就業規則は大切です
小藤 省吾 記事更新日.08.11.04
小藤経営労務事務所
■PROFILE
1957年愛知県生れ
社会保険労務士、中小企業診断士として企業の経営戦略、組織活性化、労務管理のコンサルティングを行うとともに企業、経営者団体における研修セミナー講師として活躍中。
現在、労使が力をあわせて作る「人を育てる人事制度」の普及に力を注いでいる。

連絡先
小藤経営労務事務所
〒470−2531
知多郡武豊町富貴茶ノ木15−1
TEL/FAX0569−73−7140
仕事柄多くの労務相談を受けてきました。内容は些細なことから深刻な問題まで、立場も経営者、管理職から労働者、それも正規社員からパートタイマーなどの非正規社員と、年齢、性別、立場もいろいろでした。

相談の多くは職場で発生したトラブルで、会社と労働者との感情的な諍いが発端です。
労使双方に良好な関係が築けていれば少しくらいの問題は顕在化しません。「お互いさま」の気持ちで済んでいきます。しかし、一旦この関係がこじれると問題は深刻です。
「クビと“言った”“言わない”」、「私はずっと我慢してきた」最後は双方が「うそばかり言っている」とまでエスカレートすることもあります。

なぜここまでこじれてしまうのでしょう。私は職場のルールの「あいまいさに」あると考えています。「あいまい」でも会社がうまくいっているときは問題がありません。しかし「あいまいさ」は不公平感につながる場合があります。「同じ仕事をしているのにAさんと私はどうして待遇が違うの・・・」。
不公平感は、不満につながり、会社、経営者に対する不信になります。不満、不信を持ったとき、今までの信頼関係が崩れ、トラブルに発展することになります。

職場のルールとは、会社も従業員も納得して気持ちよく仕事をするための道具なのです。そしてこの職場のルールを定めたものが就業規則なのです。
今回はお互いが納得して気持ちよく働くためのルール「就業規則」について考えてみましょう。
Q : 
私の会社は、私達夫婦とパートの女性5名の小さな会社です。この規模でも就業規則が必要ですか?
A : 
労働基準法で就業規則の作成、届出義務があるのは常時10名以上の労働者を使用する事業所です。この基準から判断すれば作成義務はありませんね。でも労働基準法は一部を除き規模に関係なく、会社、労働者に適用されます。お互いが納得して気持ちよく働くためのルールと考えるなら作成を勧めます。
Q : 
労務相談に来る会社の規模は?
A : 
実は私が受けた労務相談の多くは、小さな会社からなのです。従業員の場合、決して悪意を持って相談に来るわけではありません。「どうして有給休暇がないの?」といった素朴な疑問が始まりです。この疑問に経営者や担当者が誠意を持って対応しないことがトラブルの原因となるのです。
Q : 
就業規則を作るときの注意する点は?
A : 
就業規則には絶対に定めておかなければならない事項(絶対的記載事項といいます)と、規定を設けるのは自由ですが、設けたときは必ず記載しなければならない事項(相対的記載事項といいます)があります。今回は絶対的記載事項について示します。

絶対的記載事項
1. 始業及び終業の時刻
2. 休憩、休日、休暇に関する事項
3. 労働者を2組以上に分けて交代就業させる場合における就業時転換に関する事項
4. 賃金(臨時の賃金を除く)の決定・計算及び支払いの方法
5. 賃金の締切り及び支払いの時期に関する事項
6. 昇給に関する事項
7. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

内容をご覧ください。多くの労働問題のトラブル原因となっている、労働時間(1に該当)、年次有給休暇(2に該当)、割増賃金(4に該当)、退職、解雇(7に該当)が入っています。

トラブルの原因が、働くルールの「あいまいさ」にあると考えれば、就業規則を作ることではっきりさせることができます。また作る過程で今まで「あいまい」にしてきたこと、「はっきりと決めていなかった」ことをじっくりと考えることができます。職場のルールのあいまいさが従業員のモラルやモチベーション、結果として会社の業績に関係していたかもしれません。実はこの過程が会社の現状、問題点を考える絶好の機会となるのです。
Q : 
就業規則作成に際し、今までの相談内容で参考になる例はありますか?
A : 
事例で紹介します

<相談内容>
賃金計算期間の半分くらいで中途退社した従業員に対し日割り計算で賃金を払った。後日内容証明郵便で「月給対象者だから全額払ってほしい」と請求が来た。全額払わなければならないか?

回答
賃金計算期間全てに勤務することが前提で月給額が決まっています。この前提を満たしていないため全額を支払う必要はないと考えられます。しかし、欠勤しても賃金の減額がないのが月給と考えていれば全額払ってほしいとの要求があってもおかしくはありません。とすると、次のようにルールとして決めておきましょう。

記載例 
・月給対象者であっても賃金計算期間の中途で、退職または解雇した者は日割り計算で支給する。
*日割り計算の計算式も決めておくことが必要です。

<相談内容>
休職期間満了後、復職してきたが、1ヶ月してまた同じ病気で休職させて欲しいと申請があった。また休職させなければならないか?

回答
就業規則に定められた休職に関する定めで対応することになります。しかし、会社としては同じ病気で休職を繰り返されるのも困ります。本人と十分に話し合うことが大切ですが、対応のルールを決めておく必要もあると思います。

記載例 
・復職後○ヶ月以内に同一または類似した傷病で、再び休職する場合は、休職できる期間は通算する。

就業規則というと参考図書に載っている雛形をそのまま活用して完成というケースを見受けます。これで問題はありませんが、自社の現状を踏まえて作成しなければ職場のルールとして機能せず、場合によっては労使双方が“こんなはずではなかった”と不満を持つことになりかねません。

就業規則はいろいろなケースを想定して作成することが大切と考えています。そして、分かりやすく、具体的に記載することが必要です。またどちらか一方が意見を押し付けても「納得して気持ちよく働くためのルール」はできません。
労使双方が相手の立場を考えて、望ましい職場のルール「就業規則」を作りましょう。