対応力・機動性の秘密は
自社開発の「世界に一つだけの製造設備」
浅井耕治 記事更新日.06.05.01
アサヒ繊維工業株式会社 取締役社長
■問合せ先
アサヒ繊維工業株式会社
〒492-8424 稲沢市高重東町51番地
TEL 0587-32-1176  FAX 0587-23-0315
http://www.asahi-fiber.co.jp/asahi-syoukai.html
■織らない布・不織布
不織布とは、文字どおり「織らない布」である。普通は布といえば縦糸と横糸で織りあげた織布を想像するが、不織布は、織ったり編んだりせずに繊維を一定方向あるいはランダムな方向に並べた後、熱や接着剤で固定したり、高圧の水流や針などで絡ませて固定することにより、シート状にした布である。通気性やろ過性、保温性に優れ、身近な物では、花粉症用のマスクや紙おむつ、CD-ROMのケースなどに使われている。
 
この不織布を使い、マーカーの中綿・ペン先、芳香剤・消臭剤の吸上芯、各種工業用フィルター、浄水器フィルター部品等を製造しているのがアサヒ繊維工業株式会社である。
 
日本初の「マジックマーカー」に採用されたインクを含浸させるフエルト製の中綿を製造していたのは同社である。
 
■日本初のマジックマーカー中綿に採用、文具業界へ
昭和20年、現社長の祖父浅井秀雄氏が当時の東亜紡績を退職、アサヒ繊維研究所を設立、現社長の父、浅井寿氏と反毛業を始める。この後、昭和24年にはアサヒ繊維工業株式会社として法人化、再使用のできない繊維くずを元の原料に戻し再商品化する反毛加工や、そのリサイクル繊維を主原料とするフエルトの製造など、不織布事業を開始する。
 
しばらくは順調に仕事を増やしていたが、下請け仕事ばかりであったため、寿氏は「脱下請け」を目指し、フエルトの用途開発を事業の中心に据える。その結果、野球グローブの内側の緩衝材としての利用開拓などを経て、昭和36年にはマジックペンのインク含浸用の中綿用フエルトを開発、日本初のマジックマーカーに採用され、文具メーカーとの取り引きが開始した。
 
当時、マジックペンのペン先はフエルトで作られていたため強度がなく、ペン先の腰がすぐに折れてしまっていた。寿氏はここに目をつけ、繊維を接着剤で固めるなど試行錯誤を重ね、インクの含浸力があり、強度も確保したペン先を開発する。このペン先はヒット商品となり、国内だけでなく輸出も行い、昭和44〜46年にかけて、外貨獲得に貢献した企業として「輸出貢献企業」の通産大臣表彰を受ける。
 
■熱接着繊維の可能性を活かす自社開発の生産設備
熱接着繊維とは、熱により他の繊維と融着することで布の形状を固定させる繊維を指す。芯材に溶融温度の高い繊維を、その周りに溶融温度の比較的低い繊維をコーティングした二重構造になっており、コーティング材の溶融温度以上、芯材の溶融温度以下で熱源の温度設定をし、熱処理すると、コーティング材同士が融着して形状が固定し、かつ、芯部は繊維のまま維持される。この素材で不織布を作ると、形状の固定化と不織布の特徴である多孔質による通気性・ろ過性・保温性というトレードオフが改善する。
 
この熱接着繊維を使った製造技術は、現在でも売上の大半を生み出す原動力となっている。その秘密は「世界に一つしかない機械」にある。
 
同社では製品オーダーを受けると、品質向上のために専用の製造機械・治具類をすべて社内で開発している。これにより、短納期に対応できる製造の対応力、機動力が向上、試作段階からラインで製造をするため安定した製品供給を可能にしている。
 
特に得意としている独自技術は立体成形である。不織布をつくり、それを成形機でグルグルまくことで立体化、その後熱硬化するのであるが、このノウハウが自社開発設備に秘められているのである。

こうして、現在では熱接着繊維の用途開発による技術を積み重ね、ファイバーロッドとフィルターという2商品群で売上の9割ほどを占めるようになった。

ファイバーロッドとはマジックペンの筆記具用中綿(インキの吸蔵体)、液体芳香剤の吸上げ芯、医療用部品等、液体を吸上げ・保持する役割を果たす商品群である。

スライバーを作る際に、液体を吸収しやすくするため、繊維が一方向に並ぶように作り、熱硬化させている。
 

ファイバーロッド

フィルターは、機械的強度が大きい特徴を持ち、各種工業用、塗装用等の高圧がかかる部分にも使用され、家庭用・業務用の浄水器等にも使用されている。繊維のみのシンプルな構造のため、60%ほどの空孔率が確保でき、圧力損失が少なく流量が多くとれる。圧力損失が少なければ、設備に求められる規模も、よりコンパクトにすることが可能となり、設備投資のコストダウンにもつながる。
 

フィルター

■用途開発への挑戦のシンボリック商品「セルイレイザー」
同社は、最終製品を支える機能部品を製造してきたが、2003年、用途開発の一つとして最終製品を手がけている。ホワイトボード用のイレイザー“セルイレイザー”である。ファイバーロッドを拭き取り部分に使い、拭き取り粉は繊維の間に入り込み、拭き取り性能が長く維持される。また、セル方式をとっているため、拭き取り能力が落ちたセルだけ個別に取り替えることができる。4セルタイプが2003年グッドデザイン賞を受賞、2004年には1セルタイプ・2セルタイプでも受賞を果たした。
 

「これは、用途開発を求め続ける当社のあり方の一つなのです」と浅井社長は語る。「我われのような機能部品を100%受注生産で行っているような企業は、より多くの企業、とりわけ設計・開発の方に知っていていただくことが重要になります。セルイレイザーの開発もそのような意図からです。不織布の、そして、熱接着繊維の可能性をより多くの方に知っていただきたいのです。多くの企業の方に、当社製品の機能を評価していただきたいと思っています。『金メダル』の評価をたくさんの用途でいただけるはずです」。
 
『金メダル』の自信の裏づけは、用途開発を通じて培った製造技術の積み重ねと、自社開発の製造設備である。
 

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久