営業視点からの農商工連携
大須賀泰昌 記事更新日.08.12.01
レック コンサルティング オフィス 代表
■PROFILE
昭和56年愛知大学法経学部卒
販路開拓、営業実務が専門分野で、異業種とのマッチング・コーディネーションを展開し、提供者とニーズをつなぐ役目をはたしている。営業第一線の経験を生かして、実践に使えてわかりやすいコンサルティングをめざしている。
独立行政法人 中小企業基盤整備機構 企業連携支援アドバイザー
財団法人 あいち産業振興機構 外部専門家
財団法人 えひめ産業振興財団 ビジネスアドバイザー
愛媛県中小企業団体中央会 専門家
松山大学経済学部 ベンチャー講座外部講師
まつやまNPOサポートセンター講師  
 
連絡先  
レック コンサルティング オフィス
〒791-8016 愛媛県松山市久万ノ台839-4
電話・FAX/ 089−907−2431
E-mail yasukun@isis.ocn.ne.jp
帰省先
〒444-0128 愛知県額田郡幸田町野場常口4-1
ブログ http://konpaspanda.blog.ocn.ne.jp/mbo/

■はじめに

私は幸田町の農家の出身であり、家内の実家も松山の農家です。食卓には、旬の野菜が山盛りになって賑います。現住所は松山ですが、どちらにいても野菜のオンパレードです。帰省したときには、母親が畑から野菜をとってきて調理してくれます。  

農家といっても兼業であり、就職してからはずっと営業一筋です。独立開業してからも6年目にはいりますが、お客様のところを訪問し、営業に関するコンサルティングをする毎日です。そこで、農業を理解している営業マンの視点から農商工連携を考えてみたいと思います。

■お客様に伝える

営業全般に言えることですが、最も重要なことは、お客様にとっていいこと、いわゆる顧客価値を的確に説明できるかということです。それも、きわめて短時間にわかりやすくイメージ化するような文言で伝えることです。それは、小学校高学年でもわかるというレベルです。  

今回紹介する二つの事例は、いずれもイメージ化しやすく、「これは〇〇〇のようなものだよ」ということで、次の説明にはいっていくことが比較的容易なものです。なお、県外での生活が長く、事例も関東と四国になることをお詫び申し上げます。また、調理時間や調理方法のことを考えると、消費者の利便性につながることがポイントです。事例は、野菜そのものを加工しており、短時間で食卓に並ぶため、現代のライフスタイルにマッチしています。それも紹介基準のひとつです。

■茨城県Nグループの乳酸菌漬物

Nグループは、茨城県つくば市に本社をおく企業です。この企業の特徴的なことは、 「農業を科学する」というコンセプトのもと、まず土壌分析、成分分析を行い、安全性を強調していることです。生産者の顔が見える、農薬の種類や散布回数も重要な事項でありますが、まず作物を育てる土そのものが安全であるということが最もたいせつであると訴求しています。会員である契約農家の土壌分析をしたうえで、野菜を仕入れ、自社独自の流通ルートでホテルや飲食店等に納入し、一部を漬物に加工しているのです。

乳酸菌というと、すぐに頭に浮かぶことが「おなかにやさしい」ということで、小学生 にも、「ヨーグルトにはいっている身体にいい菌の事だよね」と説明できます。この漬物は、茨城県の工業技術センターが開発した「HS-1」という植物性乳酸菌を使用し、サイズや形、虫食いなどによって、市場流通しにくい、いわゆるB、C級品野菜を有効活用しています。         

しかし、この乳酸菌漬物は、つくば市近隣のスーパーマーケットでNグループ専用コー ナーに並べておくだけで完売してしまうということです。お客様はおいしいということをよく知っています。

(特徴)
  
(1) 土壌分析、成分分析、トレーサビリティによる安全基準をクリアしている。
  
(2) 野菜本来のうまみと歯ごたえを堪能できる。(サラダ感覚、パリパリ、シャキシャキ)
  
(3) 日持ちが良く、消費期限までさわやか酸味とパリパリ感を確保。(約5日程度)
  
(4) 植物性乳酸菌HS-1使用。(茨城県特許3091196号)
  
(5) 乳酸菌がたっぷりと生きたまま届くので、おなかに優しく健康的。

■愛媛県U社の野菜・果物のピューレ&ペースト

松山市の郊外に位置するこの企業では、もともとは、海産物卸ですが、数年前から「野 菜・果物のピューレ&ペースト化」に取り組んでおり、設備投資を行ったうえで、来春稼 動することとなりました。現在、経営革新計画の認定取得に向けて最終段階に入っているところです。
このピューレ事業については、主に業務用ですが、一般の人にも「野菜をミキサーみたいな機械に入れてつぶすことだよ」と説明できます。また、ペーストについては「マーガリンのような状態にする」と言えばイメージできます。
(特徴)
  
(1) 県内の契約農家の野菜や果物を使用するため、安心安全であることが証明される。
  
(2) 製造したピューレは冷凍保存することが可能で、鮮度保持にも有効である。栄養素も、そのまま維持され、ほんとうのおいしさも提供することができる。
  
(3) 活用場面を提案していくことにより、さらに新しい用途や市場の開発が可能である。また、トマトとたまねぎを混合させた新たなピューレも提案可能である。
  
(4) B,C級品の野菜を使用することで、契約農家が栽培した作物を全量、契約価格で買い取り、販売数量についても、2次加工を行う企業と年間契約を結び、効率的な生産と販売を行うことができる。
  
(5) 2次加工の事業者間の連携も可能であり、新たな価値を創造できるとともに、調理場の仕込み時間の短縮、コスト削減に貢献できる。
U社は小分けパックが得意で、取引先の要求に応じて加工することが可能ですが、汎用性が高いため、どこから販路開拓の手をつけていいのかが課題として残っています。

■ワンシート企画書

以上のようにイメージや特徴がかたまってきたら、A3程度の用紙に、ワンシート企画書としてまとめてみるといいです。社内でミーティングするときにも使えるし、完成版は、お客様へのプロモーション資料となります。 (→ワンシート企画書サンプル (PDF) 茨城県Nグループ愛媛県U社

■競合分析

さらに、自社の特徴がわかったら、次に行うことは競合分析です。これをすることにより、自社の位置づけも明確になります。これはエクセルを使用し、横のセルに会社名や製品名、縦のセルに、たとえば、製品、価格、流通、プロモーションといった形で、A3用紙1枚程度のマトリクス表にするとわかりやすいです。

自社の特徴、優位性が手に取るようにわかり、訪問したときの説明も自信をもってできるようになります。追加事項があれば、表を増やしていけばいいです。営業において、最もたいせつなことは、自社の農産物、加工品をどれだけ熟知しているかにかかってきます。  

ピューレの競合分析をしてみましたが、メンバーで協議すれば、もっといろいろな項目がでてきて、ミーティングも楽しくなります。(→競合分析サンプル (PDF))

■最後に

常日頃、母親が私にいうことばです。
「おまえみたいに、野菜もろくに作れんようなもんが、農業の話をするなんておこがましい。いいか、豚糞、牛糞を素手でつかんで作業できてこそ、ほんとうの百姓だ。」
このことばを、いつも重くうけとめて、農と商工をつなぐため営業に出て行くのです。