複雑で変化に富んだ模様の織物を織る新技術
愛知県産業技術研究所  記事更新日.08.11.04
尾張繊維技術センター
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1.開発の背景

織物は、上下に交差するたて糸の間によこ糸を通して織られており、たて糸の上げ下げは綜絖(そうこう)と呼ばれる金具が行っています。そして、織物の模様は、綜絖を装着した複数の綜絖枠を上下させることで織り込んでいます。
綜絖枠を多く取り付ければ、たて糸の動きを細かく制御して複雑な模様を織り込むことができますが、綜絖枠の動作も複雑になるため生産性は低下してしまいます。このため、最近では織機の高速化に対応する観点から、綜絖枠の数を減らして生産速度を優先する傾向にあり、多くの綜絖枠が必要な複雑で伝統的な図柄が製造できなくなっています。
 

ドビー織機の模式図


また、アジア近隣諸国で大量生産される繊維製品と価格面で競争することは困難なことから、愛知県の繊維業界では、多品種・小ロット生産が可能な既存のドビー織機を活用しつつ、他との差別化を図る技術の開発が待ち望まれています。

2.研究内容と技術的特徴

開発した技術は、通常の綜絖に比べ細長い穴を有する長目綜絖を用いることに特徴があります。この長目綜絖を使えば、少ない綜絖枠で複雑な模様を織れることは、以前から理論的には知られていましたが、綜絖枠の上下動を設定することが極めて難しく、実用化されていないのが実状です。
尾張繊維技術センターでは、今回パソコンを使った解析計算を応用することで、この長目綜絖の実用化に成功しました。この方法では製造したい図柄を入力すると、パソコンが綜絖枠の上下動を計算して織機の設定方法を指示します。これにより、通常の綜絖を使う場合に較べて、大幅に少ない綜絖枠で同様の図柄を織り込むことが可能となりました。
この計算には、コンピュータサイエンスの分野で研究されてきた「グラフ彩色問題」の成果が応用されており、平成18年9月15日に特許出願を行っています(特願2006−251339)。  

3.波及効果

多くの綜絖枠を使って織り出されていた伝統的で複雑な図柄は、綜絖枠の少ない現在のドビー織機では製造できませんが、この技術を利用することで、織り込むことができるようになります。
導入に必要な投資は、綜絖の付け替えのみで負担が少なく、また、多品種・小ロット生産が可能なドビー織機の特徴を活かして多様な商品展開に対応できることから、製織業者の競争力向上に寄与します。
一般の消費者にとっては、複雑で変化に富んだ模様の衣服などを購入しやすくなることが期待できます。
用語集

1)ドビー織機(しょっき)
比較的、単純な組織の織物を織るための織機。たて糸をグループに分け、そのグループごとにたて糸を上下させるため、一般的に複雑な模様の織物を織ることができない。


2)綜絖(そうこう)
たて糸を通すための長さ1cm程度の穴(目)を持つ針金状の器具。綜絖を上下させることでたて糸を上下させ、織物が織られていく。通常、1本のたて糸は1つの綜絖の目に通す。


3)長目綜絖
通常の綜絖より長い10cm程度の穴をもつ綜絖。これにより、1本のたて糸を複数の長目綜絖に通すことが可能になる。


4)綜絖枠
ドビー織機に装着されている綜絖を固定するための部品。綜絖枠を上下させることにより、綜絖枠に取り付けられた綜絖を上下させ、綜絖の目に通されたたて糸を上下させる。綜絖枠を数多く装着しているドビー織機ほど、複雑な模様の織物を織ることができる。


5)グラフ彩色問題
下図のように、辺で結ばれた頂点を同じ色で塗らないという条件で、できるだけ少ない色数で頂点を塗る問題。コンピュータサイエンスの分野で古くから研究されてきた。左図では、4色必要であったが、右図では、3色で塗り分けることができたので、右図の方が好ましい。