南山園ブランド抹茶、伝統製法がISO22000で進化
富田 清治 記事更新日.09.11.02
株式会社 南山園 代表取締役
■問合せ先
株式会社 南山園
 〒444-1198 安城市藤井町南山20番地
TEL 0566-99-0128  Fax 0566-99-3199
http://www.sun-inet.or.jp/~nanzanen/
■風車が回る生産工場は「環境」と「衛生」がテーマ
愛知県を東西に貫く国道23号線。東海地方では欠かせない大動脈である。この国道23号線を走ると、安城市と西尾市との境界、矢作川沿岸に高さ30m、1枚の羽が15mの大きな風車を見つけることができる。株式会社南山園の製茶工場である。平成19年、現工場の完成と同時に環境への配慮から風力発電用の風車を設置した。風速2m以上になると作動する風車により発電した電力は、抹茶生産に活用され、その発電量は1年間にブナの木2000本分が吸収するCO2を削減に匹敵する。
当社のお茶作りのテーマは『環境』と『衛生』です。茶園を自社所有し、栽培から加工販売まで一貫体制で生産しています。茶園経営をする立場からも、環境に対しては同業他社よりも敏感だといえるかもしれません。その取り組みの一環として風力発電の設置に踏みきりました。」と鞄山園社長の富田清治氏。
鞄山園は、昭和10年専業の茶園経営により創業、昭和30年に碾茶荒茶問屋として碾茶精製工場を増設抹茶の製造を開始し、昭和58年に法人化し現在に至る。
南山園の抹茶は「南山園ブランド」として知られ、当社の抹茶を使用したロッテの「贅沢濃茶点前」やローソンの「抹茶白玉パフェ」、ドトールの「濃い味抹茶ラテ」などのパッケージには『南山園』の冠が記される。
■その土地のお茶のことを最も知る企業
鞄山園の特徴は3つある。
1つめは「その土地のお茶のことを最もよく知っている」ということ。
当社は茶園を持つ抹茶メーカーであるが、こうした抹茶メーカーは日本で数社もない。これは、当社が茶園のことまでわかっている数少ないメーカーある、ともいえる。そして、茶園からブレンドまでお茶の全てがわかる「茶師」は8人を数えるまでになっている。
「普通は1社の1〜2人程度ではないでしょうか。当社は8人いますので、全国一だと思います。私が若いころには『茶師の育成なんて時間のかかることやめればいいのに』と思ったこともありましたが、先代が『どんなことがあっても、絶対にやめてはいけない』と、時間をかけ人材育成してきました。今になって分かるのですが、技術は一度やめると絶対にもとにはもどらないのです。失われている技術・ノウハウが当社には豊富に残っている。これは大きなアドバンテージです。先代社長である現会長には感謝しています」。
自社で茶園を持ち、調達する茶葉も当社周辺の茶園からに限定していることから、材料のトレーサビリティが100%管理でき、お茶の出来不出来の傾向までが非常によくわかるとのこと。
「お茶の適採期は前・中・後期とあり、後期に行くほど基本的には質が落ちていくのですが、どの段階でどう質が落ちているのかというきめの細かい変化まで把握しています。
そして、それらの茶葉をどう使うか、どうブレンドするかということがわかる茶師も豊富にいる。お茶のことを知っている企業であるということには自身を持っていますので、大手企業からの信頼も得られているのだと思います」。

■ISO22000は伝統製法を大きく進化
2つめは「食品安全の国際規格であるISO22000の認証をうけ、HACCP対応の抹茶工場として『安全安心な製品工場』を実現している」ということ。
抹茶は、摘まれた茶葉を蒸し乾燥させる「荒茶」へ加工、古葉や不純物を取り除いた後、茎や葉脈を除き火入れを経て「碾茶」という石挽きされる抹茶の原料を作り、それを石で挽き上げて抹茶となる。
当社の石臼で挽き上げる抹茶は4ミクロン。この4ミクロンの抹茶を挽くために荒茶加工段階から多くの努力を払っている。
石臼で挽く際に発生する摩擦熱は、石臼を膨張させ、臼の上下をぴったりフィットすることで上質の挽きとなる重要な役割がある反面、わずか4ミクロンの粉末にとっては、抹茶の風合い・香りにとって大敵ともある。この背反する条件を満たすのがノウハウであり、24時間365日一定になるよう温度管理は欠かせない。
温度とともに重要なのが湿度コントロールである。湿度が3%ぶれると、1000kgの粉末は30kg増える。儲け、ということだけを考えると、重量が増えることは企業にとってプラスであるが、香りの劣化が早く、南山園ブランドに傷をつけてしまう。「温度管理にも気を使いますが、それ以上に湿度管理には無限の努力を払っています」と富田社長。
「ISO22000は作物生産から小売、一般消費者へ届くまでの一連の食品チェーン全体に対し安全管理をマネジメントする手法です。茶園から抹茶という最終製品を作っている当社にとってISO22000の考え方は非常に重要な管理ツールとなりました。昔から品質を上げて安定させるために工夫をしていたことがあったのですが、ISOを導入する過程で、さらにおいしくできるヒントが見つかりました。温度・湿度管理も同様で、現場への出入りの決まり、動線を始めとして、今までやってきたことを体系的にすることで『いいとこどり』ができたわけです。抹茶という日本独特の製品の製法がISOという国際規格とコラボレートすることで食品安全管理体制が確立し、一貫生産の全てに目が行き届くようになりました」。

これに加え、抹茶業界では初というレーザー光による異物除去機を導入、微小な異物はもちろん、農作物の宿命ともいえた小さな虫の死骸まで除去する。「髪の毛ぐらいであれば余裕で除去します。業界で日本一安全な生産現場ができたと自信を持って言えます」。
■茶道の「もてなしの心」の原点を作る誇り
3つめは従業員が誇りを持って働ける職場作りである。
「実は、まだまだ若いころ、私自身がこの会社の後を継ぐということに全く誇りを持てないでいたのです。当時は自動車や電機業界等が右肩上がりで世界を目指しており、そんな中、お茶の製造業なんて日の当たらない仕事ぐらいにしか思っていませんでした。しかし、お茶のこと、とりわけ茶道における『もてなし』の心、日本人の中に根付くお茶の習慣と文化などを勉強するうちに、実は日本人の最も身近な原点をつくっていた、ということを知るようになりました。今では『自分はすごい仕事に就いていたんだ』と誇りに思っています。ですから、社員にも自分たちの仕事が誇れるものだと知ってもらうため、月2回自主参加で茶道の勉強会を開催しています。茶道の心というか日本人の良さの原点を再認識してもらい、親切と思いやり、もてなしの心を忘れずにいてもらいたいと考えています。自分の都合を優先したときにはこういう心が入っておらず、そういうビジネスは、結局、長続きしないものです」。
■高いレベルの安全・衛生管理で健康食品や医薬品材料へ
「1980年日本で最初の抹茶チョコ「古都の四季」を手がけて以後、菓子メーカー、ファミレス、コンビニを始めとして、航空会社の機内食の茶そば等幅広くご利用いただいています。今では抹茶は食品だけでなく、健康食品や医薬品などでその可能性を見出され始めており、とりわけそのような用途では、当社の安全・衛生管理への取り組みに対し高い評価がいただけるのではないかと思っています」。

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久