価
一つは、試料が摩耗によって切断に至るまでの摩耗回数で評価します。この方法は、時に試験時間が長時間に及ぶことがあります。いま一つは、一定回数の摩耗後の試験片の引張強度を測定し、試験前の試験片の引張り強度と比較した残存強度で評価しています。
漁網やロープの耐摩耗特性の評価は学問的には難しい面がありますが、業界の重要な課題であり、当センターでは継続して評価方法の検討に取り組んでいます。