ネットあいち産業情報
top ビジネスレポート 小売商業レポート エネルギー環境レポート お助けBOX
2005.09月号 No.41 通巻242 09月01日発行
コンサルタント 舟橋正浩
 
社会全体が成長していた時代において 企業も成長すべきであったが、 これからは社会が縮んでいく中 、企業は成長よりも価値を永続的に 生み出し続けるような持続へのシフトが重要なのである。
その流れにおいて、重要なのは企業の大小ではなく、 マーケティングからヒューマニング®への移行であり、 ヒューマニング®の実践としての NPO連携、産民連携の推進なのである。
そして、こうした手法において、 企業の大小は問われない。
むしろそのフットワークが問われるのだ。
 
印刷用ページ
【特集】企業の社会貢献
第1部 企業の社会的責任とは何か?
     〜NPO・任意団体との協業の勧め〜
■営利企業は悪か
CSR(企業の社会的責任)というのを一般論として論じる場合、非常に良く出てくる議論に「企業というのは営利を目的とするため、商品やサービスを環境や地域を痛めつけながら生み出している。だから、企業はその利潤を地域や環境に返すことが重要である」というものがある。いわば企業というのが必要悪にせよ意図的な悪にせよ、とにかく悪でその悪事の清算としてCSRに取り組むべきだというものである。
その議論を前提として、往々にして出てくる反論として、「企業はしっかり稼いで税金という形で、地域や環境にちゃんと還元している。だから本業を遂行することでこそ、CSRが成立する」という議論や「納税幅が少なくとも、わが社は地域人として多くの住民を地域のさまざまなボランティアに参加させ、本業の時間を割いて、地域にきちんとリソースを還元している」という議論がある。
これらが本当に、「企業の社会的責任」を果たすことといえるのだろうか。
■企業の商品やサービスの本質
本来、企業が提供する商品やサービスというのは、多数のニーズがあるから成立するのであって、企業の一方的な押し付けでは成立しない。では、ニーズの本質は何かといえば、ユーザー(個人であったり法人であったり団体であったりはするが)が、困っていることの解決に他ならない。そして、地域や社会というのが一定以上の人数の人間によって構成されている。したがって、そのユーザーがある程度多数いるということは社会や地域での困りごとであり、企業の活動はそれを解決する活動に他ならない。だから、企業というのは、その会社の持つ商品やサービスを通じて、適切に個人や地域、集団の問題を解決することが使命なのだ。
いわば、本業に専念し適切な商品やサービスを展開することこそが、企業の社会的責任を果たすことに他ならないのである。
そうした商品やサービスを提供するからこそ、利潤も上がり企業としても大きくなれるのである。
■マーケティングという本末転倒
企業であるからには、利潤は上げ続けるべきであるし、その利潤の幅も増やしていくべきである。それを永続的に、力強く推進する手法としてマーケティングがあるといえる。本来的にマーケティングというのは、ニーズを適切に捉え、ニーズに見合った製品を生み出し、ニーズを持つ人に届けることである。しかし、どこから狂ったのか、「他社よりも一台でも多く」「ニーズのない人のニーズを無理矢理付加して」揚げ句には「エスキモーに冷凍庫を売る」という手法がもてはやされ出し、商品やサービスを一つでも多く売る手法へと変貌していった。OneToOneマーケティングにいたっては「その人の全人生の買物のうちどれぐらいの比率を自社で占有するのか」という、利潤と売上の最大化の手法へと大きく変貌した。
ここにいたって、社会貢献のための商品やサービスの提供とその促進のためのマーケティングではなく、企業エゴのための商品やサービスの提供のためのマーケティングになってしまった。
本来は、本当に社会や個人が困っているというニーズをくみ取り、そのニーズを満たす製品を生み出し、適切にそのニーズにその商品を届けることが、企業のありようのはずだ。そのための手法として、もはや現代のマーケティングは限界を迎えている。
■マーケティングからヒューマニング®へ
やはりそのような現状では、「営利企業は商品やサービスを環境や地域を痛めつけながら生み出している」という側面は否めなくなる。では、本業遂行による社会貢献というのはもはや不可能だろうか?そんなことはない。
一度、きちんとニーズを見てみればよい。それも統計数字としてのニーズではない。商品を買う消費者としてのニーズでもない。自社のできることやできないことと関係するニーズでもない。その環境の中で、その地域の中で住む一個の人間として、それぞれの人のニーズをしっかり見てみれば良いのである。
そして、メーカーであれば、そのニーズに適した商品を開発する。流通であれば、ニーズに適した商品を仕入れる。サービス業であれば適したサービスを生み出す。また、そうしたものを組み合わせた、商品やサービスを開発することがまずは重要である。さらに最も大切なことは「必要のある人にだけ売る」ことである。要らない人に売る必要はない。ニーズのあるところに「適切に届ける」ということが最も重要なのだ。
こうした消費する対象ではない形で、個々人をちゃんと捉え、そのニーズを把握し、そのニーズのあるところに適切に届ける手法をヒューマニング®という。
本業遂行だけできちんと「社会的責任」を十分に発揮するためには、マーケティングからヒューマニング®への転換が非常に重要である。
■ヒューマニング®チャネルとしてのNPO
しかし、一朝一夕にいままで各種のマーケティング展開してきた企業が、すぐにヒューマニング®を導入して全社改革というのも現実的ではない。そこで、NPOや各種の任意団体(以下、あわせてNPOと呼ぶ)との連携をお勧めしたい。
NPOは特定の活動ジャンルに限定はされているものの、多くの団体が、消費者として個人を捉えるのではなく、生活者として個人を捉え、そのニーズをしっかりとくみ取り、そのニーズの元にサービスを届けることを日常的に 行っている。利潤はさることながら、地域問題をしっかりと見据えその問題の把握や解決のために日夜活躍しているのである。
まさにヒューマニング®のチャネルともいえる存在なのだ。こうした、NPOと連携することで、新しい企業のエンパワーメントを実現できる。3つほどの取り組みを紹介しよう。
子育てルームの開設

オオギヤ西尾店とキッズ・ママの託児風景 

西尾市にあるNPOのママネット(http://www.npo-mama.net/)は、オオギヤという地域のパチンコチェーンと組んで、キッズ・ママという託児ルームを展開している。
オオギヤがパチンコ屋として本業で提供しているのは、娯楽であり非日常への一時的な脱却である。しかし、そのニーズがある「母親」という存在はパチンコ屋に受け入れらない状態であった。
オオギヤから見るとニーズのある人に自らの本業を伝えられない状態であった。また、ママネットのほうもそうした「母親」を支援する活動をしており、その支援の一環として託児所を運営していた。こうした背景から、オオギヤがパチンコ屋の一角を提供し、ママネットが運営するというスタイルを取った。事業そのものはすぐに黒字化し、2号店3号店と展開する予定だ。ニーズのあるところに適切にサービスを届けるというプロセスにおいて、 さらなる社会貢献事業を展開できたことになる。
防災情報サービスの強化

防災情報サービス「あんびメール」

安城市にあるNPO愛知ネット(http://www.npo-aichi.or.jp/)は、岡山県のベンチャーであるチロロネット(http://www.chiroro.co.jp/)と組んで、防災情報サービスの強化を 行った。このサービスの肝になるのは、サーバーという情報機器をどこに置くか、どれだけサーバーがいざというときに安定的に動くかということである。東海大震災のような災害時に適切に動き続けることが求められていた 。
そこで、岡山のサーバーを預かる事業(データセンター事業)を展開しているチロロネットがそのサーバーを受け入れた。一見すると一方的な機材寄付だ。しかし、実際は非常に大きなPR効果が狙えるのだ。データセンター事業は、大手キャリアなどが有利である。
特に、同社は値段ではなく、こうした環境下でも動くサーバー提供を他社との差別化に据えていた。そこで、こうしたシビアな環境下でも動くということを、こうしたNPOからのサーバーを受け入れることによって、大手かそれ以上の品質があるサービスであるということを示せたのだ。社会貢献と自社のPRの一石二鳥が得られているといえる。
お弁当革命

保冷弁当箱

北海道にある大学発ベンチャーのジェルデザイン(http://gel-design.co.jp/)は、地元のNPOの「ままのぽっけ」と、共同で保冷剤付きの弁当箱を開発した。
これは、「ままのぽっけ」の中にあった「夏にお弁当を持たせるのが(食中毒の危険があって)怖い」「フルーツやサラダを冷たいまま家族に出したい」という明確なニーズがあった。そこで、同社が加わって、お弁当のスタイルを変えることで昼食文化を変えるプロジェクトとしてスタートした。保冷剤などにも利用されるゲル開発を本業とする同社が中心となって 、お弁当箱のフタと保冷剤を一体化した製品開発をした。本業としては、使われている技術そのものはそれほど高くないものの、ニーズに対して試作品作成、テスト、修正、製品化とNPOと組むことで的確な製品開発が 行われた。現在ネットなどで注文販売に限定されているが、今後こうしたニーズに合った販路として、他の子育て系のNPOが参画してくることも予想される。
■成長ではなく持続
これらの事例は、どれも、NPOとの連携としては取っ掛かり的なものが多く、経済効果や利潤への貢献はどの程度なのかということは十分に計られてはいない。しかしながら、明らかにNPOからのニーズをくみ出し、本業の範囲で遂行することによって、公益活動に十分に貢献しているのである。
大事なのは、社会全体が成長していた時代において企業も成長すべきであったが、これからは社会が縮んでいく中、企業は成長よりも価値を永続的に生み出し続けるような持続へのシフトが重要なのである。その流れにおいて、重要なのは企業の大小ではなく、マーケティングからヒューマニング®への移行であり、ヒューマニング®の実践としてのNPO連携、産民連携の推進なのである。そして、こうした手法において、企業の大小は問われない。むしろそのフットワークが問われるのだ。
すなわち、小企業であっても社会的責任を必ず果たしていける時代であり、こうした責任を果たさなければ大企業であっても存続が危ぶまれる社会になりつつあるのだ。
企業の社会貢献のあり方として、納税も結構。社員にボランティアをさせるのも結構。しかし、一つの手法として本論も経営者の皆さんの頭の片隅においていただきたい。
PROFILE
舟橋 正浩(ふなはし まさひろ)

コンサルタント

1972年北海道生まれ。
愛知県在住。北海道大学大学院修了。理学修士。
メディア業界やIT業界を経て2000年にIT専業のコンサルティング事務所創業。
現在は産産連携、産学連携、産民連携など連携による企業のエンパワーメントをお手伝いしている。そのほかに安城市民活動センタースタッフ、多摩大学情報社会研究所客員研究員も兼務。

フナハシドットコム安城事務所
〒444-1164 安城市藤井町東長先1−9
http://funahasi.com/index_a.html

あなたのご意見をお聞かせください
この記事を友人や同僚に紹介したいと思う
参考になった
参考にならなかった