「NBAA2007」展示会場から垣間見たビジネスジェット産業動向
記事更新日.07.12.13
小柳津彰啓
愛知県サンフランシスコ産業情報センター 駐在員
9月25日から27日にかけて、ジョージア州アトランタで、全米ビジネス航空協会(National Business Aviation Association:NBAA)の年次総会・展示会である「NBAA2007」が開催されました。総会でのセッション、展示会、実機展示場へ32000人以上が来場した今年で60回目となるこのイベントに、愛知県も昨年、一昨年に続き3年連続して県営名古屋空港ブースを出展しPRを行いました。そこで今回は「NBAA2007」会場の様子と、そこから垣間見られたビジネスジェット産業の動向について紹介します。

■ビジネスジェット業界メインプレイヤー大集合
NBAAの発表によると、今年の同イベントには過去最多の1152ブースが出展(昨年は1140ブース)。出展者の顔ぶれを見ながら巨大な展示会場をひとまわりしてみると、広大なブースに機体を展示しているエアバス社、ボーイングビジネスジェット社、ボンバルディア社、セスナ社、ダッソーファルコン社、エクリプス社、エンブラエル社、ガルフストリーム社、そしてホンダジェットで脚光を浴びるホンダエアクラフト社などのビジネスジェット製造業各社に目が止まります。

さらには、GEアビエイション社、GEホンダエアロエンジンズ社などのエンジン製造業者、エンジンのほか自動操縦装置、レーダー、航法援助装置などでも大手のハネウェル社を始めとする航空機用電子機器(アビオニクス)関連、バッテリー、窓ガラス、航空機部品のサプライヤー、座席、カーペット、レザーなど内装品関連企業が見られます。

このほか、燃料供給会社、機体の保守サービス業、航空機のディストリビュータ、運航及びマネジメント会社、エンジニアリング会社、県営名古屋空港のようなビジネス機の拠点空港、格納庫建設業者、FBO、おしぼりやヘッドセットなど機内サービス業者、ケータリング業者、救命胴衣などの装置会社、タイヤ、運搬、コンピュータシステム、ビジネスジェット機チャーター会社、素材関連、業界向け保険、金融、クレジットカード会社など、非常に多岐に渡っているのが分かります。

  
■展示だけでなくセッションも最多?
ビジネスジェット業界といっても、これだけ裾野が広く様々な分野の企業が集まっていますので、会議のセッションもやはり広範囲に渡っています。セッションは展示期間を含む1週間に渡り、様々なプログラムが組まれていました。

一例を紹介すると、非常時対応、技術者や乗務員など航空部門の人事管理、フライト全般のマネジメント、規制や最新システムの動向、オペレーション、メンテナンスなどの各種ワークショップ、ビジネス航空部門における税制・規制・危機管理、セキュリティー、保険に関するセッション、操縦士、乗務員らのトレーニング、FBOの施設やサービス及びその管理、飛行機の性能・信頼性・保守、フライトにおける健康への影響、安全基準、チャーター機、超音速機、超軽量機、プライベート機、安全管理装置、ビジョンシステム等各種装置などのフライトオペレーションに関するセッション、ビジネスジェット業界への就職を目指す学生向けのセッション、主なビジネスジェット製造業各社の機体ごとのメンテナンスとオペレーション担当者との意見交換の場、NBAAの各種委員会ミーティングと100以上にのぼりました。

  
■活況を呈するビジネスジェット業界、それもそのはず
9月25日のオープニングセッションの中で、運輸長官は技術の進歩とビジネス機売上の著しい増加を賞賛していますし、開催地ジョージア州の知事は、同州におけるビジネスジェット業界の果たしている役割について次のように述べていました。同州には同業界の500社が立地し83000人の雇用が生まれている、さらにセスナ社の施設拡張による2400万ドルの投資やガルフストリーム社の4000万ドルの投資により新たに1100人の雇用が見込まれている、と。

ハネウェル社が「NBAA2007」で発表した2007年の同業界概観によると、2007年上半期の実績では、900機以上を受注し、446機納入済(昨年同期比11%増)であることから、2007年は、最多だった昨年実績の861機を大きく上回り、史上初めて1000機を超える納入見込みで、さらに2008年には1300機に達すると予測しています。 長期展望では、欧州、アジアでの購入が大幅に伸びるとの見込みから、今後10年間で14000機、2330億ドルの売上を予測しています。

以上のように米国においては活況を呈している同業界ですが、米国は広大でインフラも整っているという理由ばかりでなく、一般旅客機の遅れや混雑から開放されること(米国では旅客機が実によく遅れます)、セキュリティー面でも安心なこと、機内でくつろげる快適さ・オフィス機能の充実を思えば、多忙な企業経営者などがビジネスジェットを利用するのもうなずける話です。

さらに、米国の場合は大都市の空港のようなセキュリティーチェックの長い列や煩わしさから開放され、小型機専用の空港もたくさんあることから目的地からも遠くなく、プライバシーも保てるとあれば需要が増すのも当然です。

■高まる機運、高まる需要、高まる日本企業の存在感
今回「NBAA2007」の会場では、出展者の日本企業以外にも、日本ビジネス航空協会(JBAA)メンバー、運航支援会社、オペレーター、商社、部品サプライヤー、記者など日本から訪れていた多くの方々にお会いしました。中には、空港におけるビジネスジェット利用促進あるいはその検討をしている他自治体駐在員及び空港担当者も来場しており、県営名古屋空港のようにブースこそ構えていませんでしたが、会場内で地元の空港をPRしつつ、来年以降の出展を検討していました。年々日本におけるビジネスジェットの気運の高まりを感じます。

日本におけるビジネス機の利用についても、今後はアジアへのビジネス機でのフライトという点から、さらに前述の迅速さ、快適さ、安全性などの理由からも需要が増してくるのではないかと思います。グローバルビジネスの進展と世界的にみられるビジネス機需要の増加、機体そのものの改良や増加からも、海外から日本へのビジネスジェットでの飛来も当然増加することが予想されます。

日本の航空宇宙産業においても、旅客機ばかりでなく、既に米国のビジネスジェット製造業者へ日本企業が主翼供給を開始するなどの動きもあるわけですが、最近では、その主翼を供給する企業が米国でのビジネスジェット機需要拡大に応じ、月間の生産量を3倍に引き上げるとの報道がありました。このように、この分野における日本企業の活躍の場も今後益々増加してくるものと思われます。

当地域は、県営名古屋空港という、簡単迅速な手続き・出入国審査、良好な都心へのアクセス、いつでも確保できる十分な発着枠を提供できるビジネス機の拠点空港が存在するというばかりでなく、航空宇宙産業の一大集積地でもあります。既に旅客機の主要部品の製造を担う当地域ですが、この世界的なビジネス機需要の高まりは、当地域の企業にとってもさらなるビジネスチャンスをもたらすのではないでしょうか。