世代を超えた記憶「クッピーラムネ」
大橋 昌義 記事更新日.10.07.01
カクダイ製菓 株式会社  代表取締役社長
■問合せ先
カクダイ製菓 株式会社 
〒451-0064 名古屋市西区名西一丁目9番38号
TEL 052-531-9281戟@Fax 052-531-9284
http://www.kuppyramune.co.jp

子供の頃を愛知県で過ごした人に「子供の頃、おこずかいで買ったお菓子は?」と聞けば、「ベビースターラーメン」「オレンジマーブルガム」「クッピーラムネ」などは間違いなく上位に挙がるであろう。中でも「クッピーラムネ」は、その味・口溶け感とともに、草むらに座ったウサギとリスのパッケージが発売当初から今も変わらず、幅広い世代に馴染み深いものとなっている。このクッピーラムネを製造しているのがカクダイ製菓株式会社である。

■初期のラムネ菓子は手作り、駄菓子屋では「くじのはずれ」商品扱い
カクダイ製菓鰍ヘ、大正8年に創業者が個人商店で半生菓子(和菓子)を開業したのが始まりである。昭和23年には現在地へ移転、「有限会社大橋商店」としてアメ、ショウロ(餡に砂糖をまぶしたお菓子)、羊かんなどの製造販売を開始。ラムネ菓子の製造販売を始めるのはその2年後の昭和25年で、社名も「カクダイ製菓有限会社」へと変更される。当時はラムネ菓子としての浸透度も低く、単独の商品としてではなく、駄菓子屋などに置かれる「くじのはずれ商品」として瓶詰めの状態で出荷された。
「ラムネ菓子」という単独の商品になるのは昭和30年頃である。この頃には、セロハンで包み、両端をリボン状にひねり包装するスタイルとなっていた。
「当時は型抜きやセロハン包装など完全に手作りの状態でした。会社もラムネが主力というまでにはなっておらず、粉末ジュースなどでの一定の売上を確保していたようです。しかし、粉末ジュースは完全な季節商品で、シーズンが過ぎると一斉に返品され在庫の山となってしまうので、ラムネの売上が伸びるとともに、徐々に縮小しラムネに特化するようになりました」と当時の苦労を語るのは3代目社長の大橋昌義氏である。

■クッピーラムネ誕生。超ロングセラー商品へと成長
ラムネ菓子の存在が浸透し始め「クッピーラムネ」のネーミングにより販売を始めるのは昭和38年のことである。
それまで当社のラムネは、箱詰めした段ボール箱の中に、熱帯魚のエンゼルフィッシュの絵柄が印刷された責任票を1箱に1枚入れて出荷していたため、業界では「グッピーのラムネ」と呼ばれていた。そこで、商品のネーミングをする際に、業界で浸透している通称を使わない手はないと「グッピーラムネ」にしようとしたが、語感的に濁点が最初にくるのは呼びにくいのでは、と考え濁点を外して「クッピーラムネ」となったのである。

同時に当時の二代目社長は「キャラクターがついている商品はお客様から親しまれやすい」と考え、デザイナーに当時すでに日本でも浸透していた「ねずみキャラクター」を参考にデザインを依頼し商品化したところ、版権元よりクレームがつき発売中止を余儀なくされた。「まだ当時は日本でも著作権意識が薄い頃で、クレームによる発売中止ですみましたが、今考えるとぞっとします」と大橋社長。
その後、講談社の雑誌に面白いタッチの動物を描く漫画家が連載をしているのを見つけ、キャラクターを依頼する。送られてきた原画は水彩画でそのまま印刷するのが難しかったため、原画を元にデザイナーが手直しをして現在のウサギとリスのキャラクターが誕生する。
「キャラクターを作ってからしばらくはその重要性もまだまだ認識不足で、そのために原画管理も甘く、新製品が出るたびにキャラクターが太ったりやせたりしてしまっていました。また、りすの前歯は本来2本なのですが、これが1本になったりしています。配送トラックにもこのキャラクターが描かれているのですが、お恥ずかしい話、ここに書かれているりす、実は前歯が1本なのです。原画管理の甘さの戒めですね」。

こうして「クッピーラムネ」が誕生、現在では1台あたり1tのラムネが生産される超ロングセラー商品となった。いろいろなサイズのラムネを作るため5台の整型機が稼働、例えば最も馴染みのある小袋だけをとっても1台4万袋超が日本全国に向け出荷される。
砂糖、コーンスターチ、馬鈴薯でんぷん等の原料を混合した後、型抜き・乾燥して作られるラムネは、口に入れた時の「口溶け感」が独特の食感の重要な要素である。固すぎず、さりとて消費者の手元に渡るまでに型崩れもせずという微妙な硬さで生産しなければならない。今では長年培われた独自の生産ノウハウによる専用機で自動化生産されているが、それでも微調整は欠かせない。

例えば、硬さに大きな影響を与えるのが水分量。梅雨時であれば同じ乾燥工程でも湿度が多く乾きにくくなってしまう。その度合は生産するラムネの直径によっても異なる。そのため、生地を作る際の加水量を、時期により大きさにより微調整するノウハウが重要となってくる。

■注目を集めるキャラクター
60年近い歴史を持つクッピーラムネはラムネのブランドとして確立し、同時に「ウサギとリス」のキャラクターも幅広く浸透している。
おみやげ品として名古屋限定はもちろん、通天閣や大阪城などを背景にした大阪限定ラムネ、キャンディ、乳酸菌飲料、アイスキャンディ等の菓子類の他、タオル、クッション、携帯ストラップ、靴下などのキャラクターとして引き合いが相次ぐ。
ちなみに、このリスとウサギ、名前はまだない。
「マスコミの取材を受けたときにも『50年近くも名前がないなんてかわいそうですね』なんてことも言われてしまいました。当社の発展に貢献してくれた功労者ですので何かの機会を見つけて名前もつけてやらねばとは思っています」とのこと。何年後かには、新しいネーミングで親しまれているかもしれない。

■守り続けられる味と安全性
長年のファンに応えるべく、甘味料の規制が変わった昭和44年以降、こうした製造ノウハウに支えられ、その味や食感は変わることなく伝えられている。
「『親子でクッピーラムネのファンです』というお手紙をちょうだいすることもしばしばあります。長年味を守り続けている立場としては、こうしたお手紙は非常にうれしいものですよ」と大橋社長。
「主なお客様はお子様になりますので、製品の安全性を第一に、ISO取得を初めとして品質管理体制を構築し、クッピーラムネブランドを守ってきました。しかし、その主力のお客様が少子化により減少していくことは明らかです。後継者が新たな商品開発に着手しており、今後はラインナップを整え、ラムネ菓子も合わせてネット通販をするなど新たな取組もしていこうと考えています。」

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久