品質で日本一の個性的ローカルメーカーを目指す
志賀重介 記事更新日.08.08.01
株式会社金トビ志賀 代表取締役社長
■問合せ先
株式会社金トビ志賀
〒443-8603 蒲郡市丸山町4番38号
TEL 0533-69-3111(代)  FAX 0533-69-3119
http://www.kintobi.co.jp/
■有名うどん店から支持される小麦粉
株式会社金トビ志賀は、大正6年初代社長志賀八五郎氏により創業、以来90年余り製麺用小麦粉の製粉、乾麺の製造を行ってきた「全国唯一の麺用小麦粉専門メーカー」である。製麺用小麦粉の「かもめ」は、うどん業界では高品質ブランドとして知られる。

「生産効率だけにとらわれず、丁寧に品質の良いものをつくることに専念してきました。量産することで規模を伸ばすという選択もありました。しかし、高品質でうどん店の職人の方から評価を受ける、その点では他社に負けない、ということで自社の独自性を確保してきました。」と現社長の志賀重介氏。味噌煮込みで有名なあの店も、カレーうどんで有名なあのチェーン店も、名古屋のうどん店の半分以上は当社の小麦粉を使っているといわれる。

多数の有名うどん店が安心して使用し続ける理由は、季節による使用感の変動が少なく、安定して風味・コシのあるうどんを作ることができる、という点にある。その安定した品質は、当社が長年培ってきた材料ブレンド技術、うどん用小麦粉に特化した製造技術に支えられている。

■職人技が支える材料ブレンド技術
まず、材料ブレンド技術。
当社の小麦粉の原料は、主にオーストラリア産のうどん用小麦と愛知県産小麦をブレンドしている。たとえばオーストラリア産小麦は品質が安定しており、うどんの腰を出すという点で優れており、愛知県産小麦は風味の点で非常に優れているため、ブレンドによりそれぞれの品種のメリットを引き出している。

しかし、農産物である小麦は、品質が安定しないのが当たり前である。小麦の収穫時期ごとの出来不出来はもちろん、同時期の収穫であっても畑ごとでその品質は微妙に異なる。安定しない材料を製品として安定させるためには、原料ブレンドの職人技が大きな鍵を握っている。

小麦の収穫時期を迎え、小麦粉の材料が突然旧小麦から新小麦に変わると、含水量が大きく変動し、小麦粉の使用感も大きく変わってしまう。そこで、ユーザーに変化を意識させないよう、長期間新旧をブレンドしながら材料の入れ替えを行なっている。また、オーストラリア産と愛知県産小麦、それぞれの収穫時期が12月と6月と時期がずれているために、年中これらのブレンド比を調整しながら品質の安定を図っている。

収穫する畑ごとの違いは、挽いた小麦を、一番粉(内層粉)、二番粉(中層粉)、三番粉(外層粉)に分け、さらに粒子の大きさ・比重等の基準で25〜30種類に細分化、小麦の出来により微妙なブレンド具合を調整することで、均質化を実現した。

さらに、夏用と冬用ではコンマ数%だけ含水量を変えるなどの調整の手間をかけることで、麺打ち段階での安定した使用感を実現しているのである。

■うどん用小麦粉に特化することで培った製造技術
そして、製造技術。
生産効率を上げようとすると、大量の小麦を一度に製粉機にかけるか、製粉速度を上げることになる。いずれの場合も粉砕時の摩擦熱で小麦粉の温度が上昇するため、粉の表面を傷めてしまう。そうした小麦粉からは、風味が落ち、べたついた麺しかできない。

そこで、麺専用の製粉業者として「どうやったら、風味やコシがあり、年間通して使用感が変わらない小麦粉を作ることができるか」ということに絞り込み、生産方法を試行錯誤してきた。

「当社はうどん用小麦粉に特化していますので、うどん用に最適な製造工程を実現することができます。この点は様々な小麦粉を製造する企業ではできないことだと思います。中には機械メーカーの方からは『変わった機械の使い方をしていますね』と言われるマシンもあります」。

小麦粉は「石臼挽き」を手本に、麺は「手打ちうどん」を手本に、生産効率を多少犠牲にしても、丁寧に製造することで、小麦粉が本来持っている「自然の風味」を残すことができ、プロのうどん店から、「水回しをすると小麦の甘い香りがする」と高い評価を受けている。

さらにうどん店が使いやすいよう、小麦粉のラインナップも揃えている。使いやすく総合力に優れる『かもめ』、色艶に優れ、冷やしうどんやざるうどんに向く『ゴールドかもめ』、強い腰の麺ができ煮込みうどんなどに向く『金トビ』など、時期のメニューに対応した小麦を提供している。

■口コミで広がる製麺事業
吟味された小麦粉を原料にした製麺事業も着実に伸びており、売上の50%にまでなっている。最近でこそホームページで販売を始めたが、通販は40年ほど前から行なっている。

特約店を通じた店売りが基本であるが、当社の乾麺のファンとなった人が、引越しにより近隣で購入することができなくなり、「お取り寄せ」に対応したのがきっかけである。その後、取り寄せをした人が、友人に紹介し、その人から取り寄せ依頼が来るなど、口コミで広がった。一切宣伝を行なわずして、通販売上は麺売上約4億円の3割を占めるまでになっている。固定客やお中元で利用している顧客には時期ごとに「昨年はこういう商品をこういう送り先でご利用いただきました。今年はこういう企画を用意しています」とDMを送るなど、ファンの固定化にも余念がない。

■新たな取り組みで全国・海外へ
「当社は伝統の職人技を受け継ぐ製法で製造し、麺打ち技術を持つうどん屋さんの厳しいご意見により支えられてきました。製品・技術ともある意味安定していますので、ともすると、安定志向になりがちです。こうした社風に刺激を与えようと、いろいろな取り組みをしています。その一つが三河のこだわりの商品を統一ブランド化した『三河武士サムライ』ブランドです。地元出身のプロデューサーの方が始めたプロジェクトで、昔の藩ごとにプロジェクトを作っており、現在は尾張・加賀・安芸などで同様のブランドが立ち上がっています。異業種の方とコラボをすることにより今までにない刺激があり、新しい活力が生まれてくればと思います。
また、中国や欧米への本格的な販売展開も検討しています。中国には製麺会社が3000社ほどあるようですが、“高品質・安全・安心”を旗印に「おいしい金トビめん」を中国を手始めに、世界へ発信していきたいと思っています」。
取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久