組織の体力を上げるのは教育です。できないことは、やり方が分からないからできずにいることが多々あります。これは業務に特化した能力開発に限ったことではありません。コミュニケーションのとり方も含みます。日常会話はともかくとして、職場のコミュニケーションは成長過程で自然と身につけるものではなくなっているからです。
職業人が抱えているストレスを以下に抜粋してみました。「自分は他部署で実績を上げて昇進。部下の仕事について門外漢のため、進捗に対してアドバイスができない。つい『キミに任せるよ』といった当たり障りのない発言に終始し、無能な上司と思われていないか不安だ」
「残業をしたり休日出勤をしたり早朝出勤をしたりして、何とか納期に間に合わせたら『キミならもっとやれる』と上司から新たに仕事を振られた。いつもクタクタで疲れが取れない」
「希望の仕事をしたくて実績を出そうと必死に頑張った。しかし、念願だったプロジェクトのメンバーになったのは、日頃、チンタラ仕事をしている同僚。上司に『人には向き不向きがあるから。キミは何でもできるから今のまま頑張れ』と言われ燃え尽きた」
「みんなと本音で仲良くやっていきたいが、ほとんど反応してくれない人がいる。たまに話してくれる内容はこっちには理解不能。仕方ないから話題の糸口にならないかと自分のことをしゃべるしかない。不公平な気がしてイライラする」
「みんなの輪に加わりたいが、しゃべりかけられても話が続かない。『遠慮しないで何でも話して』と言われるが、相手の遠慮のない言葉に傷ついている」
「相手の無神経さが気になるけれど、波風を立てずにやっていきたいので、メールを工夫して書いて仕事だけはきちんとやるよう頑張っている。こんな気持ちが分かってもらえないようでつらい」
「何でもメールで済まそうとする若手との付き合い方に困っている。お互いの違いを認め合うのが大切だと思って、こっちから飲みに誘い、極力コミュニケーションを図っている。しかし、だんだん断られるようになり、避けられているみたいで面白くない」
「遠慮しているのに強引に飲みに連れていかれる。相手の話に同意しないと、途端に不機嫌な態度をとられるから息苦しくてかなわない。人間関係をこじらせないよう、退社後まで気を遣うのに参っている」
「仕事が速くて正確な部下に指導する出番が見つからず、上司としてのプライドが傷つき面白くない。この部下についつい冷たく当たってしまう自分が嫌だ」
「上司への報告連絡相談が大事と言われているが、自分のほうが仕事に精通してしまい、相談にのってもらえない。会話の機会を増やすほど、溝が広がっていく感じがしてやりづらい」
「取引先の仕事の進め方が変わってしまい、自分が第一線にいた頃のやり方が通じない。部下に助言できないことにいらだち、『努力が足りない』といった声高の叱咤をしてしまう」
「仕事の進め方に不合理な点があり、残業につながる遠因となっている。改善策を提案したいが生意気だと思われそうで、言えずに我慢ばかりしている」
「問題意識が薄く、なあなあで済ませたがる上司に進言したら『協調性がない』と激昂されて、仕事を干されてしまった」
小手先の要領の良さは仕事の手抜きにつながりがちです。しかし、真に個人の成果が上がることは、達成感や責任感を喚起します。それが組織における自分の役割は何か、自分とつながっている対象への貢献とは何か、考えるようになっていくのです。協調性とはこれまでと一緒、みんなと一緒、足並みを揃えることではありません。自分は誰かの役に立とう、組織のために力を尽くそうと行動することが真の協調性です。
一日のうちで長い時間をあてる仕事を通じて、人は成長を実感したいと無意識に抱いています。成長とはできなかったことができるようになること。そのための教育なのです。
もっとも、我流に任せた部下同士のOJTでは限界があります。管理職の成功体験が、今のビジネスモデルに合わないこともあります。部下も上司も、役割にかなった学びの機会をつくり、個々の能力を上げていくことが少数の人員でも筋肉質の組織をつくるのです。
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