乳酸菌による食品の腐敗変敗現象とその対策について
食品工業技術センター 記事更新日.13.01 .04
あいち産業科学技術総合センター
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■乳酸菌について
乳酸菌は我々の身のまわりに多く存在し、糖から50%以上の乳酸をつくる微生物の一群と定義づけられています。乳酸菌はヨーグルトを製造したり漬物を美味しくする馴染み深い微生物ですが、現在は類縁種も含めて28もの種に分類されています。 乳酸菌は我々にとって大きな利益をもたらしているのですが、流通中の食品で増殖すると、思わぬトラブルになることがあり、毎年当センターへ多くの相談が寄せられています。
■乳酸菌によるトラブル事例
事例1)甘酢ショウガ漬(ガリ)の漬汁が濁って臭いがする
寿司に付いてくる漬物として甘酢ショウガ漬(ガリ)があります。甘酢ショウガ漬は通常は酸味があるため、加熱殺菌しなくても低温保存すれば流通できるはずです。しかし、調味液に含まれているわずかな糖やクエン酸を乳酸菌が発酵し、不快臭が生じてクレームになる事例です。対策としては脱塩した材料への汚染を阻止すること、調味液中の酸の種類を変えるなどの措置が有効です。
事例2)キムチ(容器包装)が膨れている
キムチも加熱しない食品のため、乳酸菌が増えすぎてこのような事例となることがよくあります。海外からキムチを輸入するとき、容器の膨張を防ぐため、詰める前にキムチを発酵させてガス抜きをしているものもあります。夏場に気温が35℃以上になると、Leuconostoc mesenteroides、Lactobacillus brevisなどのヘテロ発酵型(乳酸のほか、エタノール、炭酸ガス等を生産)の乳酸菌が爆発的に増殖することがあります。特にLactobacillus brevisは酸を消費するため、糖が少なくても増殖してしまうことが厄介です。そのため食品業界では、「暴れん坊乳酸菌」として問題になっています。現状対策としては、低温管理が一番有効です。
事例3)冷凍食品に酸味の強いものが発生
スープ、煮込み料理などの製品を釜で大量に煮込み、冷却している間に乳酸菌(生育が速いタイプ)が混入(二次汚染)し、酸味が発生したものです。冷凍食品はレトルトよりも風味が優れていますが、煮込んでから冷凍するまでに相当の時間がかかるため、包装してから加熱殺菌しない製品では、品質管理には細心の注意が必要な事例です。  
以上、食品流通中に乳酸菌が増殖してトラブルを引き起こす事例をご紹介しました。乳酸菌は野菜、果実などのほか、多くの食品の原材料に付着しているため、これを排除することは非常に困難です。しかも乳酸菌は日持ち向上剤(保存料)に抵抗性を示すものも多く、非加熱で生育制御することは大きな課題の1つになっています。食品全般が低食塩化(薄味)になったこと、美味しさを求めるため非加熱で、ready to eatな製品が増加していることから、流通途中などで乳酸菌が増えてしまう機会は増えていると推察されます。
■対策方法
製造現場(品質管理室など)でこれらの腐敗変敗をおこす乳酸菌を検知する方法について示します。日ごろ製品の微生物管理としては、生菌数、かび酵母数、大腸菌群などの菌数検査が多くの現場で実施されていますが、一部の乳酸菌は生菌数として計測できない場合があります。これは乳酸菌の中には糖をはじめ、脂質、ミネラルなど種々の栄養成分を生育に必要とするものがあり、生菌数の計測で使用する標準寒天培地では十分生育できないためです。標準寒天培地はグルコースを0.1%しか含みませんが、乳酸菌用の培地であるMRS寒天培地はグルコース2%のほか、乳酸菌の生育に必要な成分を含みます。そのためMRS培地では乳酸菌は大きなコロニーを形成します。MRS培地以外にも多くの乳酸菌専用培地が市販されています。
培養法以外に乳酸菌汚染の検査手段として、生産物(酸や臭いの発生)で乳酸菌の生育を判断する方法もあります。高速液体クロマトグラフ(HPLC)があれば乳酸、臭い成分の検出が可能です。  
当センターでは、このような食品の乳酸菌による腐敗変敗についてのご相談、依頼分析を受け付けています。