金属熱処理の総合ソリューション企業を目指して
原 敏城 記事更新日.2014.08
株式会社メタルヒート  http://www.metalheat.co.jp/index.html
■問い合せ先
株式会社メタルヒート
〒446-0007 愛知県安城市東栄町五丁目3番地6
Tel 0566-98-2501(代表)
エネルギーコスト高騰が産んだ「知的資産」活用事業

株式会社メタルヒートは昭和48年に設立した、国内最大級の超大型真空熱処理炉を有する真空熱処理加工メーカーである。

真空熱処理とは、炉内を減圧し真空状態にすることで窒化・炭化・窒化等化合させること無く、光輝性に富む後工程に優位性のある処理方法である。この処理により金属に硬化・軟化を始めとする機械的特性を寄与することが出来る。温度、時間を始めとした真空度、雰囲気、流量などを巧みにコントロールする高い管理が求められる。

株式会社メタルヒートは卓越した製造管理能力により顧客からの信頼を受け、上場会社から町工場まで顧客は1000社以上、常時600社以上の取引実績を持つ。

展望式見学ルームからは、清掃が行き届いた工場が一望でき、管理能力の証明として公開される。取引を検討している企業は見学ルームから見る工場に感心し、見学をした企業の95%以上が取引をスタートさせる。 真空熱処理加工では独自の地位を確立している会社であるが、今、新たな事業展開を始めている。




「熱処理業界というのは、高度成長期もその後もずっと一定の利益を確保し続けていたのですが、『利益が見込まれる』と参入しようという企業もなく、逆に『経営に行き詰まった』と廃業する企業もほとんどない『無風』な業界でした。それが、リーマンショックや近年のエネルギーコスト高騰により廃業する企業が出てきています。弊社では導入した設備をマメにメンテナンスし、長期間使用することで償却費負担を減らし、利益を出す戦略をとってきました。

しかし、平成22年の対売上高エネルギーコスト率は13%だったものが、現在は25%になってしまいました。固定費を抑えることで利益を出してきたのですが、変動費が大きく上昇した結果、従来の考え方では利益が出なくなってきています。

そこで、新たな事業を模索する中、当社の経営資産の棚卸したところ、「企業の信用力」「従業員の質」「従業員が取得した資格・技能」「特許」「協力メーカーとの強固な連携」といった、無形の『知的資産』の活用があまり図られていなかったことに気づいたのです。

『知的資産』の活用であればエネルギーの高騰とは無縁のフィールドで事業展開できるという魅力もあり、本格的な取り組みを開始しました」と原敏城社長。

 



「知的資産」活用事業 その1 金属熱処理ソリューション事業

3年ほど前から動き出したのが「金属熱処理ソリューション」事業。

これは、当社を含めた東海地方で独自の熱処理技術を持つプロフェッショナル企業4社が連携を組み、様々な角度から「熱処理」に関するベストな解決策を提案するという取り組みである。

営業窓口は真空熱処理が得意な弊社が行い、株式会社栗山熱処理(浸炭、塩浴熱処理)、東海高周波株式会社(高周波熱処理)、株式会社名古屋熱錬工業(窒化、浸炭(液浸)熱処理)等の4社が連携し、単独では受注するのが難しかった案件や最適な熱処理方法を模索されていた案件に関し提案を行っている。高精度化、長寿命化、低歪み化、長尺対応、短納期化、試作・特注など「解決事例集」には代表的な十数件のソリューション例が並ぶ。

「熱処理加工業というのは自社の専門に特化しているため、加工に関する相談にも自社の技術の中で最高の解決策を提案してしまいがちです。そのため相談する相手を間違えると仮に他の熱処理方法で簡単に解決できたとしてもそれを知らないまま、なかなか問題が解決しないというケースもでてきます。そこで熱処理のトータルソリューションを提供しようということで個性的な技術を持つ4社が集まったのです。

このようなニーズをお持ちの企業が多かったのか、『金属熱処理ソリューション』として全国各地の展示会へ出店する際には、多くの企業の方と名刺交換をさせていただくことができ、すでに数十件の案件につながっています」と手応えを感じる。


「知的資産」活用事業 その2 熱処理技術教育事業

今年からは、この「金属熱処理ソリューション」を母体として、金属熱処理に関する教育事業も始まっている。 「金属熱処理基礎講習」の座学コースと実践コース、「金属熱処理管理者養成講習」を用意し、愛知県職業能力開発協会・安城商工会議所の後援も受けている。講師は当社社員が中心となり、内容によってはソリューション参加企業の社員が専門的な内容を担当する。



企業のネット戦略を肩代わりする提案で大企業との直取引に成功

「こうしたスクールを開催すると、当社のノウハウを公開することにつながらないか、と心配する声もありました。

しかし、熱処理は製品を分解してコピーがしやすい機構部分とは違い、目で見ても容易に真似ができるわけではありません。また、現場の管理力が大きく品質に左右しますので、学んで知識としてわかっていても展開できないことが多く、講習内容には当社の実際の炉を使用するカリキュラムもありますが、即ノウハウの流出ということにつながるものではないのです。

むしろ、稼働中の炉を使用することに魅力を感じていただき、工業高校の先生なども受講いただくことになったのではないかと考えています。
受講者は熱処理業者だけでなく、メーカーで熱処理の発注を行う担当者の方も多く含まれています。

熱処理というのは、専門家でもない限り一見した色や形だけで良し悪しがわかるとは限らず、ご担当者の方からすると『ブラックボックス』のようなイメージがあるのかもしれません。つまりは、それだけ熱処理の難しさを感じていただいているということで、『金属熱処理ソリューション』のようなソリューション事業というのは必要とされているのかなとも感じています」

教育事業を立ち上げたのには別の狙いもある。

「もちろん人に教えることで『知っている』よりももっと知識が深まるという効果もあります。それに加えて、高齢技術者の受け皿として最適なのではないかと考えています。経験を通じた熱処理に関する知見も活用できますし、教育ができれば給料等で処遇することもできます」

日本のものづくり技術には海外からも関心が寄せられ、来年には韓国からの参加も予定されているとのことである。
「知的資産」活用事業 その3 熱処理炉メンテナンス事業

当社の強みの一つに、設備をマメにメンテナンスし長期間使用することで償却費負担を減らすコスト戦略がある。そこには、様々な真空熱処理炉の様々な不調をメンテナンスし、場合によっては修理まで行ってきたというノウハウの蓄積がある。
ベテラン社員の中には、電話口で不調な炉の運転音を聞くだけでその原因を突き止めることができる強者もいるとのこと。

こうした技術力に目をつけたのが世界一の工業炉メーカーであるドイツのイプセン社である。イプセン社は一時日本の炉メーカーIHIと提携をしていたが、その関係を解消、日本でのメンテナンス拠点を失っていた。

「イプセン社も提携先を探していましたので、当社は株式会社メタルヒートを立ち上げ、イプセン社と提携し、メンテナンス事業に参入することにしました。提携関係はありますが、メンテナンスはイプセン社に限らず全てのメーカーに対応しています。メンテナンスに限らず、炉の移設も引き受けており、設置だけでなく熱処理条件に合わせた稼働試験まで行っています。メタルヒート社には、もう一つ『イプセン社の中部ショールーム』としての顔もあります。実際に稼働中の炉をご覧頂きながら、販売のお手伝いをしています。やはり『熱処理屋』が炉を売ると、同業であるお客様のニーズも非常によく分かり、納得いただけるだけのご説明ができますので、商談の成約率もあげられます」とメリットを語る原社長。

今後は、イプセン社との提携関係を活かして、日独の技術を合わせ、ボリュームゾーンで機能を限定した専用機を開発していきたいとのこと。

金属熱処理のソフト面であるソリューションや教育だけでなく、ハード面である炉の開発からメンテナンスまでを担う、ソフト・ハード両面での「金属熱処理ソリューション」業が誕生する日も近い。



◆金属熱処理ソリューション:http://www.ht-solution.jp/

◆金属熱処理スクール:http://www.metalheat-school.jp

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久