固体NMRによるケイ素材料の化学結合状態の分析について
共同研究支援部

記事更新日.20.7

あいち産業科学技術総合センター 

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1.はじめに 

 私たちの身の回りで使われている接着剤やハードコートなどの塗料にはケイ素化合物が使われているものが多くあります。ケイ素化合物を原料としたこれらの製品開発では、硬化時におけるアルコキシシランやシランカップリング剤による脱水縮合反応(図1)の進み具合が硬度、耐擦傷性、密着性、耐久性などの機能性に影響を及ぼすため、ケイ素の化学結合状態を測定して開発を進めていくことが重要です。

 本稿では、模擬的に作製したシリカゲルを試料として、固体NMR(核磁気共鳴法)によるケイ素の化学結合状態およびそれらの比率についての測定事例を紹介します。

2.NMRについて 

 NMR(図2)は、磁場中で試料分子にラジオ波を照射したときの共鳴周波数を測定することにより、化学結合状態や分子構造を調べることができる分析方法です。試料は薬品や農薬のような有機化合物、ビニールやポリエチレンといった樹脂材料およびタンパク質や糖などの高分子化合物、またセラミックスや粘土を始めとした無機化合物と多岐に渡り、化学、バイオ、食品、製薬と幅広い分野に応用され、有機ELやリチウムイオン電池など最先端の科学技術分野にも活用されています。



3.液体NMRと固体NMRについて 

 NMRには、試料を水やクロロホルムなどの溶媒に溶解して液体状態で測定する液体NMRと、試料を特別な処理なく固体そのままの状態で測定する固体NMRがあります。一般的に液体NMRは、固体NMRと比べてピークの線幅が狭く、高分解能スペクトルから多くの情報量を得られるため広く用いられています。しかし、固体を溶解できる適当な溶媒の選択が難しい場合や、溶解することで分子構造が変化する試料の場合は、固体NMRで測定を行います。ただし、磁場を用いて測定を行うため、磁石に引き寄せられる磁性体試料については、基本的に測定することができません。



4.測定事例について 

 アルコキシシランやシランカップリング剤の脱水縮合反応では、図3のようなケイ素の化学結合状態に着目します。測定試料は、石英ガラス、アルコキシシランであるテトラエトキシシランから作製したシリカゲル(試料@)、シランカップリング剤である3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランから作製したシリカゲル(試料A)として、これらを固体NMRで測定した結果を図4に示します。横軸の化学シフト値(基準となる共鳴周波数からのずれ)からケイ素の化学結合状態1)〜2)がわかります。また波形分離して求めたシグナルの面積(積分値)の比率がそれぞれの化学結合状態の比率となります。

5.おわりに

 本稿ではケイ素に着目した測定事例でしたが、水素、炭素、フッ素、リンなど知りたい分子構造に合わせて測定することができます。あいち産業科学技術総合センター共同研究支援部計測分析室では、液体NMR、固体NMRの依頼試験を受け付けております。お気軽にお問合せください。

参考文献

1) B.Buszewski:“Characterization of C18 chemically modified silica-gel and porous glass phases by high resolution solid state NMR spectroscopy and other physico-chemical methods”, Chromatographia, 29(5-6),p.233-242(1990)
2) K.Albert, R.Brindle, J.Schmid, B.Buszewski and E.Bayer: “CP/MAS NMR investigations of silica gel surfaces modified with aminopropylsilane”, Chromatographia, 38(5-6),p.283-290(1994)