電波暗室における電子機器のEMC試験について
共同研究支援部

記事更新日.16.05

あいち産業科学技術総合センター 
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電子機器を動作させると回路部分から電磁ノイズが発生し、空中や配線を伝わって他の電子機器に入り込んで誤動作を引き起こすことがあります。身近なところで一例を挙げると、ラジオをつけた状態で照明機器や電子機器のスイッチを入れるとラジオ放送に雑音が入り、放送が正常に受信できなくなることがあります。
これは電子機器が無線LANや携帯電話のように意図的に電磁波を出しているものではなく、電子機器の本来の動作をさせようとした際に意図せず不要な電磁波が発生するためです。 また、誤動作を起こす原因は他の電子機器から発生される人工的な電磁ノイズだけではありません。静電気や雷といった自然現象により発生する電磁ノイズが誤動作を引き起こすこともあります。

このように「電子機器から発生した電磁ノイズが他の電子機器に障害を与える現象」をEMI(Electro Magnetic Interference:電磁妨害)と呼びます。これに対し、「他の電子機器が発した電磁ノイズを受けた時の、電子機器が持つ本来の性能への影響の受けやすさ」をEMS(Electro Magnetic Susceptibility:電磁感受性)といいます。
電子機器から発生する電磁ノイズが、他のどのような機器、システムに対しても影響を与えず、また、他の機器やシステムからの電磁ノイズを受けても自身も本来の性能を維持する耐性能力を電磁両立性(EMC: Electro Magnetic Compatibility)といいます。

このため、電子機器を設計・開発する際には、他のどのような機器やシステムに対しても影響を与えないように発生する電磁ノイズを抑制する対策と、また、他の機器やシステムからの電磁ノイズを受けても自身も本来の性能を維持する耐性を持つよう耐ノイズ対策を同時に行うことが求められます。  

EMCに関する試験は電波暗室という特殊な環境の部屋で行います。一般的な部屋の環境においては、ラジオをはじめ携帯電話や地上デジタル放送など様々な電波が飛び交っており、また、壁などで電磁波が反射して干渉するので、正しい評価ができないためです。かつてはオープンサイトと呼ばれる屋外の測定設備で測定が行われておりましたが、最近では電波暗室で行うことが主流です。電波暗室の外側は金属などの導電性の材料で遮へいすることで外部からの電磁波の影響を受けず、内部からも電磁波が漏れないようになっています。また、内側は電磁波が壁や天井で反射しないように電磁波吸収体で覆い、床面は金属で電磁波が反射するようになっており、無限の大地の状態を模擬しています。電磁波吸収体には、ウレタンや発泡スチロールに炭素粒子を混ぜ込んで導電性を持たせたものやフェライトを材料としたものが使われます。

あいち産業科学技術総合センターでは、電波暗室とEMCに関する試験機器を整備しており、電子機器から空中に放射される電磁ノイズや電源線から伝わる電磁ノイズの測定を行っています。また、電波暗室内に一定の電界強度を擬似的に与えることで、他の機器から空中に放射されたノイズや電源線から入ってくる電磁ノイズによる電子機器の誤動作確認試験および、静電気や雷サージへの耐性を確認する試験も実施できます。  
EMCに関する測定や試験の方法については、国際的に決められた方法や各国で独自に決められた方法により行われます。機器の種類によって要求される試験内容が異なることもあります。  
当センターにおける電磁ノイズの測定の様子を図1、図2に示します。アンテナと電子機器の間は3mの距離で測定が行えるようになっています。

測定の結果が基準値を超えたり、誤動作が起きた場合は対策を行います。対策方法としては、フェライトコアやフィルターといったノイズ対策部品を使用したり、基板の回路パターンや部品配置を見直ししたり、筐体設計を変更するといった方法が採られます。

最近では、電子機器のデジタル化、小型化やネットワーク化が進んでいます。これらにより回路基板の高密度化や、信号の高周波化により、電磁ノイズの影響を受けやすくなっているため、EMC性能確保の重要性はますます増しています。

(参考文献) 山田和謙、池上利寛、佐野秀文著:EMC入門講座−電子機器電磁波妨害の測定評価と規制対応,(2008),電波新聞社