「企業再生の核心―中小企業は社長で決まる」
大橋 英敏 記事更新日.09.07.01
中小企業経営開発相談室&大橋社会保険労務士事務所
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1 はじめに
我が国の中小企業は昨年、アメリカで発したリーマンショク以後、急激な景気の落ち込みに見舞われ経営危機に直面しています。この景気の落ち込みは100年に一度にあるかないかの未曽有の落ち込みで、手の打ちようがなく、ただ手をこまねいているのが現状です。
特に愛知県はトヨタの創業以来の営業赤字というトヨタショックに見舞われ、トヨタを取り巻く関連会社は震度7ぐらいの激震に大きく経営が揺らぎ倒産、廃業に至る企業もあると耳に入ってきます。
今回、ここで取り上げる企業再生は、このショック以前から経営体力が衰弱し瀕死の状態に陥っている中小企業を基の元気で健全な企業に蘇がえるにはどんな経営手法が有効か日々の現場経験を交えて考えてみます。
本来、企業の健全な姿は、企業活動から利益を生み出し、従業員はじめ利害関係者等に貢献し共栄共存を図り続けることと思います。
問題なのは企業活動と利益は直結していないことです。通常通り頑張っても利益がない、売上が伸びないどころか下がる、こんな悩みの声を診断現場でよく耳にします。
反面、企業活動から着実に利益を上げている企業もあります。どこにその差、要因があるのかいつも考えさせられます。中小企業の社長は本当によく動き、働きます、なのにこの差は何でしょうか?きっと何かがあるはずです。その何かを現場の経営指導から得たいくつかの要因をご紹介しますが、あえて企業の内部要因に限定します。


2 企業再生とは「通常の企業活動から利益を生みだす」企業に生まれ変わることと考えます。他にいろんな考えがありますがここではこう考えますのでご理解ください。
具体的に企業内で発信される主なシグナルをあげてみます。
(1)  内部要因その1:財務的シグナル
     @連続3期以上赤字決算の企業
     A債務超過の企業
     B債務返済の原資が調達できない企業
     C財務諸表上は黒字でもキャシュ不足
     D担保力に依存する
(2)  内部要因その2:社長自身の資質
     @その日暮らしでビジョンがない
     Aカリスマ性、人心の求心力がない
     B創業者の経営能力は高いが事業承継者が経営知識不足
     C高齢、病弱で経営遂行力不足
     Dリーダーシップ能力不足
     E現場を知らない、知ろうとしない
     F企業計数が読めない(他人任せ)
     G本業以外に準備なく進出
     H見栄を張る
(3)  内部要因その3:事業力の優位性が低い
     @独自の技術力、商品力、製品力がない
     A開発はするが(思い込みだけが先走る)市場と乖離のため売れない
     B企業の自己啓発力が弱い
     C商品、製品のライフサイクルを検証しない
     D市場情報キャッチネットワーク力が弱い
(4)  内部要因その4:人材育成投資に関心が薄い
     @人材能力育成に投資をしない(人材教育に関心がない)
     A従業員、社員の家庭生活の夢を実現させる気概が薄い
     B従業員、社員をけなすばかりで、褒めることを知らない
     C次世代後継者の育成に関心が薄い
     D経営者資質が劣るのに息子ということだけで経営を承継させる  
以上、(1)から(4)の内部要因が複合的に絡み合い企業維持能力を蝕い続け危険領域に加速的に突き進みます。

3 社長はいつの時点でシグナルを気付くべきでしょうか?
(1)遅くとも連続2期赤字決算と次の@とAの現象で気付くべきです。
  @特に売上高が年5%以上連続して減少(市場需要から乖離現象)
  A粗利益が2%以上連続して低下(商品力の衰えにより値下げで売上を確保)
(2)早期発見は内科処置で
企業活動で経営を蝕む要因に気づいた時点で、改善経営計画等を策定し改善行動できるかが再生の分岐点となります。経営を蝕む経営現象の早期発見は内科的処置で済みます。内科的処置はまだ経営体力もあり金融機関の協力も得られ、従業員の解雇、所有資産の売却をせずに再生できる状態の時をさします。この時期でしたら1年で健全化になります。この時期の相談には「㈶あいち産業振興機構、名古屋商工会議所、愛知県中小企業再生支援協議会等」をご利用ください。
(3)手遅れは外科処置で
連続3期赤字決算の企業は外科的処置の着手です。この状態は人間に置き換えると即入院して体内を検査し蝕む原因を突き止め、不要なものを切除します。
良くあるケースは棚卸資産が売上高に比較し多く(通常は売上高の2〜3ケ月分)、過大な有利子債務を有する時、決算は黒字でもキャッシュ不足の企業が多く危険領域です。決算上の黒字が社長の経営判断を狂わせ改善策の着手を遅らせるパターンとなります。社長は支払手形の決済期日と資金調達確保の時間との戦いが続くことになります。

4 シグナルをキャッチした社長の動きが鍵
定性的、客観的な経営事象を把握した時、社長の経営感度が非常に重要になります。
シグナルをキャッチした時点で即対応できる社長とキャッチはしたが対応までに時間を要する社長の差は、後日大きな労力とエネルギーを必要とします。人の健康診断と同じで早期発見が早期再生に通じます。
社長の「早期の決断が企業再生の鍵」となります。
往々にして、中小企業の社長は経営に情を持ち込みやすい、特に人の問題については決断までに4ケ月〜6ケ月要しています。
経営には情も必要ですが時には排除も必要と思います。
次に社長が企業再生へ取組む大きな仕事は経営改善計画の策定です。この計画は実現できる計画であって計画のための計画であってはならない。すなわち「絵にかいた餅」にならないようにします。

5 経営改善計画書の骨子
社長が中心になって計画策定に当たります・
(1)経営理念
(2)経営の目指すべき方向性
     ● 業界が成長産業なのかの見極め、業界でのポジショニング。
(3)事業DD(事業デューディリジェンス):事業の再評価
  事業再生プラン:今後の再生ビジネスプランづくりの元になります。
     ● 事業の競争優位性:収益を生み出す商品、製品、サービスがある
     ● マーケティング力の確認:マーケティング構造の再確認 
     ● ターゲット(誰に)
     ● 何を(商品・製品・サービス)
     ● いくらで(価格)
     ● どのように(販売方法・販売システム)
     ● 誰が(従業員等)
(4)財務DD(財務デューディリジェンス):事業の財務評価
  財務再生プラン:財務内容の洗い出し資金需要を予測します。
     ● 事業の実態査定
     ● 処分対象資産
     ● 確定債務
     ● 金融機関の支援体制
     ● 増資

6 行動計画の策定
経営改善計画の骨子ができると次に社長は行動計画に落とし込みます。
(1)再生のプログラムに優先順位をつけ、時間との戦いが始まります。
(2)行動計画の成果を数値計画に落としこみ計画数値と実現数値を時間の経過で分析し、修正します。
(3)事業再生プランの実施とモニタリング
経営者のやる気度の把握、組織自体が再生ベクトリに向かって能動的であり体制が確立している。
1ケ月に1回モニタリングを実施し、差異については即対応し改善する体制づくりをします。

7 行動計画の成果の測定
再生の見通しは1年目で決まります。1年目で事業再生プランが軌道に乗り予定の成果が測定できない時はそれ以後の見通しが暗くなります。この期間は全精力を傾け行動計画の実現が望まれます。これを乗り越えると再生への道筋ができ計画通りに再生できます。  

8 まとめ
企業再生は厳しい道ですが社長の素早い決断、対応で必ず実現できます。
社長に求められる仕事は
@外部環境の変化に対応できる内部環境づくり
A経営資源の選択と集中
B利益を生む出す仕組みづくり
C従業員(家族)の生活保証
D地域社会への貢献と思われます。
そして笑顔が絶えない元気な企業づくりを目指します。