3Dプリンタの造形精度の検証及び
フィードバック補正による造形精度向上
産業技術センター

記事更新日.19.09

あいち産業科学技術総合センター 

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1.はじめに 

近年、3Dプリンタの利用によりデジタルデータを使って製品の設計や製造を効率化する取組みが広がってきています。3Dプリンタは3次元CADの設計データをもとに、薄くスライスした層を積み重ねていくことで立体物を造形する機械です。量産時のコストや生産速度では切削加工や金型を使った造形に劣りますが、中空構造など複雑な形状も造形可能で、設計データさえあれば金型等を作ることなくすぐに造形を行うことができるため、モックアップ(試作品)の作成に多く使われているほか、一品ものの特注品や少量生産品などの最終製品の製造にも利用が広がってきています。

2.3Dプリンタの造形精度の検証 

製品の製造に3Dプリンタを用いる際には、その造形精度がどの程度であるかは重要な問題となります。3Dプリンタの積層ピッチ(積み重ねる層の1層ごとの厚さ)は造形に用いる材料や3Dプリンタの機種にもよって0.02〜0.3mmと様々です。また、積層ピッチは造形精度を示しているわけではなく、造形材料の収縮や熱による反りなどの影響のため、造形物には一般に積層ピッチより大きな誤差が生じます。その誤差の大きさは造形物の大きさや形状、あるいは造形時の向きなど、様々な条件で変化することがわかっています。一例として、あいち産業科学技術総合センターが保有する3Dプリンタ(3D Systems社sPro60HD-HS; レーザ粉末焼結方式; 積層ピッチ0.1mm)で造形した造形物を3Dスキャナで測定した結果を示します(図1)。この造形物は、60mm角の立方体の一部分が欠けており、円筒形の足がついた形状をしています。



積層方向(Z方向)の誤差が他の方向と比べて大きく、造形物が設計値と比べて収縮していることがわかります。測定データから計算したところ、立方体の積層方向の面間距離の収縮は0.9mm程度でした。 なお、同様の実験は全国の公設試験研究機関において各機関が保有する3Dプリンタを用いて実施されており、積層方向の誤差が他の方向と比べて大きい傾向にあるのはほぼ共通していますが、誤差の方向(膨張しているか収縮しているか)やその大きさについてはバラつきがあることがわかっています。

3.フィードバック補正による造形精度向上

前述の実験で示したとおり、3Dプリンタの造形物には積層ピッチより大きい誤差が生じることがあります。積層ピッチより大きい誤差は、造形物の向きを変える、設計データを補正するなどの工夫によって低減できることがあります。ここでは、3Dスキャナで造形物を測定した結果からX、Y、Zの各軸方向のスケール誤差及び角度誤差、並びに測定点1点ごとの偏差を求め、設計データ上の面の位置、傾き及び面のゆがみを補正し、再度造形を行った結果を示します(図2)。


このように、造形物の測定結果から設計データをフィードバック補正し、再造形した造形物では、立方体の積層方向の面間距離の誤差は積層ピッチと同等の0.1mm程度となり、誤差が低減できたことがわかります。高い精度が要求される製品を製造する際には、こうした補正は有用と考えられます。

4.おわりに

多品種小ロットの高付加価値製品へのシフトが進むものづくり現場では、3Dプリンタの重要性が高まってきています。あいち産業科学技術総合センターでは、本部及び産業技術センターにおいて、3Dプリンタに関する相談や造形試験、3Dスキャナや接触式三次元測定機による精密測定の相談・依頼をそれぞれ受け付けています。お気軽にご相談ください。

付記 本研究は産総研地域連携戦略予算プロジェクト「3D計測エボリューション」(3D3プロジェクト)と連携して実施しました。