食品工場における微生物汚染の迅速測定法とアレルゲン清浄度の確認への応用
愛知県産業技術研究所  記事更新日.10.09.01
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食品の製造現場における機械類、器具類の洗浄は微生物汚染の防止だけでなく、食物アレルギーの原因物質であるアレルゲンのコンタミネーション(汚染)防止の観点からも重要な作業のひとつです。
微生物とアレルゲンとでは直接測定する方法は異なりますが、洗浄不良のために残存している物質という点は共通と考えられます。このため、汚れの種類を区別せずに評価して清浄であることが確認できれば、微生物、アレルゲンのいずれに対しても清浄であると考えることが可能です。最近、微生物汚染の測定に活用されてきたATP法がアレルゲンなどによる汚染防止にも活用されるようになってきました。

■ATP法による微生物測定の原理と特徴
 

ATP法はホタルが発行する原理を応用したもので、生体中に存在するアデノシン三リン酸(ATP)とルシフェリンに酵素(ルシフェラーゼ)を反応させると発光することを利用しています。

この発光量を測定することでATPの量を数値化することができます。各メーカーから検査に必要な試薬や器具をひとまとめにした検査キットが発売されており、これを用いれば簡単に測定ができます。発光に要する時間は数十秒から数分であり、ハンディタイプの測定器を用いれば現場で測定し、製造現場での作業にすぐに反映させることができます。
ATPは微生物だけでなく、動植物中にも存在しているため、そのままでは微生物由来のATPと食品原材料由来のATPを区別することができません。しかしながら、微生物以外のATPを除去する試薬がセットとなっている検査キットや、大腸菌群など特定の微生物の存在だけを測定可能な検査キットも市販されていますので、検査の目的に応じて選択して使用することができます。

■洗浄不良の確認への応用
 

汚染微生物由来のATPと食品原材料由来のATPを区別しないで測定した場合、微生物汚染だけでなく、食品原材料や食品残渣なども含めた総合的な汚染状況を測定することになります。洗浄不良により食品原材料や食品残渣が付着したままの場合、洗浄直後には微生物菌数が少なくても数時間後には微生物が増殖していることもあるため、洗浄不良を把握できるATP法は、微生物が増殖する潜在的なリスクの発見を手助けすることができるといえます。

■食物アレルギー対策への応用
 

洗浄不良の確認と同様の考え方を応用し、製造現場における食物アレルギー対策に役立てようとする研究が進められています1)
製造現場におけるアレルゲンのコンタミネーション防止を目的として検査をする場合、日常の検査ではできるだけコストと手間を省きたいものです。
そこで、アレルゲン自体を測定するのではなく、洗浄不足で残存する微生物や食品原材料等由来の物質を測定することでアレルゲンを含む全体の汚染状況を確認することが可能と考えられます。これは清浄度が極めて高ければ、当然アレルゲンも除去されているという考えに基づいています。食品の種類にもよりますが、ATP法は洗浄不足で残留した食品の検出にも有効なため、ATP法で汚染が確認できればアレルゲンも残留していると考えられます。
ATP法のほかにも、タンパク質やデンプンの検査キットが適する場合があります。どのような食品を扱っている工場かによって汚染原因となる物質は異なるため、こうした方法によりアレルゲンのコンタミネーションの確認を行う場合は、 製造現場の状況に応じて汚染物質の検出が適切に行える検査キットを選択する必要があります。


参考文献 1) 月刊HACCP 2009年12月号 p.25