炭窒化チタンサーメットを用いたアルミニウム押出ダイスの開発
瀬戸窯業技術センター

記事更新日.16.07

あいち産業科学技術総合センター 
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1. はじめに
アルミニウムは、比強度が高く耐食性に優れるなどの特性を有することから、生活用品、自動車、船舶、航空機の構造用部材や熱交換器用の多穴管等として広く使われています。市場に流通しているアルミニウムの展伸材料は、ダイスと呼ばれる金型を用い、押出や圧延などの熱間加工、または熱間加工に引き続いて冷間加工を施して生産されています。既存のダイスの材質は、アルミニウムとの親和性がある材料であるため、アルミニウムがダイス表面に付着し、押出時に付着したアルミニウムによって製品に傷がつくことや、ダイス表面についたアルミニウムを除去する作業が煩雑であることから、アルミニウムが付着しにくいダイスの開発が求められていました。

あいち産業科学技術総合センター瀬戸窯業技術センターでは炭窒化チタン(TiCN)に注目し、企業と共同で新規アルミニウム押出ダイスの開発を行いました。


2. 新規炭窒化チタンサーメット

炭窒化チタンはレアメタルであるタングステンの代替材料としても使用され、金属との濡れ性が一般的に低いため、切削工具として仕上げ切削に有効であるといわれています。しかし靭性に乏しく、それを改善するために金属材料を加えたサーメットとして使用する必要があります。図1に炭窒化チタンサーメットの電子顕微鏡写真を示します。骨格となる灰色の相が硬質材で、主に炭窒化チタンや炭化チタンが使用されます。その周りの硬質材を繋ぐ白い相が結合材で、各種金属材料を添加することで、靱性、熱伝導性、耐摩耗性、金属との濡れ性等、各種特性を変化させることができます。

一般的な炭窒化チタンサーメットは工具に使われ、曲げ強さ、靱性、耐摩耗性を付与するために結合材を添加します。しかし、機械的特性を改善するために多くの結合材が必要となるため、アルミニウムとの親和性が高い金属材料が増えることになります。このため、既存の炭窒化チタンサーメットのままではアルミニウムが付着しやすくなり、大きな改善には至りません。ただし、結合材の添加量をただ減らすだけでは硬質材を繋ぐ材料が足りなくなるため、空隙ができてしまい、求められる機械的特性を得ることができません。そこで、結合材の量が少なくても空隙ができないように緻密に硬質材を配置させ、曲げ強さと靱性を持たせやすい硬質材の粒度と形状を検討しました。さらに、結合材の添加量を最少量で靭性を改善できるような金属材料を調製することで、アルミニウムが付着しにくい新規炭窒化チタンサーメットを開発しました。 図2に従来の炭窒化チタンサーメット(既存品)と開発品の炭窒化チタンサーメットを溶融したアルミニウムに15分浸漬後取出し、冷却後に手でアルミニウムを除去した写真を示します。既存品では手でアルミニウムをほとんど除去することができないほど固着しているため、グラインダーにより機械的に除去するか、アルカリ溶液により処理しなければなりません。開発品はアルミニウムが付着しにくいため、覆ったアルミニウムであっても手で簡単に剥がすことができ、除去作業を容易にすることができました。

図3に既存材料(既存品)及び炭窒化チタンサーメットで作製した開発品のダイスによるアルミニウムの押出試験の結果を示します。既存品はアルミニウムがダイスに付着しやすいことで発生する線状の傷(ダイライン)がはっきり観察できたことに対して、開発品はダイラインの発生を抑制することができました。

今後も瀬戸窯業技術センターでは、地域の企業の方々の新技術開発、新分野進出を積極的に支援していきます。