見える化、IoTと省エネで、競争力ある多品種少量生産を実現

代表取締役社長 志村 正廣

記事更新日.2017.10

有限会社志村プレス工業所

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有限会社志村プレス工業所
〒485-0076  小牧市大字三ツ渕原新田371-1

1日の生産部品アイテム200〜300種類、1アイテムあたり1〜10個、日に生産する部品点数は少なくても300〜500点、即時生産対応できる図面ストック数は1万点を超える。機械部品、半導体製造用部品からエクステリア部品まで、多様な分野の多品種少量生産を行っているのが有限会社志村プレス工業所である。
一般的に多種になるほど生産動線は複雑化し、少量になるほど1個あたりのコストは高くなる。
これはこうした課題に向き合い、地道に解決していった当社の取り組みの記録である。



他社に先駆け無人化・自動化を実施、機械メーカーから一目置かれる存在に

昭和39年志村プレス板金工作所として先代が創業、昭和が終わる頃にはプレスや曲げ加工などは無人化・自動化を実施するなど先進的な取り組みを行ってきた。その後も同業に先駆けレーザー加工機を積極的に導入するなど、工作機械メーカーからも一目を置く存在として知られている。
当社の大きな特徴は多品種少量生産。それを支えるのが「徹底した工程の分解と標準化で、多様な工程の見える化により実現した『多品種対応』」と「工程の見える化をベースとした大胆な省エネとIoT活用による『コストダウン対応』」である。


多品種対応の現場を「マクロ」と「ミクロ」でコントロールする

「当社の現場では、毎日200アイテムを超える加工物が流れています。ですから現場で適切にモノが流れる仕組みや、それぞれの加工工程で適切に加工がされる仕組みが大変重要になります」と志村社長。
つまり、加工物がどのような工程で流れているかの把握という「マクロ」的視点と、工程ごとの多様な加工方法をどう適切に指示するかという「ミクロ」的視点との2つの面からのコントロールが求められる、ということである。 「マクロ」的視点では、現場で適切にモノが流れる、あるいは流れていることを確認する仕組みとして、加工物とともに一緒に移動する色付きのクリアフォルダがその役割を果たしている。

「カラーフォルダには、色ごとに工程順が予め設定されていて、各工程でクリアファイルの色を見れば次はどの工程へ行くかがわかる仕組みになっているのです。

例えば赤色のフォルダがついた加工物は「レーザでの抜き工程→曲げ→切削→溶接」という工程が決められているとします。それぞれの工程を経て曲げ工程に送られてきた場合、担当者は加工後に次に切削工程へ送る、ということが視覚的に判断できます。こうして次工程への送り間違いを防いでいます。また、フォルダの中には、工程ごとで受入数・加工数を記入する紙が入っていますので、万が一移動ミスや一部加工物の送り忘れがあっても追跡ができるのです。このようにいろいろな工夫をすることで、多アイテムが流れる現場特有の混乱を未然に防いでいます」。


一方、「ミクロ」的視点では、多品種少量生産では宿命的な、各工程での多種多様な加工方法をどうこなすかが大きな課題となる。膨大な加工方法を記憶し精度を出す技術が求められるが、その全てをクリアするのは、よほどのベテランでもなければ難しい。
「当社ではどのような加工工程があるのかを分析・標準化しています。それをもとに、クリアファイル内の加工指示書をバーコード入力することで、標準化された加工手順を表示する仕組みを構築しました。その指示どおりにさえ加工をすれば新入社員も即戦力となります。表示のままの加工を行うだけですので、アイテム数が多い現場で起こりがちな、思い込みによる加工間違いなども防ぐことができるのです」。



このような現場のマクロ面・ミクロ面の取り組みにより効率生産を実現させているのは、ともに、工程をブラックボックス化せず、工程を切り分け標準化しているからこそできる手法であり、日々の地道な積み上げがベースにある。


多品種少量生産の泣き所、「高コスト」を省エネでコストダウン

多品種少量生産現場の大きな課題のもう一つがコストダウン。1回の生産量が少量になっても段取りに等かかる手間は同じのため、1個当たりではコスト高となりがちである。逆に考えれば、他社にはできないコストが実現できれば、多品種少量生産企業の中でも頭一つ抜け出すチャンスがあるともいえる。そこで着手したのが徹底的な省エネ。単なる「電気代の節約」という「ケチケチ作戦」ではなく、生産スケジュールや生産設備のあり方を根本から見直し、より効率的生産現場を目指した結果としての省エネである。

「一般的に電力ピーク対策というと、契約電力いっぱいに近づくとアラームが出てスイッチを切る、というものを思い浮かべがちです。しかし、そうではなく生産工程の思い切った時間シフトを目指しました。多品種少量生産の現場を把握する過程で工程ごとの切り分けが明確となっていましたので、昼間に行う人手を介する作業と夜間に行う無人化工程との区分けは簡単でした。昼間の生産量に合わせ、夜間に無人でのレーザー加工機による金属素材の切り出しを行なうことでピーク電力の平準化を実現しました。夜間への工程シフトをしてもエラーなどで途中停止してしまっては、かえって昼間の生産に負荷がかかります。したがって、いかに『停止しない現場』を作るか、が非常に重要になります。『異常負荷によるエラー停止』などのように単なる加工条件上の停止であれば、その対策も立てやすいのですが、原因不明の停止の場合もあります。こうした場合に活きるのが、『どの工程で異常が発生しどのタイミングで停止したか』という情報の集積です。データを活用することで、例えば、同様の異常が昨年の同時期に発生していたことがわかったり、マシンや工具の使用累積時間との比較からマシンのメンテ不足であったり、工具の摩耗が原因であったりなど、多角的な分析により原因が判明し、やっと解決したこともあります」。

こうしたいわゆる「IoT」の取り組みも他社に先駆けて取り組むなど、日々の積み重ねにより効率的な現場づくりを進めている。


昼間時の電力削減対策も大胆だ。加工機械には1対1でコンプレッサーがつきもの、という発想を転換、1台に配管を集中させ、常時作動するコンプレッサーは1台のみとし、使用電力を大きく削減させた。複数設備が同時に作動し圧力が低下する場合には、台数制御をし2台目のサブコンプレッサーが作動するため、現場への影響は全くない。

こうした様々な観点からの努力により、H26/3では契約電力266kw、使用電力量85,535kwであったがH28/3には契約電力183kw、使用電力量37,042kwと57%減に、電気代ベースでも電気代は半額以下、月100万円のコストダウンとなった。


「技術の履歴書」を作るための研修生受け入れ

当社では、海外研修生を受け入れ始めて16年経過している。単なる安価の労働力確保手段とは考えておらず、自分たちの技術を身につけさせ育てることを第一に考えている。
「3年間で現場技術の履歴書を作るお手伝いをしているという考えで研修生に来てもらっています。ですから日本語検定2級を取得する励みになるよう奨励金制度も用意したり、就業後や休息時には社長の私自らが研修生と日本語による会話を意識的に行ったりし、語学力の向上にも一役買おうと考えています。また、研修生がものを作っている現場で、どのような仕事をし、どのような技術を身につけているか、その実力を見られるようにするため企業PR動画へ出演してもらい、現地に戻った時に使える『動く履歴書』も作りました。コスト面から研修制度を活用する企業もあると聞きますが、そうではなく、当社の技術を活かして現地で羽ばたいていってほしいと考えているのです」。


チタン製ボタンへの挑戦、その狙いは…

近年は、チタンを材料とした意匠性のある衣服用「ボタン」の製造に力を入れている。
なぜボタンなのか。



「当社は少量生産が得意ですので、その強みを活かし、近い将来にチタン材の加工により航空宇宙分野の仕事をしたいと考えています。その加工技術を磨き上げるため、ファイバーレーザー加工機も導入しました。しかし、チタンは高価な金属のため、加工技術を高めるためといえども大きな試作物を次々に作ることはできません。そこで目をつけたのがボタンです。小さなプロダクトですからコストもあまりかかりません。しかしそこにはプレス、絞り、切削、穴あけなど多様な技術がぎっしり詰まっています。さらに、デザイン性を上げるという切り口は従来の当社にはなかった発想で、また新たな技術が必要になってきます。社員には『たかがボタン、されどボタン』と言っており、自社技術を高め、その結果として『ボタン』という形で技術の見える化を実現させ、他社へのアピールをしていこうと考えています。

例えば、ボタン穴一つをとっても高い技術が必要なのです。
レーザー加工による穴あけは一般的にはバリが発生します。そのままボタン穴とした場合にはバリによる糸切れが発生するため、バリレスでの加工が求められてきます。とにかくバリさえ除去すればいいというのであれば、さらに複数工程をかけることで加工は可能となるのですが、コスト面や『技術の見える化』のためのボタンと考えるとそれは面白くない。そこで、当社は1工程・短時間での加工技術の開発をするため、機械加工技術とレーザー加工技術との融合により独自のノウハウを向上させることで実現させているのです」。

これだけ多様な技術と多品種少量生産であれば、お取引先を増やすことも難しくないのでは、と尋ねると「自社からの営業はしません。こちらからのアプローチとなると価格面での競争になりがちですが、困ったのでお宅の技術でなんとかしてくれという仕事は付加価値の確保が容易です。納期、品質、技術こそが当社の最高の営業マンです」と語る志村社長。
半歩先を行く現場力、コスト競争力、技術力で未来を拓く。