「一個づくり」を得意技に。金型部品商社、発想の転換
佐々木 正喜 記事更新日.07.05.07
オネストン株式会社 代表取締役
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オネストン株式会社
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http://www.honeston.co.jp/

■「1オーダー10個」は量産品

「社長、今日は同じ部品を10個も作りましたよ。こんなに同じものが多いと疲れてしまいますよ」。メーカー機能を持つプレス金型部品専門商社、オネストン株式会社佐々木正喜氏は社員のこうした声を聞き、わが意を得た思いがした。

普通の企業であれば、多品種少量は手間がかかり敬遠したいオーダーである。しかし当社の1オーダー当りの平均生産個数は1.4個。金型部品業界では「1個が当たり前」と発想を転換し、多品種少量・単品受注への積極的対応を特徴に業績を伸ばしている。10個が「量産」と感じる社員の言葉はこうした「1個づくり」の戦略が社内に浸透している証拠である。

1971年、現社長の佐々木氏が34歳の時独立、オネストン商事株式会社を設立した。金型部品の専門商社として創業、現在ではパンチ・ダイ・ダイセット・表面硬化処理・ばね・カムユニット・軸受・ファインセラミック製品などを取り扱っている。

佐々木氏は、工業用ゴム製品商社勤務時にプレス金型用ゴム部品を取り扱う仕事に携わっていた。1970年、欧米の業界事情を視察した際、現業のゴム部品だけよりも金属製プレス金型部品に将来性を感じ、独立、オネストン鰍設立する。

■メーカー機能を特徴とし成長

オネストン鰍フ最大の特徴は「メーカー機能を持つ」「多品種少量・単品受注に積極的に対応する」プレス金型部品専門商社であることだ。

「メーカー機能」とは何か。そのヒントは設立後まもなく訪れる。

当時はJIS規格の標準品しか存在せず、例えばパンチの先端径であれば、6.0ミリ・6.2ミリ・6.5ミリの品しかなく、規格外の6.25ミリ径が必要となれば、ユーザー企業で6.5ミリの径のパンチを購入し、その後自社内や外注等で再加工し使用していた。

こうした潜在的な需要に目をつけた佐々木社長は、自社に標準品を加工仕上げする研磨機を導入、ユーザー企業の必要とする金型部品を提供できる体制を整え、同時に手間がかかり他の企業が敬遠しがちな多品種少量・単品受注を積極的に受け入れることで、事業拡大のきっかけをつかむ。

 受注量の増加に対応するため、1996年岡崎工場を開設。本格的に「メーカー機能」へのシフトを行った。同工場は2005年同じ市内で移転拡張した。

■「一個づくり」に向け、セル生産方式を導入

このころから、「単品対応もできます」から「少量・単品生産を得意技にする」へと、積極的な発想の転換を行う。規格品の再加工だけでなく、「特注品」と呼ばれる、ユーザー独自仕様の金型部品のオーダーにも積極的に対応するため1999年小牧工場を開設した。
小牧工場開設にあたっては少量受注を強く意識し「1個づくり」とは何か、を徹底的に研究。1個受注に対して、材料発注こそ工場長が行うものの、一人の担当責任者が切削加工、研磨、仕上、検品まで担う「セル生産体制」をとり、少人数チームで、作業者を囲むように研削盤やマシニングセンター、旋盤を配置し、作業の効率性を高めた。

「通常の現場であれば、工程ごとの担当を作り、その工程ごとのプロフェッショナルになっていくというのが普通だと思います。しかし、そうなるとその人が『これは自分のマシン』といって他の人に触らせなくなったり、その人が休んだ場合にマシンを動かせなかったりという企業リスクが発生します。当社は1オーダーあたりの生産個数が1.4個と少量であるということもあったため、セル生産方式を導入し、多能工であると同時に、多くの工程で高度な加工技術を持つ『現代的職人』になってもらおうと考えました。『この製品は自分が作った』という責任感・達成感も高いようです。」と佐々木社長。

■メーカー機能を左右する「図面を読み込む力」

メーカー機能を持つ、ということは製造部門を持つということだけではない。受注の最先端にいる営業マンが「ものづくり」をわかっていなければならないし、当然図面も読みこなせなければならない。客先からの図面も完全でないケースもあり、どの情報が追加情報で必要なのか、ということも製造にかかる前にチェックする必要がある。特に、当社の特徴は「1個づくり」。標準品と違い、オーダーごとに異なる顧客ニーズに対しどのような対応が必要か、価格はどうするか、納期は可能かなど判断していかなければならない。こうした「目利き」ができるよう、新人の頃から、機械加工・熱処理などのものづくりの基本に始まり、図面を読み込むための研修を集中的に行うことで、体制作りを行っている。

営業部隊31人の中、女性が7名含まれるのも特徴である。社長自身、女性が関わることの少ない業界だっただけに、当初は得意先からの反応を気にしていたが、抵抗なく受け入れられた。「まだ女性が珍しい業界ということもあってか、お客様からは丁寧に教えていただけることが多いようで、かえって、自社内の教育よりも役に立つことが多いようです。このようなこともあってか、業界では『女性を上手に活用している会社』という評判もいただいているようです。当社としては男女の意識なく平等な扱いをしているだけなのですが。」と語る。

このように「1個づくり」の考え方にフォーカスし、製販両面での実行フォーメーションにより、当社の成長は支えられている。2004年のアメリカレキシントンでの子会社設立、2007年の今後自動車産業集積地となる可能性を秘める福岡への営業所展開など、「『一個づくり』を世界に」広げていこうとしている。

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久