AARIアジア中小企業レポート
株式会社愛知アジア総合研究所(AARI)

記事更新日.13.07.

製造業を中心とした愛知県および東海地域の中小企業に向けて、アジア各都市とのコネクションと様々なソリューションに関わるノウハウをもとに、技術支援、品質管理支援、環境対策支援等、ソフト面での海外進出をサポート。第一弾として、中国江蘇省常州市への進出サポートを展開中。
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■第15回 今後の対中ビジネスを考える(後編)


執筆者:株式会社愛知アジア総合研究所 代表取締役 乗松薫
1970年名古屋市生まれ。1996年早稲田大学法学部を卒業後、岩手朝日テレビを経て、2000年ヤフー株式会社入社。2003年、名古屋にて株式会社ミルゲート(旧 有限会社エヌ・プランニング)を創業。以後、WEB領域を中心に、ナショナルクライアントから中小製造業まで、数多くの企業の国内およびアジア地域へ向けたプロモーション業務に携わる。専門領域は国内およびアジア市場へのプロモーションプランニングおよびコピーライティング。2012年3月、株式会社愛知アジア総合研究所を設立し、代表取締役に就任。

日本の設備は欲しいけれど

中国江蘇省常州市から昨年8月に訪日した熱処理企業団も、そして6月から1ヶ月の日本研修を修了した楊さんも、日本の熱処理の現場を訪問する度、その高度な設備や技術に大変興味を示し、「この設備を是非自社に取り入れたい、いくらになる?」と、時には随分と興奮した口調でアテンドする日本側の担当者に詰め寄ったりしていました。
やはり中国の中小企業経営者の目には、日本の設備や技術のレベルの高さはとても魅力的に映るのでしょう。実際、これまで常州から日本を視察で訪れた殆どの経営者が、日本式の自社への導入を宣言して中国へと帰っていきました。

当然日本側としては、彼らの気持ちに応えようと、1人1人が興味を示した設備を再度洗い出し、メーカーも巻き込んで詳細な見積もりを作成します。
ところが、中国へ戻った彼らに見積り価格を伝えると、次のような答えが返ってくるケースがとても多いのです。

・値段が高すぎるので導入は難しい・・・。
・今のところ中国ではそこまでの設備は必要ない・・・。

おいおい、あれだけ欲しい欲しいって言ってたじゃん!値段が合わないだけならまだしも、「そこまでの設備は必要ない」ってどういうことだよ、全く・・・と、こちらとしては肩透かしを食らったような気分になるわけですが、恐らく「そこまでの設備は必要ない」というのは、多くの中国国内中小企業経営者の本音なのでしょう。

日本で機械を目の当たりにした時は欲しいと思ったものの、いざ帰って冷静に考えてみると、そこまで高性能な設備は必要ないし、何より値段が高い!と改めて思ったのかもしれません。或いは必要ないとは分かっていても、日本にいる間は興奮やら社交辞令やら諸々あって日本側を持ち上げてみたりしていたのかもしれません。
いずれにしても、日本仕様の設備は、そのまま中国で受け入れられると言うわけではなさそうです。

 
これからのグローバルスタンダードとは

今のところ中国ではそこまでの設備は必要ない・・・と答える中国の中小企業経営者。
では、彼らが「そこまでの設備」を必要とする日は、近い将来訪れるのでしょうか?

私は「訪れない可能性もある」と、考えます。

これまで、我々日本人多くが「日本の技術は最高で、中国もその技術をキャッチアップしたいと思っている」と、考えてきました。
中国だけでなく、世界の多くの国が日本の持つ「最高」の技術力をキャッチアップしようとするのであれば、やがて日本の技術がグローバルスタンダードになる日が訪れるでしょう。それは、常州の中小企業経営者が日本の「そこまでの設備」を必要とする日とイコールかもしれません。

しかし現状は、キャッチアップへの焦りを我々に見せながらも、実はキャッチアップしなくても十分にやっていける多くの中国企業の現状があります。
常州の様々な中小製造業と接して私が感じたのは、我々が考える「最高」は、これからのグローバルスタンダードではないのかもしれない、ということでした。

我々日本人は、大きなパラダイムシフトの時期に直面しているのかもしれません。
我々が「最高」だと思うモノは、世界の誰もが欲しているモノ。
そんな常識に疑いの目を向ける時が、今更私が言うまでも無く、既に訪れているのです。

 
実は過剰品質なのではないかと疑ってみる

尖閣問題以降その勢いは衰えたものの、多くの日本の製造業の方が「工場」ではなく「マーケット」としての中国への進出を目指しています。

AARIでも、いくつかの中小製造業の中国進出をお手伝いしていますが、皆さん最初につまずくのが価格です。これに関して言えば、中国側とはまず100%、最初の段階では折り合いがつきません。日本の高い技術力には興味を示すものの、そこまでの高品質を必要としているわけではなく、品質レベルを落としてでも、日本企業の予想をはるかに下回るレベルまで価格を下げれば取引ができるかもしれないと、中国側は淡々と告げてきます。

この時点で「やってられっか!」となって、交渉をやめてしまう企業の方も多くいます。長年培ってきた「最高」の技術を想像だにしなかった低価格で売れとか、品質レベルを下げろとか言われるわけですから、怒って当然です。特に自らが開発者だったりする経営者の方にとっては、中国側から提示される条件は我慢ならないもののようです。やめるのであれば、決断は早い方がいいです。自らの半生をかけて築き上げた謂わば人生の作品を、そう簡単に安売りする必要なんて全くないわけですから。

しかし一方で、うまい具合に日本の空いたラインを使ったり、現地企業とタイアップして現地化を進めたりして、廉価版の生産によって中国マーケットへの進出に成功した企業もあります。
日本側から見れば廉価版でも、中国では十分に高品質なものとして通用するケースもあるわけですから、中国側からみればそもそもの製品が過剰品質だったということになります。

もちろん、廉価版を生産するまでの過程も、そこから中国マーケットに浸透させるまでの過程も、簡単なものではありません。生産しかり、販売しかり、生産現場での気の遠くなるような試行錯誤を経験したり、経営者自らが中国事業にどっぷり入り込まざるをえなかったり、或いは信頼できるパートナー探しに奔走したりと、成功までには相当な苦労を余儀なくされます。

そんな皆さんの事例を見るにつけ、我々のスタンダードが実は過剰品質なのではないかと疑ってみることの重要性を、私は強く感じます。
日本人はやはり「真面目」な人たちですから・・・。
その「真面目」さが中国では通用しないケースが多々あるという視点を持っておかないと、中国マーケットでの成功は無いような気がしています。

日本にとっての「最高」は、中国では「最高ではない」のかもしれない。
常州市の中小企業経営者が「そこまでの設備」を必要とする日は訪れるかもしれないし、訪れないかもしれない。

今後の対中ビジネスにおいて、当たり前のことですが、独りよがりになってはいないか、日本での常識にとらわれてはいないか、そんなことを常に自問し続けることが成功のための大きなポイントになってくるのではないでしょうか。

対中ビジネスに限らず、これが意外と難しいのですが・・・。

 
 (次回に続く)


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