木材から金属、CFRPまで、ものづくりを刃具で支える

代表取締役 森島 裕貴

記事更新日.2017.8

株式会社三光刃物製作所

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株式会社三光刃物製作所
〒454-0836  名古屋市中川区福船町3丁目1-25

木工用刃物でスタート、ニーズ変化により技術も変化

株式会社三光刃物製作所は現社長の森島裕貴氏の父親が1971年に創業。創業前に木工関係の仕事をしていたことから、木工用刃物の製造業として独立した。
創業地の熱田区、現在地の中川区ともに運河の流域で材木業者や家具製造業者が林立し、こうした事業所で使用される回転工具の刃を製造していた。
一般的なカッター、チップソー、ホールカッター、ルータービット等の刃物を中心としていたが、木枠や柱時計の外枠などデザイン性の高い加工を短時間でするための「総型刃物」と呼ばれる特殊な刃物も大から小まで幅広く製造していた。

しかし、マンション建設が増加するにつれ家具の需要が減少、つれて木工用刃物需要も減少していった。ユーザーが加工する素材を木材(無垢材)から、合板、MDF、パーチクルボード、LVLなどへと変化させていく中で、求められる刃具も変化していく。また、メラミンシート貼りや、紙張り、単板張りといった木質系複合材料が増えてきた。また、樹脂系の素材を加工するところも増えてきた。木工事業者は手持ちの木工加工機で樹脂加工に向いた刃物を使用し加工するニーズが強く、独自のアプローチによる樹脂切削刃物が求められた。また、一方で、樹脂加工業者は、マシニングセンターによる加工を中心としていたので、マシニングセンターによる加工プロセスを学び、それぞれの加工アプローチの長所を活かした刃物づくりをすすめるなど独自の技術を積み重ねた。

その後、「軟質系非鉄金属の切削工具」においてはアプローチが近いことから、金属素材の中での柔らかい銅、アルミ向けへの対応も進めることになる。特に家具メーカーに関連した建材やエクステリアの素材として、アルミは鉄に変わる素材として利用が広まっていたことからもニーズが高かった。

ステンレス(SUS)素材の加工は一般的に難しく難削材の一つである。穴あけ加工一つをとっても、切り屑の排出が悪く、ドリルの根元付近に切り屑が巻き付いてしまう。これを防ぐためには、切り屑を切断しながら穴をあける「ステップ加工」をするのだが、その分加工時間が長くなることや工具の寿命が短くなることが課題となる。素材ごとに硬さや粘りなど様々にパラメータが異なるため、それごとに最適条件をだすための技術力が求められる。

「こうやって苦労してお客様が困っていた技術的な課題をクリアすると、今度は『刃物が長持ちし過ぎで次の注文が来ない』という経営上の課題をどうやって解決するのかというのが大変な難問です」と苦笑いする。



顧客ニーズを実現する「最適値」を求めて

もちろん木工、家具業界だけでなく多様な業種の切削・刃物ニーズに対応し、「切削技術」という側面からものづくりの課題解決に関わっている。
「案件としていただく際に、より具体的に詳しい内容であったり、こういう部品加工をしたいという具体性が高かったりするほど、お客様が真剣に悩んでおられるケースが多く、当社も力が入ります。お客様の課題を解決した先には、さらに良くしたいというお客様の課題が出てくる場合がほとんどで、お客様と相互に知恵を出しあってステップバイステップで解決をしていくことになります」。

例えば工程短縮の課題では、エンドミルを使用した3工程の切削工程を工具の形状を工夫するなどして1工程にすることに成功、実施に移したところ、以前よりも工具に負担がかかる部分が発生し摩耗が進むことがわかったため、次は工程短縮を図りつつ、寿命を長くするためにどう改良すればよいかという「最適値」の実現に向け、ユーザー企業とアイデアを出し合いながら進めている。


「お話をいただいた段階で材料さえ提供いただければ、実際に仕事になるかどうかは別にしてとにかく実現可能性についてトライしたいと考えています。目処がついてきた段階で「できます」というお答えをすることも多くあります。すると『よくここまでやってくれますね』という言葉を頂戴することもしばしばです。試作品が1本、2本と数が増えていき、やがては量産品になってくるとお客様に喜んでいただいていることが実感できますね」と森島社長。
工程短縮や仕上がり面の向上、コストダウンなどの課題解決の他、新素材の加工など問い合わせも多様化している。

航空分野への挑戦

新分野として技術開発を進めているのが航空産業分野である。
展示会に参加をするなどをしながら市場調査を進め、カーボン素材向け刃物への展開も始めた。
その一つがバリのでないCFRP加工工具である。バリを押さえ込むシャープなエッジと形状の工夫にダイヤコーティングを加えることで実現させた。




「最後まで切りきる工夫が最大の難関でした。しかし2,000穴以上の穴あけ加工となると刃物の摩耗が起こってくるため、この点をどうするかという課題もありますが、すでにテスト段階に入っており、採用されるレベルにはなっていると考えています。この技術の応用として『CFRP+銅メッシュのバリレス加工』『CFRP+アルミのバリレス加工』『CFRP+チタンのバリレス加工』『1工程によるCFRPの三段穴高精度加工』など、とさらなる宿題をいただくなど高く評価いただいています」。


多面的なアプローチで新規顧客獲得を

受注は既存の顧客からが大きな割合を占めるが、商談会への参加やHPによる新規顧客の獲得も進めている。
展示会での加工物や切削工具の展示提案、HPなどでの刃物の詳細写真や製造刃物での加工動画などによる技術提示という多面的な提案手法により、想定したターゲットからの受注はもちろん、技術力に目をつけた金属関係の加工メーカー、工具商社からのテスト受注につなげている。
さらに、「写真や動画を見たがこんなことはできないか」とさらに難しい相談を受けることも多い。
特にHPでは、問い合わせは月に5〜6件程度だが、約30%が受注につながるとのこと。リピート顧客も、年数度から3年ぶりのオーダーなど様々であるが、当社の技術を頼りにしたリピーターが多く存在することは確かである。

最近では、特殊用途のオーダーも増えてきており、鉄道レール敷設時の溶接部分を平坦に削る工具の依頼も受けた。
「これまでは、海外の刃具をむりやり改造した工具を作るなどしてやりくりされていたようで、当社のHPをご覧頂いた鉄道整備会社の方が、形状の似た刃物を掲載していたのがきっかけでご連絡いただけたようです」。
難しい依頼になると加工技術ごとに強い人材がおり、現場と一体となって解決策を検討する。社員は20代〜40代が大半で、世代が入れ替わった時期は技術的にも苦労したことが多いが、現在では経験も積み、対応できるようになっている。現場技術があるため解決に向けたアイデアもたくさん出てくる。「切削工具の困り事の相談先」としての評判も高まってきた。

「ある案件を1つ解決したところ、同様な課題を抱えている加工業者さんの口から口へ評判が広まり一気に新規顧客が増えたこともあります。当社のような営業組織を持っていない小規模な会社は、技術と経験を着実に積み重ねていくことでこのような販路開拓が実現することは大変ありがたく、また実は一番確実な営業活動だと考えています。今後は特許を取得できるような工具が開発できればと考えています。それには、まず経験を積んでいかなければなりません」と技術を武器にした将来を見据える森島社長である。