ファン・ポンプの省エネ
野口昌介 記事更新日.07.09.03
野口技術士事務所所長
■PROFILE
1934年愛知県生まれ。
三菱電機(株)、フォスター電機(株)、日本電産(株)を経て、平成3年野口技術士事務所を設立、現在に至る。愛知県中小企業支援センター専門員、愛知県商工会連合会専門員。

<資格>
技術士(電気電子、経営工学、総合技術監理部門)、中小企業診断士、電気主任技術者第1種、エネルギー管理士、公害防止管理者、ISO9000審査員補

<著書>
現場の電動機技術、電気機器実務必携、絵とき電気機器マスターブック(オーム社)、不良低減(共著、日本規格協会)

<主な講演>
コストダウンの進め方、省電気エネルギー

<専門>
企業診断・指導、工場管理、品質管理、作業改善、不良低減、コストダウン、電気機器技術指導、省電気エネルギー、ISO9000認証取得の指導

連絡先
野口技術士事務所
〒463-0055 名古屋市守山区西新17-30
TEL/FAX 052-792-0172          
Q:
省エネが、なかなかはかばかしくないようですね。
A:
その通りです。総論は理解(賛成している?)しても、いざ各論の具体論になると自己都合からの反対があります。
しかし、地球環境問題とCOP3京都会議の国際公約は重い命題です。実効が求められますから、エネルギー原単位規制からエネルギー総量規制に行くでしょう。経済同友会桜井代表幹事が、総量規制の必要性を言われたようです(朝日新聞 H19年7月26日記事)。
規制の割当、そして炭素税或いは環境税を考える局面が出て来るかと思います。いずれにせよ企業も個人も必然的に省エネ活動が求められるでしょう。   
Q:
省エネ施策の展開がますます求められるということですね。
A:
それも実効的な施策の展開がね。お題目を唱える時期は過ぎたということです。
Q:
実効的な…。
A:
言われている施策を行いましても扱いを誤ると逆効果になりかねないのですよ。この点に注意する必要があります。
製造業において大きい電力消費を占めるものとして表に出て来るものに、ファン・ポンプ電力が在ります。この場合においても注意を要します。 どちらも流体機械で同じ様な傾向がありますから、ファンの方を採り上げて説明することにしましょう。 ファンの軸動力は次式にて表されます。
L  =
PQ

60η
L:軸動力〔kw〕
P:風圧〔Pa〕
Q:風量〔㎥/min〕
η:ファン効率 
そして、風圧P及び風量Qと回転数Nとの間には次の関係があります。
P∝N2  回転数の2乗に比例
Q∝N   回転数に比例
従って軸動力との関係は、
L∝N3  回転数の3乗に比例  となります。
風圧を水柱で表す場合の軸動力は次式にて表されます。
L   =
P'Q

6120η
P':風圧(水柱)〔mmAq〕
以前にもこの式は採り上げましたが、問題点を掘り下げてみましょう。
これらの式から判る様に、まず必要な事はP、Qを下げる事です。
ファン特性の風圧と風量との関係、P-Q特性曲線は図1の曲線Aのごとくです。 

 

ファン負荷としての送風抵抗の風圧は、風速―言い換えれば風量−の2乗に比例しますから、図1の曲線Bの様になり、運転するのは二つの曲線の交点のaになり、風圧P1、風量Q1で運転する事になります。
問題は、 オレンジ色の部分をいかにしてb点のように小さくするかです。
ファンの選定は用途から考えまして、必要とする風速があり風路断面積から風量が決まります。あるいは、部屋の容積と換気回数から風量が決まります。
そして風量と風速及び風路から決まる風路抵抗、更に負荷としてのフィルタ等の送風抵抗を総合して所要風圧が決まります。
所要風圧の変動・変化を考えて10〜15%程度の余裕を見込んでファン出力を算出し、ファン効率で割って軸動 力を算出します。更に用途にもよりますが、10〜30%程度の余裕を見て電動機定格を決めます。適正な余裕を見込むことは必要です。
ところで実際の負荷の風圧Pと風量Qは、期待したP-Q曲線の上にある場合ばかりではありません。余裕を見込んでおりますから風圧が図2のP2だとしましょう。

Q:
運転するのはP-Q曲線上の風圧P2のCになりますね。負荷曲線は曲線Cということですね。
所要動力はL∝ P×Qですから、軸動力が変わります。
A:
問題になるのはファンの特性です。締切りの場合は風圧はPmaxですが、Q=0でP×Q=0、開放の場合は風量はQmaxですが、P=0で P×Q=0です。ですからファンとしての出力ですが、図2曲線Dに示すようになります。  
Q:
でもファン入力としての軸動力は‥。
A:
この軸動力特性が問題です。ファンの効率特性が絡みます。 軸動力特性はファンの型式によって異なります。大風量低圧形のターボファンに例をとりますと、軸動力は図2の曲線Eに示すごとくです。軸動力はファンが必要とする入力です。電動機直結の場合はそのまま電動機出力になります。ベルト掛けの場合はベルト効率で割ったものが電動機出力になります。
Q:
曲線Eですと、C点になりますと風量はQ1からQ2に増加するが、軸動力はL1からL2に却って増加してしまいますよ。すると、ファン効率が悪くなる、低下するということですか。
A:
そうですが、運転する点が問題で運転する点によっては、ファン効率自体が若干良くなっても、軸入力増の場合もありえます。効率の曲線も出力曲線と似たものとなるのですが、入力との関係から、最高効率点が若干低風量側にシフトした形になります。効率ηの特性は曲線Fに示すごとくです。
Q:
これは具合が悪いですね。対策はないのですか。
A:
風量を下げても支障がないならば、一つの対策はダンバーを絞ります。図3で説明しましょう。記号は同じようにとります。
送風抵抗は風量に対して2乗の特性ですから曲線Bから曲線Gのようになります。ダンバーによる送風抵抗△Pの増大で対応した形となり、風圧はP1からP3に増加し、風量はQ1からQ3に減少し、軸動力はL1からL3に低減します。しかし必要とする風量はQ3ですから付加した送風抵抗△P、これは無駄な損失です。
逆の角度から見てみましょう。
図4のP1、Q1で運転していたとしましょう。記号は同じようにとります。
これを負荷及び風路を改善して送風抵抗を下げて曲線Hのように改善したとします。改善後はP4、Q4で運転し、軸動力は・・・。
Q:
風圧減ですが、必要な軸動力はL1からL4に増加してしまいますよ。改善して逆に増加するなんて・・・。
A:
これに解決を与えるのが、回転数Nの変更です。 回転数を変更した場合のP-Q曲線及び軸動力の関係を図5に示します。
回転数の変更により、望ましい風圧と風量の運転点に対応した回転数を選択して運転する事が出来ることになります。負荷を改善して、過剰なP.Qの低減を併せて行うことは言うまでもありません。
回転数の変更はインバータ駆動によって簡単に出来ますが、‘07年3月の「ネットあいち産業情報 省エネのパラドックス」で説明しました様に、インバータ自体の損失・電動機の付加損失からの損失増がありますから、僅かの回転数低減では逆の場合がありますし、大きく回転数を低減した場合の効率低下は大きいですから、この点を吟味した上での対応になります。
回転数を制御する場合は当然インバータ駆動となりますが、一定の回転数に低減する場合は、ブーリーの変更或いは極数の多い低速電動機への変更での対応がよろしいでしょう。大風量低圧形のターボファンで説明しましたが、翼系列の異なる中風量中圧形のターボファンの場合は図6のような特性ですから少し様相が変わります。
従って、運転する点に応じての吟味が必要になります。
いずれにしましても、メーカーからP-Q特性と共にL特性データを入手し、定量的に数値を把握し評価することが必要です。
ファンには各種の形式がありまして、特性及び効率がかなり違いますから適切な選択が望まれ、更に、実際の使用負荷の風圧及び風量の把握と、適正な吟味・マッチングが望まれます。ファン及びポンプ動力の占める比率は大きいですから、見直して適切な対応が望まれます。
安易な対応は逆省エネを招きかねません。