放射率について
常滑窯業技術センター 記事更新日.15.09
あいち産業科学技術総合センター 
■問合せ先
〒479-0021 常滑市大曽町4丁目50番地
TEL0569-35-5151 FAX0569-34-8196

1. はじめに
熱を持った物体に近づいたとき、触れてもいないのに熱を感じることがあります。これは熱を持った物体から熱線(赤外線)が放射されているからであり、熱エネルギーを持った物体であれば常に起こっている現象です。しかし赤外線を放射しやすい有機物やセラミックスのような物体もあれば、金属のような放射しにくい物体も存在します。この放射具合を表す指標として放射率が定義されており、様々な分野で活用されています。放射率は光の反射率や吸収率と強く相関しており、温度平衡状態の場合ではエネルギーの保存則の関係から放射率と吸収率は等しくなります。つまり、光を吸収しやすい物体ほど放射率が高い傾向があるため、熱を逃がすための放熱材料としてよく使用されています。

代表的な使用例としてはスペースシャトルの先端部があげられ、高い放射率と高い耐熱性をもった塗料を用いることで、大気圏突入時に機体の温度上昇を防ぐ役割を果たしています。逆に放射率が低い物体に関しては、反射率が高いため熱線反射材料として用いられており、熱線を防いで高温から内部を守る消防服に応用されています。

また最近では、快適な住宅環境を設計するため放射に注目した空調システムも登場しています。これはトンネルの中と外を比べた時、外気温がほとんど変わらないのにトンネル内の方が涼しく感じる現象を基に設計されており、熱線を壁面に吸収させることで快適な環境を作っています。対流を伴うエアコンのような空調では温度ムラや気流、騒音が不快感を与えるのに対し、放射を利用した空調ではそれらの問題を大きく改善することができます。今回、様々な分野で注目を集める放射率の測定法について紹介します。

図1 代表的な紡糸法(イメージ図)

2. 放射率の原理   
放射率は全ての光を吸収する完全黒体を仮想的に定め、それを基準に算出されます。上記でも触れましたが、温度平衡状態の場合では光の吸収率と放射率は等価であるため完全黒体はあらゆる物質よりも多く放射することができます。完全黒体が放射する赤外線の量(分光放射発輝度)はプランクの式から導くことができ、赤外線の波長と温度によって決定されます。しかし実際の物体は完全黒体に比べて放射できる赤外線量が少ないため、完全黒体との比を求めこれを放射率と定めています。このうち、特定の波長を比較したものを分光放射率と呼び、全放射量を比較したものを全放射率と呼んでいます。

図2 当センター湿式紡糸機の概要

図2 当センター湿式紡糸機の概要

3. 分光放射率の測定 
完全黒体は仮想的な物体のため、測定には完全黒体に近い特性を示す黒体炉を使用します。まず黒体炉の温度を調整し、黒体炉内の放射エネルギーを分光光度計によって測定します。次に測定試料の放射エネルギーを同様に温度調節し、測定後に比を算出します。しかし、試料の表面状態や表面温度に強く影響を受けてしまう問題があるため、正確な値を算出するためには表面を滑らかにすることや試料表面の温度管理が重要となります。特に表面温度の管理は重要であり、黒体炉の温度と正確に一致させることが必要です。

そこで試料表面に熱電対を設置する手法や放射温度計を用いて表面の温度を管理します。しかし放射温度計を用いる場合では、金属のような低放射率材料の温度を正確に測ることができないという問題があります。その場合には、全放射率が極めて高い黒体スプレーを試料半面に塗布することで解決しています。これらの条件を解決した後、試料の放射エネルギーを測定して分光放射率を求めます。

図3 繊維断面拡大図(左)、ボビン巻繊維(中)、試作フェルト(右)

4.全放射率の算出
全放射率とは完全黒体と試料の全放射量を比較したものです。黒体炉は完全黒体の近似品ですので、より正確な全放射率を算出するためには完全黒体の全放射量と比較する必要があります。よって、試料の分光放射率を完全黒体の分光放射輝度に乗じ、得られた試料の分光放射輝度から全放射量を算出することでより正確な全放射率を求めています。

図3 繊維断面拡大図(左)、ボビン巻繊維(中)、試作フェルト(右)