プリンターの高性能化、低価格化に伴い、ものづくりの現場においてもプリンターが積極的に活用される時代になってきました。現在注目されている3Dプリンターは、パソコンの中で設計された図面から断面形状を積み重ねることで立体モデルを容易に作製することができます。様々な分野での応用が考えられる3Dプリンターの出現は、ものづくりの形態を大きく変えようとしています。一方、私たちが日常使用しているプリンターのひとつであるインクジェットプリンターもものづくりの分野へ利用するためにいろいろな試みがなされています。そのひとつに、従来、複雑な工程で作製していた配線基板や電子回路などをインクジェットプリンターを利用して作製する試みがあります。
配線基板などに利用される回路パターンをインクジェットプリンターを用いて作製するための一般的な工程は図のように表すことができます。まず、銀などの金属のナノレベル(百万分の1ミリメートル)の微粒子を合成し、この微粒子を溶液に分散させることでナノインクと呼ばれるものを調製します。均一なインクを調製するためには、金属ナノ粒子の表面を有機系の表面処理物質で覆うことで溶液中での分散性を高めることが必要不可欠になります。調製したナノインクは、通常のインクと同様に直接プリンターに導入して、パソコンで作製した回路パターンなどの印刷に使用します。印刷する基材はPETフィルムなどのフレキシブルな基材を用いることが多く、必要に応じて基材表面にインクとの親和性を高めるための処理を施すこともあります。調製したナノインクを用いてインクジェットプリンターで印刷された回路パターンは、そのままの状態では導電性はありません。導電性を発現させるためには、金属ナノ粒子の表面を覆っていた表面処理物質を除去するための焼成処理が必要です。一般的には、百数十度以上の熱処理を数十分間行うことで表面処理物質が除去され、金属ナノ粒子同士が接触して導電性が得られます。この一連の工程を経て回路パターンが完成します。
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