『消えてなくなるための技術』で空間を追求せよ
鈴木輝彦 記事更新日.08.06.02
クロタ精工株式会社 代表取締役社長
■問合せ先
クロタ精工株式会社
〒447-0887 碧南市汐田町1丁目26番地
TEL 0566-41-3420(代)  FAX 0566-48-4400
http://www.kurotaseiko.co.jp/
■トヨタ・カムリのワンツーフィニッシュに貢献
アメリカで大人気のモータースポーツ「NASCAR」。このNASCARで2008年3 月9日トヨタ・カムリが参戦2年目で快挙を成し遂げた。NASCAR最高峰 のスプリント・カップ・シリーズで初優勝、1位2位を独占したのである。このレーシングカーエンジンの主要部品の製造に関わり、製造法は門外不出とされる鋳物用中子の製造を行なったのがクロタ精工株式会社である。

クロタ精工鰍ヘ昭和38年、鉄の鋳物メーカーであるクロダイト工業から、シェルモールド法による鋳造を立ち上げるにあたり、鋳物用中子専業メーカーとして分離設立した。社長に任命されたのが、当時同社の番頭格であった鈴木春男氏である。

■樹脂コーティングした砂を使用するシェルモールド法
鋳物用中子とは、空洞部分がある鋳物製品を作る際に使われる“型”である。
鋳物は、上下2つからなる鋳型の中へ、鉄やアルミなど金属の溶けた溶湯を流し込み、冷えて固まった後に、型から取り出すことにより成型される。では空洞部分が必要な場合どうするか。もちろん成型してから鋳物をくり抜くのではない。

空洞にしたい部分の形状の型を予めつくり、上下の鋳型と組み合わせて成型すると、組み合わせた型の部分には金属が流れ込まないため、空洞部分のある鋳物となる。この空洞にしたい形状に作った型のことを鋳物用中子という。

当社では鋳物用中子を「シェルモールド法」と呼ばれる方法で製造している。これは、砂をフェノール樹脂でコーティングした「レジンコーテッドサンド」で成型する方法である。300℃前後に暖められた型の中へ、樹脂コーティングされた砂をエアブローで吹き込む。すると、暖められた型に接触した部分では樹脂同士が固まり、鋳物用中子ができあがる。現社長の鈴木輝彦氏曰く「タイヤキを作るようなイメージ」とのこと。

鋳造時、鋳型の中に入れられた中子は、溶湯が流し込まれると、空洞部分を作るとともに、溶湯の高温により、固まっていた樹脂が徐々に燃え尽き、最後にはさらさらな砂となる。一方、鋳型の中では中空形状の鋳物ができあがり、さらさらの砂へと形を変えた中子は型を外した後に容易に取り出すことができる。

この方法の特徴は、従来の砂型鋳物に比べて高い寸法精度の形状ができること、滑らかな表面に仕上げることができること、鋳型の製作が容易で大量生産することが可能、などの点があげられる。

■鋳物用中子は責任重大
鋳物の中空部分は、その多くが油や水、気体などの通り道になる。つまり、外見上は内側に作られた空洞であっても、気体などが通る通り道としては「表側」となるのである。

例えば自動車のエンジン部分へ空気を送る「インテークマニホールド」という部品では、大気が通る内部を鏡面仕上にするほど馬力が上がる。このため、この内部の滑らかさを出すために、シェルモールド法が使われ、さらに当社では、中子表面をより滑らかにする工夫も施している。

いずれにせよ、中空状の内面の成型に関わるものであるため「正しい寸法で中空になっているか」「中子が鋳物内部に残っていないか」「内部の仕上がりが要求どおりの滑らかさになっているか」という確認は、製品を割らない限り、外見上は出来栄えが判断できない。見えない部分で製品の品質・再現性・安定性を保証しなければならない、という点で鋳物用中子は責任重大で高い信頼性が要求されていることがわかる。

■鋳物用中子で困ったらクロタ精工へ、方案作りの妙
「当社への案件は、複雑な難しいものばかりです。複雑な形状になるほど『方案作り』が大切になります」と現社長の鈴木輝彦社長。

当社では、暖めた型の中にレジンコーテッドサンドをエアブローする方法で中子を成型しているため、形状が複雑になるほど「型のどこから材料をブローするのか」「ブローした空気抜き穴をどこに設定するのか」をよく検討しなければならない。例えば、抜き穴の位置の設定を間違えると、空気が抜けすぎて、サンドを型のすみずみまで行き渡らせられず、想定の形ができなくなる。また、空気抜き穴に最適な場所が見つかっても、型を作る段階でそこに穴をあける想定がなく、型の形状の都合であけられない場合も出てくる。

「そうしたことにならないよう、型を作る段階からそれを関係する型メーカー、鋳物メーカー、そして当社が参加して、お互いが知恵やアイデアを出し合いながら『方案作り』を進めているのです」。

「他社でうまくいかず、困り果てて当社へ持ってこられるケースもよくあります。でも、当社で解決できないときに『クロタさんでもできないのでは、仕方ありません。あきらめます』といわれた時は、申し訳ないと思う反面、当社に寄せられる期待の大きさを誇らしくも思いました」

■経営計画をマネジメントツールとして活用、現場力が向上
当社では、全員が会社の目標に向かって取り組むために、年度当初に経営計画の発表会を全員で行なっている。

経営計画書は、中期計画、それを受けての年度計画、さらに各部門長の行動プラン、個人別の「目標管理シート」へとつながる。個人目標は半年ごとに評価を行った後、全員が社長と面談を行なう。

経営計画については毎月の進捗状況を会議でチェックする。1年間の利益計画を上回った場合、オーバーした分について、一定のルールで成果配分を行う制度も設けた。

「このように年度計画をマネジメントツールとして使い始めるようになって、現場が一つの目標に向かって動き出したと感じるようになりました。前期は減収でしたが増益とすることができました。現場の力がついてきたという実感がでてきました」と手ごたえを感じる鈴木社長である。
 

考えてみれば、鋳物用中子は、不思議な技術である。精密に成型すれど、使命は、意図どおりの空洞を作り『消えてなくなること』なのだ。

「ですから、わが社の経営理念は『空間の追求』なのです。設計どおりの空間を作り、いかにきれいに消えるか。こうした技術力の源は人材です。人が品質をつくるのです。設備ややり方はまねができますが、人間だけは容易にまねをすることはできません。ですから人材育成や技術の伝承には気を配っています。それは他社ではまねをできない差別化ができるからです。」

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久