株式会社近藤機械製作所の近藤信夫社長は、一枚のファックスを手に、青ざめていた。
送り主は大手取引先。主力商品であるハードディスク部品の加工・組付マシンの「来月以降の納入予定数」が全てゼロに訂正されていた。『あれだけのことを言ったから、とはいえ、困ったことになった…』。
二週間ほど前、取引先からの10%コストダウンの要請を断っていた。「これほどの精度のものは他社ではできないはず。コスト的にもギリギリでやっている、最近の材料の値上げもあり、これ以上のコストダウンは不可能だ。逆に、価格アップをお願いできなければ、お断りする」。
無謀とも言える要求を取引先に突きつけていた。
しばらくして、頭を抱える近藤社長のもとへ、女性社員が1枚のファックスを持って駆けつけた。
内容は、要求どおりの価格にアップした単価での発注である。つまり、最初の1枚は旧価格での発注を取りやめ、2枚目のファックスで価格アップした新価格での発注を行う、という内容であった。
「翌月以降の仕事の大半が全部キャンセルになっているのを見て慌てた女子社員が、2枚目が出てくるのを待たずに、1枚目のファックスを持ってきたようです。それほど、当時の当社にとっては、あの発注がなくなるというのは大事件だったのです」と近藤社長。
大手企業でさえも、実力を認める技術を持つ企業、それが葛゚藤機械製作所である。
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