AARIアジア中小企業レポート
株式会社愛知アジア総合研究所(AARI)

記事更新日.13.06

製造業を中心とした愛知県および東海地域の中小企業に向けて、アジア各都市とのコネクションと様々なソリューションに関わるノウハウをもとに、技術支援、品質管理支援、環境対策支援等、ソフト面での海外進出をサポート。第一弾として、中国江蘇省常州市への進出サポートを展開中。
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■第14回 今後の対中ビジネスを考える(前編)


執筆者:株式会社愛知アジア総合研究所 代表取締役 乗松薫
1970年名古屋市生まれ。1996年早稲田大学法学部を卒業後、岩手朝日テレビを経て、2000年ヤフー株式会社入社。2003年、名古屋にて株式会社ミルゲート(旧 有限会社エヌ・プランニング)を創業。以後、WEB領域を中心に、ナショナルクライアントから中小製造業まで、数多くの企業の国内およびアジア地域へ向けたプロモーション業務に携わる。専門領域は国内およびアジア市場へのプロモーションプランニングおよびコピーライティング。2012年3月、株式会社愛知アジア総合研究所を設立し、代表取締役に就任。

常州市からの訪日研修が終了〜通訳に求められる能力とは〜

6月の半ばから実施された常州市熱処理協会所属企業幹部の愛知県での研修が、7月15日に終了しました。
今回来日した楊(ヤン)さんは、30代半ばの2代目経営者で、20日間に渡る浸炭工場での現場視察と、真空熱処理工場へ場所を移しての人材育成、設備導入、生産管理、品質管理に関する研修を、我々の予想をはるかに上回る熱心さで、無事に終了しました。
とても実りの多い研修になったと、楊さん自身が終了後に語っていましたが、今回の研修が成功裏に終わったのは、

・楊さんのモチベーションの高さ
・事前に楊さんから十分なヒアリングした上で、綿密に計画された研修プログラム
・受け入れ先企業のモチベーションの高さ

があったからこそだと思いますが、何よりも一番大きな要素となったのは、

・通訳の質の高さ

だったと思います。

今回の研修では、工場内での研修から日常生活にいたるまで、大連出身の王というAARIの女性メンバーが、通訳として楊さんを全面的にサポートしました。手前味噌になってしまいますが、彼女の存在なしでは、この研修は成功しなかったといっても過言ではないでしょう。

以下、王が今回の通訳として適任だった理由、すなわち製造業の分野での通訳に必要な条件を挙げてみます。

■製造業分野での通訳として必要な条件

  • 中国語はもとより、日本語もネイティブレベル

    ⇒王は日本人の男性と結婚をしており、日本在住歴も通算13年と、日本人の会話をほぼ完璧に理解できます。
    一般的に企業の採用などに際して日本語能力検定(JLPT)の最高レベルN1が応募条件で課されますが、これだけで通訳として適任かどうかを判断するのは無理です。
    乱暴な言い方になりますが、私の感覚値からすると、N1はせいぜいTOEIC600点強程度のレベルです。とても通訳として通用するレベルではありません。
    当然、王もかつての日本語検定1級は取得していますが、日常生活で日本語を恒常的に使用しているからこそ、通訳として通用する能力を身につけられたのだと思います。
  • ビジネス会話、そして製造業の専門用語を理解している

    ⇒王はかつて、中国の日系製造業の生産管理の現場で2年、日本の貿易会社で1年と、3年に渡る日系企業での勤務経験を持ち、その中で、日中双方のビジネス会話と製造業現場での最低レベルの専門用語を身につけてきました。
    更に、今回の研修に当たっては、1ヶ月前に研修内容に係るドキュメントを受け入れ先から入手し、熱処理に造詣の深い彼女の父親にもレクチャーを受けながら、十分に事前学習をした上で、実際の研修の現場に臨みました。
  • 日中双方の文化、習慣を理解している

    ⇒最後になりますが、今回のように研修参加者の日常生活へのサポートも必要とされるケースでは、極めて重要な要素です。
    日本に来たての中国人では、中国の文化・習慣を理解できても、日本のことが理解できていませんので、例えば受け入れ先企業が滞在中の安全面をいかに気にするかなどといったことには配慮できないと思います。双方の文化・習慣への十分な理解があってこそ、参加者と受け入れ先との間での調整役にもなり得るのだと思います。

今回のような研修だけではなく、例えば皆さんが中国ビジネスに取り組むにあたって、通訳はとても重要な役割を果たします。ましてや、自社の従業員として採用するのであれば、十分に相手の能力を見極めたうえで採用できた方が良いに決まっています。

ついでですので、これも私の経験上から、日本の大学・大学院を卒業した中国人社員を採用する際に、皆さんに是非理解しておいていただきたい点を挙げさせていただきます。

■中国人社員を採用するにあたって理解していておいた方がいいこと

  • 日本語能力検定N1は、ビジネスで通用するレベルではない

    ⇒これは、先に述べたとおりです。N1は実はたいしたレベルではないと言うことを、十分に理解しておいてください。
  • 中国人学生にとって日本の大学、特に大学院に入ることは難しいことではない

    ⇒誤解を恐れずに言いますが、例えばこの地域の最高学府と言われている名古屋大学でも、学部への入学は別として、大学院に入学するのはさして難しいことではありません。また、経営戦略上、大量に中国人学生を合格させている私立大学もあります。
    優秀な国費留学生が日本の大学で学んでいる、といった20年ほど前のイメージは、今 の中国人留学生には当てはまらないことを理解しておいた方が良いでしょう。
  • 学力を知りたければ、大学院ではなく大学、或いは出身高校を必ずチェックする

    ⇒中国人学生の学力を判断するのであれば、中国での出身大学、日本での出身大学、或 いは中国での出身高校を必ずチェックしてください。
    これは前述のように、大学院卒の肩書があてにならないからですが、中国でも日本でも、やはりそれなりの大学に学部から入学するのは狭き門です。また、中国では高校においてもヒエラルキーが確立されているので、ここで判断することもできます。
  • 中国人学生=苦学生ではない

    ⇒前述しましたが、20年前の国費留学生へのイメージは捨てて下さい。
    現在日本に来ている中国人留学生は80后、90后と言われる世代で、一人っ子政策の中で比較的裕福に育ってきた人たちです。
    もちろん、なかには苦学して学校を卒業する留学生たちも少なからずいるとは思いますが、一般的なイメージとして適用することはできません。
    また、最近のトレンドとしては、中国本土の優秀な学生たちは、欧米の大学に通う傾向にあります。

以上、少々辛辣にはなりましたが、皆さんに中国嫌いになって欲しくないからこそ、敢えてこの場で書かせていただきました。

もちろん優秀な中国人通訳は大勢いますし、日本に留学している優秀な中国人学生や学歴だけでは判断できない優秀な人材が大勢いるもの確かです。

しかし一方で、通訳にせよ社員にせよ、「中国人は口だけだから・・・」とか、「中国人にだまされた・・・」といった失敗談を良く耳にします。確かに中国人は日本人と比較して自己アピールに長けた人たちです。

ただ、我々が中国のことをもう少し理解していれば、事前に失敗を回避できることも多々あります。当然の話ですが、文化の異なる国とのビジネスに臨むのであれば、相手のことを良く理解しておく必要があります。

もちろん、経験の中で学んでいくことも多くありますが、今回は私の実感値として、今回の常州からの研修、そして日ごろの中国人とのお付き合いを通して感じていること、そして対中ビジネスを始める皆さんに予め理解しておいて欲しいことを書かせていただきました。

次回は「今後の対中ビジネスを考える」の後篇として、過剰品質とこれからのグローバルスタンダードについて言及していきます。

 
 (次回に続く)


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