紫黒米とそれを利用した発酵食品の開発
愛知県産業技術研究所  記事更新日.09.03.02
食品工業技術センター
■問合せ先
〒451-0083 名古屋市西区新福寺町2丁目1番の1
TEL 052-521-9316  FAX 052-532-5791
http://www.aichi-inst.jp/kenkyujo/shokuhin.html

1.紫黒米(しこくまい)について

紫黒米は、ぬか層にアントシアニン系色素を含む「有色素米」に属する米です。有色素米とは、玄米の表面が赤、濃い紫、緑色した米のことで、古代に栽培されていたという説から、「古代米」とも呼ばれます。有色素米は、タンニン系色素をもつ赤米とアントシアニン系色素をもつ紫黒米、クロロフィル系色素をもつ緑米に分けることができます。国内の有色素米品種では、色素はすべてぬか層にあるため、精白すると白くなりますが、東南アジアには胚乳内部まで着色する品種も存在します。

近年、有色素米は、鉄やカルシウム、ビタミンが豊富に含まれているため健康食品としても注目されて、地域活性化食材として期待されています。愛知県農業総合試験場山間農業研究所では、山間地域の水稲を利用した地域特産物を開発しており、その一つとして紫黒米の糯(もち)米品種の改良を行ってきました。その結果、「イ糯413」を母とし、「朝紫」を父として、人工交配された後世代から7年間の育成試験を経て「中部糯114号」が選抜されました。中部糯114号は、多収穫性でアントシアニンを多く含む品種であり、現在、「峰のむらさき」として種苗登録を申請しています。
 

2.紫黒米を用いた発酵食品の開発

愛知県産業技術研究所食品工業技術センターでは、紫黒米(中部糯114号)の性質をより良く生かし、かつ多量に使用できる食品の開発を目的として、紫黒米を用いたみりんと米酢の開発に取り組みました。

(1)赤色みりん
みりんは、糯米を主原料とする日本固有の甘味調味酒類です。そのまま調味料として使われるほか、蒲焼のたれやめんつゆの原料として使用されます。愛知県は伝統的なみりんの一大産地です。中部糯114号は糯米品種であることから、糯米が主原料で造られるみりんへの利用が適していると考えられました。酸性で鮮やかな色を呈するアントシアニンの性質を生かす製造方法を研究し、「赤色みりん」を開発しました(特開2007-110959)。アントシアニン由来の抗酸化作用が赤ワインと同程度の機能性みりんです。赤色みりんは、神杉酒造(株)が「Cremisi」として製品化しています。このみりんは、料理に用いるのはもちろんのことカクテルベースやナイトキャップ等むしろ飲用にも適しています。



(2)紫黒米酢
近年は、健康食品志向から、様々な飲用酢(黒酢、果実酢等)が市場を賑わしています。紫黒米に含まれるアントシアニンは、酢のpHであるpH3付近でとても鮮やかな赤色色調を呈します。紫黒米を原料として使用すれば、アントシアニンのとても鮮やかな色調を生かせ、抗酸化能の高い、体に良い酢ができると考えられました。そこで、発酵中の退色を防ぐこと、機能性が期待できる多くのペプチド・アミノ酸を生成させることを目標として、紫黒米酢の開発を行いました。紫黒米酢には、アントシアニンによる抗酸化性はもちろんのこと、アポトーシス誘導能、血圧上昇抑制効果も確認されました。血圧上昇抑制効果については、独立行政法人 産業技術総合研究所よって紫黒米酢から4種類のアンジオテンシン変換酵素阻害(血圧上昇抑制)ペプチドが分離同定されました。紫黒米酢は、(株)三井酢店が「古代米の酢」として製品化しています。