【BCP(事業継続計画)策定のススメ】
その日−東海地震発生から20日後−
貴方の会社はどうなっていることでしょう?
苅谷政生 記事更新日.08.11.04
経営KAIZEN考房 代表
■PROFILE
中小企業診断士  シニアリスクコンサルタント(R)   ISO14001審査員補   2級FP技能士

名古屋市立大学経済学部卒業後、アイシン精機(株)などを経て2005年『経営KAIZEN考房』開業。アイシン精機(株)/調達部門時代の経験・ネットワークを活かし、自動車部品製造業を支援先の中心にすえて経営コンサルティングを展開中。コンサルティングの主題は顧客企業の中にトヨタ的カイゼン文化を育み根づかせながら経営改善、経営改革を支援すること。
・(財)あいち産業振興機構 登録専門家
・(財)名古屋都市産業振興公社 登録専門家
・(社)日本経営協会 セミナー講師(『見える化』による業務改善)

連絡先 
経営KAIZEN考房
〒448-0011 愛知県刈谷市築地町5-26-13-201
TEL 0566−23−8097  FAX 0566−23−8227
E-mail kaizen@katch.ne.jp

■はじめに

(よくご承知の方には失礼ですが)“BCP”はもちろん“事業継続計画”という日本語すらもよく分からない言葉です。冒頭、この言葉の意味合いについて読者と共有化を図ろうと思います。

タイトル副題からして、何かリスク対応のことだろうという想像は容易にしていただけることでしょう。BCP(事業継続計画)とは、大地震はじめ何か巨大リスクが会社(事業)に降りかかってきた時でも、@いかに会社(事業)に及ぶ傷を浅くし、Aいかに早く操業再開し、会社(事業)をつぶさずに立ち直ってみせるのか、この命題を果たすための平時からの準備計画やそうした事態発生時における行動方針・行動計画・行動手順などのことです。
ちなみにBCPとはBusiness Continuity Planの頭文字です。Continuityは継続性といった意味です。

今回は、BCP策定の必要性を腹に落としてもらうことを第一義とし、その後でBCP策定のための下準備、BCPの策定、BCPの実行、といった流れをざっくり見ていただきます。最後に、BCP策定に当たって活用できるフレームとして、中小企業庁等からBCP策定のためのガイドラインがネット公開されていますのでそれらを参考のためご案内しておきます。

■BCP策定の必要性
(そんなことは解っている!という方は“■BCP策定の下準備、…”へ進んで下さい)

タイトル副題で“・・・東海地震・・・”としたため、想定するリスクは巨大地震あるいは自然災害のみであるかのような誤解を与えたかもしれません。しかし、新型インフルエンザの流行、情報システムの障害、輸入材料などの調達困難、事故、不祥事件、など事業の継続を困難にする巨大リスクは様々に考えられます。こうした巨大リスクに襲われた場合に、それでもたくましく復活してくる会社と、あえなくつぶれてしまう会社とがあるわけです。この両者の違いや分かれ目はどこにあるのでしょうか?
答えは次の二つです。
一つは、想定される巨大リスクに対する被害軽減のための事前対策の有無や巧拙です。
一つは、想定される巨大リスクの現実化に備えた対応計画の有無や巧拙です。

言うまでもなく、事前対策をきちんと打っている会社、事後における対応が巧みである会社がそうではない会社に較べたくましく復活してくる会社なのです。つまり事前対策を講ずることでリスク発生による傷を浅くすることができ、予め練っておいた対応計画に沿って行動することでより早く操業再開できるわけです。従ってBCP(事業継続計画)を策定することが巨大リスクとの遭遇にも負けないしぶとい会社になるための王道と言えるのです。

実効性の高いBCP策定によって早期に操業回復していく会社と、他方BCP策定はもちろん何もしていない会社が、巨大リスクに遭遇した場合のダウンの程度と回復スピードの違いを概念的に示した図を以下に示します。

この概念図はBCPを論じる時には必ずと言えるほど提示されるものですが、要するに「青い線で示すようなイメージになろう!」ということです。BCPを策定し、きちんと運用しその実効性をどんどん高めていって有事の際にもつぶれにくいしぶとい会社となっていただきたいのです。これがまさにBCP策定の必要性なのです。

以下でBCP策定やその前後の作業など一連の流れを大雑把に確認していきますので、大きな流れをイメージするように読み進めて下さい。

■BCP策定の下準備、BCP策定、およびBCP実行といった一連の流れ

はじめに、でBCPとはBusiness Continuity Planとの紹介をしましたが、Plan(計画)の策定だけではまさに“絵に描いた餅”です。その計画を実行に移し、点検・評価し、改善していくというPDCAサイクルでの運用が求められます。どこからどこまでがP(計画)でどこからどこまでがD(実行)でといった明示はせず、あえて一連の流れで示していきます。

STEP 1.事業継続方針を定める
ここではまったく架空の会社、ABCプレス工業(株)の事業継続方針を例示することで何となく「あ〜、そうゆうことね」と感じてもらえればOKです。また方針が定まらないとSTEPA以降に進めないということではありません。いったん留保して先のSTEPに進んでから適宜、方針を固めていっても構いません。ただしその場合には特に、全体が事業継続方針と整合していくように注意する必要があります。

ABCプレス工業(株)の事業継続方針
我が社は、東海地震等の巨大地震発生により本社および工場が被災した場合の事業継続方針を以下のとおりとします。
1. 就業時間に地震が発生した場合に、事業所内に訪問中のお客様および取引業者、事業所で業務に従事しているすべての社員、事業所外で業務に従事しているすべての社員の生命・安全の確保を最重要課題とする。
2. 二次災害の防止に全力をあげる。
3. 近隣の民家などでの安全を確認し必要ならば救援・救護活動に尽力する。
4. 最重要顧客のA社およびB社向け生産ラインが被災した場合には、他社向けの生産ラインにて最優先に代替生産を図る。その際にはあらゆる経営資源を当該生産に集中投下するものとする。
5. A社およびB社向け生産ラインが被災しなかった場合には、被災した各部門は被災した部門を主体に経営と連携し鋭意かつ柔軟に復旧を図る。
平成20年10月1日  代表取締役  (サイン)
STEP 2.想定する巨大リスクを特定しておく
巨大リスクをあれこれ複数特定すると後の作業でもそれに応じた作業の負担が生じ途中で投げ出してしまいたくなります。まずは共通の巨大リスクである東海地震に絞ってBCPを策定してしまうことをおススメします。2年目、3年目という見直しの中で想定する巨大リスクを追加していけば結構です。

STEP 3.巨大リスク発生により操業停止した場合の停止許容期間を見きわめる
巨大リスクにより事業活動がいったん完全停止に追い込まれたと仮定します。販売の停止による売上・利益の減少、資金繰りの悪化、などを考慮し、どの程度まで停止期間が長引いた時に経営危機に瀕するかを見積もることです。10日間なのか、2週間なのか、1ヶ月なのか、・・・、そういった大雑把なものでいいのです。

STEP 4.企業存続上の重要な事業、業務、製品・サービス(以下、重要事業等)を特定する 単一の事業を営んでいる場合には重要な製品・サービスを特定すればいいのです。また複数事業を営んではいるが各事業は単一の製品を生産している場合なら、重要な事業を選定することが重要な製品を選定することにもなります。一方、その事業や製品・サービスに関わるいくつもの業務の中で特に重要な業務があればそれを特定することも必要です。仕入が最重要かもしれないし、顧客コミュニケーションを緊密にする業務が最重要かもしれません。いずれにしてもその会社の特性をよくふまえて焦点を絞る必要があります。

STEP 5.3を踏まえ重要事業等の復旧期間の目標値を定める
STEP 3で見きわめた停止許容期間をふまえて、重要事業等の正常状態までの復旧に要する期間の目標値を設定します。例えば5時間後、3日後、10日後といったようにその事業の特性など様々な要素を総合的に判断して定める必要があります。

STEP 6.巨大リスク発生により重要事業等が被る被害を想定し定量的に試算する
重要事業等に関連する店舗・事務所・工場、機械、設備、什器・備品、顧客、要員、材料、調達先、インフラなど様々な要素が受ける被害について一つ一つ定量的に見積もってみるのです。もちろん見積もるといっても“エイヤッ”と見積もればいいのです。

STEP 7.重要事業を復旧するために最大のネックは何かを明確にする
重要事業等の復旧に要する時間は、どこか特定のネック部分の復旧時間に依存することになります。いかにこの部分の復旧時間の短縮を図るかが課題になるわけです。
ネックとして想定されるものを羅列しますと、社会インフラ、通信インフラ、事業を構成する業務・工程・部門、物流システム、情報システム、データ、キーマンを含めたマンパワー、機械、設備、金型、原材料の調達ルート、商品の調達ルートなどです。これらを参考にその事業復旧にとってネックとなるものを抽出し、さらに優先順位付けしておくことが必要です。

STEP 8.巨大リスク発生時のマニュアルとしての大計画(以下、マスタープラン)を策定する
STEP 7までがいわばBCP策定の下準備です。STEP 7までの作業で明らかになってきたことを踏まえ、巨大リスク発生時のマニュアルとしてのマスタープランをこの段階で策定することになるわけです。
マスタープランにその骨格として最低限そなわっているべきものを項目だけ列記しておきます。

(1) 巨大リスク発生時に発動すべき非常時指揮命令系統の明示
(2) 本社等重要施設・機能の確保方法
(3) 社内外のコミュニケーションの確保方法
(4) 情報システム等のバックアップ方法
(5) 製品・サービスの継続供給のための代替案

巨大リスク発生時にはこれらの項目についてどうあるべきかを検討し、大まかな方向性や方針的なものをマスタープランとして定めます。

STEP 9.被害軽減のための予防策としての事前対応策を検討する
分かりやすいものとして耐震補強工事はここでの検討項目です。また防災グッズを用意することもここでの検討項目です。STEP 8 同様、その骨格として最低限そなわっているべきものを項目だけ列記しておきます。

(1) 生命の安全確保方法と安否確認方法
(2) 店舗・事務所・工場および設備の被害軽減対策とその実施計画
(3) 二次災害防止についての行動ルール
(4) 地域との連携および貢献についての行動基準
(5) 同業者等との共助、相互扶助についての枠組み
(6) 数日間のサバイバルを想定した必要物資等についての利用基準

STEP 10.マスタープランを行動レベルまで落とし込んだアクションプランを作り実行する
実際に巨大リスクに襲われた時にマスタープランを実行に移すためのもっとかみ砕いたアクションプランが必要です。アクションプランの作成を含めて、ここでも骨格として最低限そなわっているべきものを項目だけ列記しておきます。

(1) 巨大リスク対応組織の編成および事業継続マネージャーの選任
(2) アクションプランの作成とその実行
(3) 運用マニュアル、規定、手順書、チェックリスト等の作成
(4) 保険、災害特別融資などファイナンス面での手当
(5) BCP全体のシミュレーションの実施(一連の緊急時行動の妥当性検証)

STEP8〜10の部分がいわば狭義のBCP(事業継続計画)に相当します。ちなみに、広義のBCPとはすべてのSTEPを含めます。

STEP 11.全従業員にBCPを啓蒙、普及すべく教育や訓練を行う
教育とは知識を習得させる取組みであり、訓練とはその習得した知識を使いこなして行動できるようにさせるための取組みです。有事の際、従業員一人一人の行動が重要になるわけですから、教育や訓練は当然に重要課題となります。

STEP 12.一年単位などで全体の仕組みを自己点検し見直しを図っていく
一年に一回など一定期間毎にマスタープランおよびアクションプランについての実施状況や結果を経営トップと事業継続マネージャー等で確認し、問題点や不具合についての対策を検討して仕組みそのものをレベルアップさせていくことです。

■策定に当たっての留意点

不出来でもまったく構わないのでとにかく一通り“でかす”ことです。そしてでかしたなら運用してみることです。そして不満なところを少しずつレベルアップしていけば良いのです。

■おわりに

是非実際の策定作業に取りかかっていただければと願う次第です。冒頭でふれました、公的部門がネット上で公開しているBCP策定ガイドラインを下に紹介しておきますので早速そちらに飛んでみてください。基本コース、入門編、といった簡易版にてまずは“でかす”ことです。

□中小企業庁 「中小企業BCP策定運用指針」
 http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/index.html

□愛知県 中小企業向け事業継続計画(BCP)策定マニュアル 「あいちBCPモデル」   
 http://www.quake-learning.pref.aichi.jp/bcpmodel.html