「花酵母」を活用した新たな地域食品の開発
食品工業技術センター 記事更新日.13.11
あいち産業科学技術総合センター 
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花や果実、葉など植物から分離・培養される酵母を使って、地域色にあふれた魅力ある新商品を開発しようという取組が全国で行われています。東京農業大学の研究に端を発するこうした酵母は、花等を起源とすることから“花酵母” と呼ばれています。この花酵母を活用して食品を製造することで、商品に華やかなイメージやストーリー性を付与することができ、また、通常の食品製造用酵母とは異なる風味が得られる可能性もあります。これまでに、やまぐち・桜酵母(山口県)、ナラノヤエザクラ酵母(奈良県)、サクランボ果実から分離された酵母(山形県)、くちなし酵母(高知県)等、多くの活用事例が生まれています。
ここでは、当センターが取り組んだ事例について紹介します。
 

■清酒の開発
花酵母の活用事例の多くは清酒です。
本県では、地域の経済団体と酒造メーカーが協力して、知名度のある観光資源の花から分離した酵母でお酒を醸し地域おこしを図った取組など、以下の4事例について当センターが技術サポートを行いました。これらはいずれも純米酒です。  

商品名 花酵母の起源 酒造メーカー
「おおぐち」 大口町の五条川桜 勲碧酒造(株)
「藤華」(ふじのはな) 江南市曼陀羅寺公園の藤 山星酒造(株)
「なごみ桜」 名古屋大学構内の八重桜 盛田(株)
「華名城」(はなのしろ) 名城大学農場内のカーネーション 原田酒造(資)





花酵母を清酒に利用する場合は、通常、育種という改良操作を行い、酵母のアルコール生成能や香気成分の生成能を高めた上で使用します。その場合でも、花酵母で醸造した清酒は従来の清酒とは異なる酒質を呈することが多く、当センターが支援した商品においても、清酒というよりワインや梅酒に近い風味を持つものがあります。
このような酒質は、純米酒や吟醸酒など、酒造メーカーが競い合い、高め合ってきた、いわば“正統派”の清酒とは大きく方向が異なりますが、清酒に馴染みの薄い若い世代からは、「口当たりが良い」、「ワインのような味でおもしろい」、「清酒独特の香りが少なく飲みやすい」等の高い評価を得ており、従来の清酒の枠を越えた新しいタイプの清酒ということができます。

■パンの開発

パン製造における酵母の役割は、酵母が生成する炭酸ガスでパン生地を速やかに膨張させ、パンに特有の香ばしい風味を与えることです。このため、発酵による炭酸ガス生成能がパン用酵母として最も重要な特性といえます。
県内各地の花から分離した酵母のうち、優れた炭酸ガス生成能を示す14株を用いて、食パンや菓子パンを試作したところ、すべての株で市販のパン酵母で作ったパンと比べて、大きさや外観にほとんど差がありませんでした。
また、官能試験による味と香りについても同等の評価が得られました。







■付加価値の高い地域食品の開発に向けて

花酵母は、花等から分離した酵母であり、花そのものではありません。従って花酵母を使用したからといって起源となった花の香りがするわけではなく、また、すべての花から確実に酵母が分離できるとも限りません。仮に分離できた場合においても、その性質は様々で、期待どおりの特性を持った酵母を取得できる可能性は高くありません。
しかしながら、麗しく可憐な花々や著名な観光名所の花木を起源とする花酵母は、消費者にわかりやすく、かつ強い訴求力を有しており、食品メーカーや地域の経済団体にとって、大変魅力的なツールであるといえます。
当センターでは、これまで蓄積した微生物利用技術を活用して付加価値の高い地域食品の開発を支援し、地域産業の振興を図って参ります。