プラスチック製品開発におけるCAE技術について
産業技術センター

記事更新日.18.03

あいち産業科学技術総合センター 
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1.はじめに 

近年、製品開発のスピード化が進み、高付加価値で複雑な形状の製品をいかに効率よく生産するかという課題に対応するためCAE技術が活用されるようになりました。
CAEとはComputer Aided Engineeringの頭文字をとったもので、実際にものを生産する前にコンピュータを利用して、金型や製品の設計、構造解析などを行い、製品生産の最適化を図る技術のことです。このシミュレーションにより、開発期間と開発コストの削減、試作回数の削減が可能であるため、CAEは製品開発に重要な技術となっています。


2.プラスチックの製品開発におけるCAE 

プラスチックの製品開発においてもCAEは欠かせません。過去には成形トラブルの原因究明とその対策をCAEにより行っていましたが、現在では試作前にシミュレーションすることで成形不良を予想して事前に対策を施す役割を担っています。 プラスチック製品の製造技術で最も利用されている射出成形においては、射出成形CAEを用いて表1に挙げる項目を主に検討します。


注1〜3):射出後、溶融した樹脂は金型内の流路(スプルー、ランナー)を通り、成形品 となる空洞部分へ流入口(ゲート)から流れ込みます。ゲートを複数箇所設ける場合、ランナーやゲートの形状や寸法のバランスをとることで、例えば溶融した樹脂が合流する部分で形成されるV字溝(ウェルドライン)を軽減し、外観不良や強度不足を防ぎます。
実際の射出成形シミュレーション解析のフローを図1に示します。

まず製品のSTLデータ(三次元形状のデータを保存するファイルフォーマットの一種)等から解析モデルにするためメッシュ分割を行います。このメッシュ一つ一つは計算格子となるため、メッシュの精度は解析精度に大きく影響します。次いで、このモデルに対して樹脂を流すためのランナー・ゲート、成形品を冷却するための「冷却管」を設計します。

最後に、作成したデルに充填・温度・保圧・冷却条件を入力して射出成形をシミュレーションし、成形品を解析、評価します。成形品の寸法やそり変形、ウェルドライン、繊維配向、あるいは温度や樹脂の流れ方を、条件を変えて繰り返し解析することで、目的の製品に近づけていきます。一回の解析時間は数十分程度であるため、金型修正などの手間を削減し、より完成に近い状態から実際の成形を行うことが可能です。


3.射出成形CAEを用いた解析事例 

解析の中では、例えば、繊維強化樹脂でのそり変形抑制や寸法精度に対する含有繊維の効果をみることができます。

図2は炭素繊維で強化されたポリアミド6(PA6)の射出成形後の画面方向へのそり変形を要因解析した例です。通常、そり変形は(1)樹脂のPVT収縮(温度・圧力分布に起因する収縮)、(2)材料異方性、(3)金型温度、(4)形状、により発生するとされます。図2中Aはすべての要因が考慮された状態で、どの要因が一番影響しているか判断することができません。そこで、(1)PVT収縮(図2中 B)、(2)材料異方性(この場合は炭素繊維による異方性)(図2中 C)を除いて解析したところ、PVT収縮はほとんど影響がありませんが、材料異方性を除外すると成形品が大きく変形することが分かります。

このことから、含有繊維によってそり変形が抑制されていることが分かります。

また、成形品中に含まれる繊維が成形品の寸法精度に及ぼす影響を検討することもできます。
図3は成形品中に含まれる繊維のアスペクト比(長さと直径の比)や繊維含有率による成形収縮率(図2中のX、Y方向)の変化を解析した例です。繊維のアスペクト比が大きくなっても成形収縮率はほとんど変化しませんが、繊維含有率が高くなるにつれて特にX方向で成形収縮が抑制され、高い寸法精度が保持できることが分かります。この指標は、要求される寸法精度を満たすためにはどれくらいの繊維重量を含んだ樹脂材料を選択すればよいかという目安になります。

4.おわりに

射出成形CAEでは、成形時の様々な現象を多面的に解析できます。実際の射出成形で起こる現象を精度よく捉えるにはまだまだ課題はありますが、目に見えない樹脂の挙動を視覚的に捉え検証することが可能なことから、製品開発のスピードには不可欠なツールになりつつあります。