人材育成は考える習慣(クセ)作りから(第2回)
小藤 省吾

記事更新日.12.02.01

小藤経営労務事務所
■PROFILE
1957年愛知県生まれ
中小企業診断士、社会保険労務士として企業の経営戦略、組織活性化、現場改善、労務管理のコンサルティングを行うと共に、企業、経営者団体の研修セミナー講師として活躍中。現在労使が力を合わせて作る「人を育てる人事制度」の普及、コンピテンシーを用いた組織活性化支援に力を注いでいる」
■連絡先
〒470-2531 知多郡武豊町冨貴茶ノ木15−1
電話 /FAX 0569-73-7140
E-mail: s-kotou@khf.biglobe.ne.jp
小中学生を対象とした進学塾の新聞折り込みチラシに次の言葉が書いてありました。
「自らを奮い立たせ努力する「自燃性」の生徒でしたら、目標を見据え一人で果敢に戦いを進めるだろうと思います。ただこれはなかなか難しい。私たちは生徒の多くは「可燃性」であろうと考えています。一旦火がつくとメラメラ燃える可能性を備えているが、なかなか点火せず、また残念なことに点火しても燃焼が長く続かない」
先回、「自ら取り組むべき課題を見つけ実現のために努力できる「自立型人材」はほとんどいません。他人からきっかけを与えられて動き出すのがほとんどです」と書きました。大人の世界も小中学生の世界も変わらないようです。
■習慣(クセ)作りは自主性に任せないのがポイント
折り込みチラシには次の記載もありました。「我々は生徒・受験生のやる気に火を点け、その火を大きくし、そして継続してその火を燃やし続ける手伝いをするコーチ・伴走者・応援団であり続けたいと願っています」。この言葉を会社に当てはめるなら、社員のモチベーションを高め、自らの持つ可能性を引き出してあげることが、人事管理、人材育成です。この重要な役割を担うのが経営者、管理職であり、叱咤激励の言葉だけでない具体的な仕掛けや仕組みが必要となります。
では考える習慣を作るためにはどうしたらいいのでしょうか。厳しい表現かもしれませんが、社員の自主性に任せないことです。前述のとおり自立型人材は残念ながらほとんどいません。多くの中小企業はまともな人材を採用することに苦労しているのが現状です。
ならば強制的に考えなければならない仕組みを作り、繰り返すことで習慣にすることを考えましょう。 「強制的」とは継続して火を燃やし続けるために、定期的にマッチで火を点ける機会を作ることです。参加を義務付ける、レポートの提出を義務付ける等を繰り返すことで、「考えるという行動」を習慣化させることに重点を置きます。
■5S活動は考える習慣作りの第一歩
考える習慣作りの第一歩として取り組みたいのが5S活動です。5S活動は生産の現場の改善活動というイメージを持つかもしれません。しかし「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾」の大切さはどの業界でも同じです。
先回、「澱んだ緊張感のない会社」と表現しました。「澱んだ緊張感のない会社」の特徴として共通しているのが
・仕事現場の整理整頓がされていない。
・清掃が徹底されておらず設備や道具、社内が汚れている
・仕事の内容がここ数年来変わらない、変化が無い
・仕事に取り組む態度に覇気が無い
5Sの現状から、職場の管理レベルや社員の仕事に対する姿勢、モラールが分かります。現状が仕事をするうえで望ましい環境ではない、自分達の仕事への姿勢が決して褒められる状態でないということに気づかない、気づかないから改めようとしません。つまり仕事について考えることが無いため現状の問題に気付かないのです。5Sのレベルは社員の考える習慣のレベルでもあるのです。
5S活動は考えることの繰り返し
5S活動は「当たり前のことを当たり前に実行できるようにする」ことと定義されます。この当たり前に実行できる状態は「習慣」と言い換えることができます。5S活動を「習慣」にするには、社員が目的や意義を理解し、実践を繰り返し継続することが必要です。
5S活動は、それぞれの現場の現状を見直し、より良い方法を考え実践する活動です。また成果を上げるには全員参加がポイントです。皆で考え実践する全員参加の5S活動であれば、「自分は関係ない」は通用しません。自主性に任せるのでなく強制することになります。
@整理
整理するには必要なものと不要なものの区別をしなければなりませんから、整理する基準を考えなければ区別がつきません。

A整頓
整頓するには必要な物はどこに置いたらいいのか、便利になるのかを考えなければなりません。 この段階で、整理・整頓を行うことで、物を探す時間が少なくなった、作業スペースが広がった等、仕事を進めるうえで、楽になる、早くなる、無駄がなくなるという便利さを実感できることになります。整理・整頓が進めば自分の周りにある作業環境に関心が出てきます。

B清掃
清掃とはゴミや汚れの無い状態にするだけでなく、気持ちよく仕事をするにはどうしたらいいか、きれいな状態を維持するためにはどのようにしたらいいかを考え、細部まで気を配ることです。

C清潔
整理・整頓、清掃を実践することで作業環境の清潔が維持できます。

D躾
整理・整頓・清掃、清潔を日常的に実践し、作業環境をより良くするために考えることを習慣づけることが躾となります。

5S活動は定着し、習慣になってこそ真価を発揮します。しかし当たり前のことを実行し続けることは大変難しいことです。まして「言われたからやる」といった状況であればほとんど長続きしません。自分で考える、自分が参加することで当事者となり意欲が出てきます。考えた結果を実践し成果が上がったことを実感してもらうこと、身をもって理解してもらうことが重要なポイントです。
このように5S活動は、品質・納期・コストのムダの排除、生産性の向上、事故・ミスの防止等の直接的な効果の他に、全員参加の活動を通じて、コミュニケーションの強化や社員の成長に必要な考える習慣ができ、会社の体質改善、活性化に結びつける間接的な効果が期待できるのです。

次回は考える習慣がついた社員の可能性を引き出す人事制度について考えてみましょう。