確かに、この厳しい時代に中小企業が生き残るためにはIT活用は避けて通れません。しかし、IT投資が先行し、ITのための人材育成が必要では、中小企業がついていけないのは資金力の面から明らかです。そこで、中小企業の悩みであるIT活用の阻害要因の多くを払拭できる仕組みがSaaSだと考えます。
かつて、アメリカでニコラス・G・カーという雑誌編集者が、「ITにお金を使うのは、もうおやめなさい」と言う著書を出し話題になりました。「企業向けコンピュータシステムは、その効果が大げさに宣伝されているが、企業が成功するためには大して重要ではない」(2003.5ハーバードビジネスレビュー他)と論じ、アメリカのIT業界から袋叩きになりました。しかし、現在ではインターネットの環境が整備され技術も進み、潤沢なインフラが提供されるようになったために、クラウドコンピューティング時代が到来しつつあります。経営戦略上大切なIT活用を、前述のカー氏の論のようにお金をつかわず実現する時代が来ます。SaaSはその一面と捉えることができます。
SaaSとは、Software as a Serviceの略で、直訳すれば「サービスとしてのソフトウェア」です。ソフトウエアをサービスとして提供するソフトウェアの新しい販売形態です。具体的には、従来のライセンスを取得させてパッケージソフトを販売し収入を得るのではなく、ソフトウェア機能をインターネットなどを通じて「サービス」として提供し、月額使用料という形態で収入を得る事業モデルです。すなわち、ソフトウエアもデータもインターネットの接続先サーバにあり、使いたいものだけ使う。利用側がそのために必要なのはパソコンとインターネットの環境だけ。したがって、IT初期投資もいらず、バージョンアップもサーバ側のほうで管理し、特別なIT人材を育てる必要もなくなります。
IT設備等を「所有」するのではなく、借りて「利用」するという感覚になります。すなわち、SaaSは、例えば、昔は井戸を掘ったが、今は水道水で蛇口をひねって使った分だけ利用料を支払う、あるいは、発電機を買わずに電線から電気を使った分だけ電気料を支払うというイメージです。
国は電子政府構想においてSaaS化を全面的に支援しています。総務省・内閣官房IT室・経済産業省等は、SaaSにより電子政府構想の高度化、ITの利活用の活性化をするという諸構想を打ち出しています。特に、経済産業省は、中小企業のIT経営を推進するに当たり、中小企業のデジタルディバイドを少しでもなくすために、SaaS事業を「J-SaaS」とネーミングし、積極的に推進しています。
経済産業省のSaaS活用基盤整備事業の概要は、主に従業員数20人以下の小規模企業を対象として、財務会計などバックオフィス業務から電子申告までを一貫して行える、便利なワンストップサービス(SaaS活用型サービス)を官民連携して構築・普及するというものです。同時に、中小企業の会計力・経営力向上と電子申請の活用を促進するという事業です。平成21年3月以降、各アプリケーションがリリースされます。
J-SaaS導入のメリットは、「@簡単に利用できる。(PCとインターネット接続環境があればよい)A初期投資が少なくて済む(ハードウェア、ソフトウェアの購入が不要)B高度なITスキルを持った人材は不要。Cデータの管理について、安心 / 安全な環境を提供されている。D導入するための充実したサポート体制も用意されている。」などがあげられています。
また、会計処理上のメリットもあります。平成20年4月1日以降開始した事業年度から「リース取引に関する会計基準」が改定されました。リースを使ってハードウエアを所有(賃貸料などの科目で費用処理)していた企業も、リース物件を「オン・バランス処理」することが義務付けられたため、資産として計上しなければならなくなりました。しかし、SaaSのようなサービスの使用料の毎月定額タイプの支払いであれば、経費計上できます。
これらのメリットから、SaaSは中小企業にとって、IT活用の救世主となる可能性は高いと考えられます。現実には経済産業省のアプリケーションソフトが、市場に浸透し、バージョンアップもされて使いやすいものになるには、数年の時間を必要とすると予測されます。しかし、中小企業にとって数年のうちにSaaSシステムでITを活用していく時代が必ず来るものと確信しています。
以上の検討も踏まえ、中小企業のIT導入活用方法には、現在3つの方法が選択が考えられます。「プログラム開発」「パッケージソフト導入」「SaaS等のサービス利用」。今後、中小企業のIT活用は、コスト面、人材面からSaaS形式が望ましいことは確かです。一面では、中小企業がオリジナリティを活かし、独自性を発揮する場合は、SaaS利用が必ずしも良いとは限りません。しかし、現在のような先行き不透明時代においては、SaaSでIT活用して企業の競争力をつけ、経営戦略的余裕資金が豊富になったところで、オリジナリティを要する部分をプログラム開発から取り組むと言う方法も考えられます。いずれにしても、中小企業経営者には、この時期だからこそIT活用に精力注ぎ、この厳しい時代を乗り切っていただきたいと祈念いたします。
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