ハノーバーメッセから垣間見るドイツのロボット産業
記事更新日.08.07.01
社本 朗
パリ産業情報センター 駐在員

現在、ロボット産業は機械工学産業分野でもっとも有望で成長する可能性がある分野の一つと考えられています。

ドイツのロボット産業は、ヨーロッパの他の国と比べて、最新の技術を持ち、洗練されたロボットを生産しているといわれています。
 
そのドイツで、4月21日(月)から25日(金)の5日間、世界最大のテクノロジー見本市「ハノーバーメッセ」が開催されました。 このメッセは様々な産業分野の見本市が同時に開催されるもので、ロボット、インダストリアル・オートメーション、エネルギーなど10種類ものテクノロジーに関する見本市が開かれました。

今回はこのハノーバーメッセ中の4月22日(火)に開催された「第1回モバイル・サービスロボット日独サミット」の内容に触れながら、世界とドイツにおけるロボット産業の現状や将来見通しについてご紹介します。

■世界のロボット産業の現況
IFR(International Federation of Robotics:国際ロボット連盟)とUNECE(United Nations Economic Commission for Europe:国連欧州経済委員会)の分類によると、ロボットは「産業用ロボット(Industrial Robots)」と「サービスロボット(Service Robots)」に分類できます。

産業用ロボットは主に加工、組立、運搬等の産業用途のものであり、サービスロボットは主に全自動あるいは半自動で人間の介護、警備、清掃、施設維持などのサービス機能を行うロボットのことです。

IFRによると全世界での産業用ロボットの出荷台数は2006年に対前年比で11%減退し、112,200台でした。産業用ロボットが主に使われている自動車産業で17%、電機・電子産業で34%の対前年比減を記録しましたが、その他の産業分野では25%の対前年比増を記録しました。

ヨーロッパについては、自動車産業分野での出荷台数(2006年)が対前年比14%減となったにもかかわらず、ロボット全体の出荷台数は対前年比11%増の31,500台という結果でした。この結果は、ヨーロッパではロボットの活用分野が従来の自動車産業分野だけでなく、金属加工、ゴム・プラスチック、食品・飲食といった産業に広がってきたことを意味しています。

また、プロフェッショナル向けサービスロボットの分野では、全世界で約40,000台(2006年現在)が稼働しています。そのうち9,000台以上が防衛、レスキュー、セキュリティ分野に配置されており、こういった分野が最もロボットを使用しています。

個人・家庭向けサービスロボットの分野では、全世界で約3,500,000台(2006年現在)が利用されています。この分野は、掃除・清掃、芝刈り、エンターテイメント、レジャーの各分野のロボット(オモチャロボット、ホビーシステム、教育・訓練ロボット含む)が主なものです。

■ドイツのロボット産業の現況
ドイツの産業ロボット市場の規模はヨーロッパの中で最大の規模を誇っています。
2006年には11,000台以上のロボットが設置され、この実績はヨーロッパの中で36%を占めています。
ドイツ国内で45%の需要を抱える自動車産業の底堅さによって、産業ロボット分野は14%増(2006年:対前年比)という良い結果を得ることができました。

ロボット産業とオートメーション産業全体の売上は2006年に対前年比で6%アップし、約73億ユーロとなりました。この売上はドイツの機械工学産業全体の約4.5%を占めています。

最近の傾向として、ヨーロッパ全体と同様に、ドイツでも自動車産業以外でのロボットの需要が増えているということが挙げられます。 ドイツでは特に金属加工、家具加工、プラスチック産業での需要の伸びが著しく、2006年にドイツロボット製造企業から供給された約48%のロボットが自動車以外の産業分野となっています。

特に生産現場などで高性能カメラやソフトウェアなどを使って高速で画像処理を行う、いわゆる「マシンビジョン技術」がロボットに最も求められる技術となっています。その中でも特に刻々と変化する製造ニーズに対応可能な柔軟性の高いシステムの需要が増えており、この分野だけだと45%(2006年前年度比)増となっています。

2006年現在、ドイツでは約133,000台の産業ロボットが使用されており、日本に次いで世界で2番目の規模を誇っています。

 
■ハノーバーメッセ:第1回モバイル・サービスロボット日独サミット
ハノーバーメッセ会期中の4月22日に開催されたこのサミットは、サービスロボットについて、現在、日本・ドイツで行われている研究や実用化の実例などが発表されました。

基調講演として、ドイツ側からドイツ研究所人口知能部のロボット研究グループ長フランク・キルヒナー教授が、ドイツにおける可動性自律システムをもったドイツのロボットの例についてスピーチを行いました。

ドイツでは、このようなシステムを持つロボットは、例えば爆発物の探知、物流分野でのコンテナチェックなど人間の手に負えない場所、あるいは人間では危険が伴う作業に従事しているケースが多く、このような分野でモバイル・サービス・ロボットは正確なモニタリング、人間とのコミュニケーションを通して、人間に代わる問題解決手段として非常に重宝され、需要も増しています。

日本側からは産業総合研究所の柴田上級研究員が、高齢化社会におけるサービスロボットの役割ということで、セラピー効果のあるアザラシ型ロボット「パロ」の実例を発表しました。

パロはアニマルセラピーと同じような効果を狙うロボットで、日本では既に実用化され、老人ホーム、介護施設などの主に高齢者向けの施設で用いられていますが、現在、海外20か国以上でも試験的に使われています。

この子犬サイズのアザラシ型ロボットは、高齢者向け施設内でペットあるいはそれ以上の存在として扱われ、高齢者の脳の一部を活性化させる実験データが得られているなど、高齢者同士のコミュニケーションを増加させたり、リハビリテーションの促進などに有効な手段として使われています。

次にモバイルロボットの家庭やヘルスケア分野での利用について、ドイツ最大級の研究所フラウンホーファーのロボット工学長であるマーティン・へーゲルさんから同研究所で試作している家庭内でのサポートロボット「The Care-o-Bot」の説明がありました。

彼らが大きなチャレンジとして開発している家庭内でのサポートロボットは、日本が追求しているような人間型をとらず、家庭で期待される作業に適した形態を追求したものとなっています。

日本が追求しているような人間型ロボットは長期的展望と考えており、家庭向けにはもう少し小さく機能を特化したモジュールロボットが有効との考えを持っているようでした。

■まとめ
現在、日本は世界のロボット産業の牽引する役目を担っています。ただ、欧米の世界出荷台数に占める割合は増加し続けており、現在、欧米が日本を追い上げている状態にあります。

ヨーロッパの中でもロボット技術の研究・革新が進んでいるドイツで行われた今回のハノーバーメッセに参加して、サービスロボットの分野では、日本が人間・動物型ロボットを将来の人間のパートナーと期待して開発しているのに対し、ドイツは形にはこだわらず機能重視・使い勝手重視で、あくまで人間の営みをサポートする便利な道具の一つにすぎないと考えて開発している印象を受けました。

いずれにしても、今後、家庭向け・個人向けのサービスロボットのニーズが高まってくることが予想されており、異なるコンセプトで開発されたドイツと日本との競争・協働によって革新的な未来のサービスロボットが開発されるのは間違いなさそうです。