耐酸性ニッケル−タングステン合金めっき
愛知県産業技術研究所  記事更新日.09.07.01
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(※左の画像はイメージです)

溶液中に溶解している金属を、電流を流すことにより、あるいは、化学反応により、物質の表面に析出させて金属皮膜を形成させることができます。これは一般的にめっきと呼ばれる方法ですが、金属の種類によっては析出させることができないものもあります。タングステンもその一つで、単独では水溶液中から析出しないため、タングステンめっきをする事は困難とされています。しかし、ニッケルや鉄、コバルトなどの鉄族元素がタングステンとともに水溶液中に存在すると、タングステンはこれらの元素とともに析出し、合金めっきを形成することができます。

ニッケルとタングステンの合金は強力な酸性溶液に触れても腐食に耐える力に優れていることから、ニッケルとタングステンの合金めっき皮膜も強酸性腐食環境下において高い耐食性を持つ可能性があります。そこで、ニッケルめっき皮膜中にタングステンを導入した合金めっき皮膜の作製を試み、耐酸性を評価しました。

 めっきは電気を流さずに化学反応で皮膜を析出させる無電解めっきで還元剤にジメチルアミンボランを用いた「無電解ニッケル−ホウ素めっき」を基本とし、このめっきの溶液中にタングステン酸ナトリウムを添加しました。タングステン酸ナトリウムを加えると金属塩の濃度が高くなり沈澱が発生することからタングステン酸ナトリウムを加えた分、めっき浴成分の硫酸ニッケルを減らして金属塩の濃度が変わらないようにしました。

めっきの析出速度は、めっき前後の質量を測定し、その差から単位時間、単位面積あたりの析出質量(mg/cm・h)を算出して求めます。析出速度は、タングステンの入ってない無電解ニッケルめっきではおよそ2mg/cm・hを示していましたが、タングステン酸ナトリウムを加えることにより最大で約4 mg/cm・hを示しました。しかし、タングステン酸ナトリウムの割合を増加させると析出速度は急激に低下しました。


皮膜の組成分析は、タングステン、ホウ素について誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP)により測定し、残りをニッケルとして重量%で計算しました。その結果、タングステンは最大で約30wt%になりました。ホウ素は無電解ニッケル−ホウ素めっきでは約3〜4wt%でしたが、皮膜にタングステンが入ってくるのに伴って減少しました。

 耐酸耐食性については、ステンレス鋼板上に無電解ニッケルめっきを施した試験片を濃硝酸に所定時間浸漬し、浸漬前後の質量を測定して、浸漬時間と減少量から評価しました。比較のため耐酸耐食性に優れるニッケル基合金のインコネル601についても同様に試験を行いました。濃硝酸への浸漬における試験片質量の減少速度は、無電解ニッケルめっきでは非常に高いのに対し、インコネルには及ばないものの無電解ニッケル−タングステン合金めっきでは低くなり耐食性の向上がみられました。(下図)

以上の結果より、酸浸漬試験では皮膜中にタングステンを多く含む無電解ニッケル−タングステン合金めっきは高い耐食性を示すことがわかりました。高耐食性の必要な機械部品への利用が期待できます。また、タングステンは産出量が少ない稀少金属でありますが、すべてタングステン合金で作るのと比較して、合金めっきによって全体の使用量を減らせることができ、省資源に有効と考えられます。