CFRP製安全帽の開発
尾張繊維技術センター

記事更新日.18.09

あいち産業科学技術総合センター 

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1.はじめに 

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、炭素繊維を強化材とし、母材にプラスチックを用いた複合材料です。高い強度と軽量性を併せ持つことから、航空分野・自動車分野などにおいて金属の代替材料としての使用が拡大しています。
中でも、炭素繊維の織物、組紐などのテキスタイルを基材としたCFRPであるテキスタイルコンポジットが最近注目を集めています。テキスタイルコンポジットは自動化に適している、賦形性に優れるなどの利点があり、CFRPの生産性や性能向上が期待されます。
尾張繊維技術センターでは、これまでに編物(ニット)を基材としたCFRPの開発に取り組んできました。通常では炭素繊維のような剛性が高い材料は、曲げや摩擦によって繊維の損傷が激しく、編成することができませんでしたが、当センターでは炭素繊維を他繊維でカバリングし保護することで、編成を可能とする技術を開発しました。
今回、この技術を活用して無縫製編み機を用いたCFRP製の安全帽の試作を行いましたので、その内容について紹介します。


2.カバリングによる炭素繊維の保護 

カバリング糸にはナイロン仮撚加工糸を用い、カバリング糸を2方向に巻き付けるダブルカバリングの構造としています。これにより、曲げや摩擦に対してカバリング糸のズレが少なくなり、炭素繊維の編成性が向上し、炭素繊維の毛羽(けば)・粉じんの発生が抑えられます。カバリングした炭素繊維を編み機で編成したところ、炭素繊維を折損なく編成することができました。



3.CFRP製安全帽の試作

CFRPの基材には炭素繊維を一方向に並べたり、織物のようにシート状にしたものが主として用いられますが、安全帽のような曲面形状に対しては、シワや繊維のヨレなどが生じてしまいます。一方、無縫製編み機はパーツを縫い合わせることなく、繊維を目的とする立体形状に直接編むことができるため、立体形状を有する炭素繊維の基材を簡易に製造することできます。
そこで、カバリングした炭素繊維を無縫製編み機で、安全帽の形状に編成しました。頭頂部にかけての曲面や帽体のツバとなる部分も、カバリング炭素繊維の折損なく、金型の形状に合わせて編成することができています。  
また、カバリング糸に用いたナイロン糸は熱をかけることで溶融するため、熱プレスによりナイロンをマトリックスとした熱可塑性CFRPを成型することができます。温度・圧力などの成形条件を検討し、ヘルメット形状に編成した炭素繊維の熱プレス成型を行った結果、炭素繊維の折損もない、CFRP製の安全帽を成型することが可能となりました。成形した安全帽は外装に植毛をほどこし、デザイン性や手触りにも優れた試作品に仕上げました。従来品に比べて軽量であることから、児童や高齢者等が日常的に使用できる安全帽としての展開を検討しています。

4.おわりに

無縫製編機は、繊維を目的とする立体形状に直接編成できるため、簡易に低コストで立体形状のCFRPを製造することができると期待されます。
当センターでは、テキスタイルコンポジットに関する研究を行うとともに、関連する技術相談を行っております。お気軽にご相談ください。  
なお、本研究の一部は公益財団法人科学技術交流財団の企業連携技術開発支援事業として、和光技研工業株式会社、株式会社トレステックと共同で実施しました。