地産地消型バイオマス利活用技術の開発と課題
愛知県産業技術研究所  記事更新日.09.01.13
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地産地消型バイオマス利活用の必要性と取組
20世紀に入り、人類は石油・石炭などの化石資源を大量に消費することにより、生活水準を劇的に飛躍させました。しかしながら、これら化石資源の大量消費は世界規模の環境汚染の問題を招きました。さらに今世紀になり、化石資源の枯渇問題が危惧されています。現代の農産物生産が化石燃料の大量消費に支えられていることを考えると、国土が狭く、食料・エネルギー自給率が非常に低い我が国にとって、化石資源依存型社会から脱却し、再生可能資源を利用した循環型社会へと移行することは非常に重要な課題です。

このような中、植物系バイオマスが化石資源の代替として非常に注目されています。植物系バイオマスは光合成により光エネルギーを化学エネルギーに変換し、糖類として生体内に固定化するカーボンニュートラルな素材であり環境調和型の資源として利用できます。しかし、 植物系バイオマスは広大な土地で発生する分散生産型であるため集荷や輸送に多大なコストを要し、これらを利用するにあたっては地域の特色を活かしたオンサイト型生産システムや地産地消型システムを構築する必要があります。この問題を解決するため国内各地で、地産地消型バイオマス利用を目指した「バイオマスタウン」が形成されています。愛知県においても、平成17年2月に策定した「食と緑の基本計画」の取り組みの一貫として、栽培した菜の花を農業や運送業などと連携して循環利用する、地産地消型の「菜の花エコプロジェクト」を行っています(図1)。
愛知県ホームページより引用
(http://www.pref.aichi.jp/shokuiku/nanohana/index.html)

セルロース系バイオマス利活用の課題(糖化前処理工程の開発)
植物バイオマスの急速な需要の高まりは穀物市場における資源争奪や穀物価格の高騰を引き起こしています。これにより食糧供給に影響を与えない非食用のセルロース系バイオマスの利活用が世界的に必然となっています。市場に悪影響を及ぼしたとされるアメリカの「バイオエタノール戦略」においても、原材料を可食の穀類からスイッチグラス(多年生のイネ科の植物)など非食のセルロース系バイオマスに転換するよう、ブッシュ大統領が一般教書演説で言及しています。

セルロース系バイオマスの生体内には、構成成分の20%から40%程度割合でリグニンが存在します。リグニンは高分子のフェノール性化合物で硬く、難分解性・難消化性であるため、植物にとっては体支持や外的から身を守る重要な構成成分です。しかし、バイオマスの利活用の観点からすると処理・利用が大変困難な不純物で、多くのバイオマス利活用に必要な糖を得る工程の妨げとなっています。安価に 糖を得るための技術の開発が強く望まれているものの、リグニンの影響を減らす「糖化前処理工程」の低コスト化に関しての課題は未だ多く、現在、バイオマス利活用の促進に向けて様々な研究開発が行われているところです。

そうした中、愛知県産業技術研究所においても植物系バイオマスの糖化前処理工程の新たな開発を行っております。一般に植物系バイオマス中の目的成分は疎水性でそのままでは水への親和性・分散性が悪く、糖化の反応が進行しません。そこで疎水性の植物系バイオマスを処理し、親水性・分散性の改善による糖化効率の向上を図っています(図2)。
 

図2 糖化前処理前後の植物バイオマス
(水:固形分=99:1)
a 未処理のセルロース(水に分散しにくい)
b 処理後のセルロース(水への分散性向上)
c 未処理のスギ(水に分散しにくい)
d 処理後のスギ(水への分散性向上)
この様に親水性・分散性の向上した植物バイオマスは糖化等成分の低分子が容易になることから、地産地消型バイオマス利用の拡大に効果があるものと期待されます。