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2006.2月号 No.46 通巻247 2月01日発行
梶浦税理士事務所
所長 梶浦 潮
 
カイゼンの真に目指す姿は、経理業務においても製造現場と何ら変るところはあり ません。カイゼンの意味するところは、単に効率化を目指す改善に止まらず、常に改 善を試みるその企業哲学にあるのです。
改善に企業哲学の浸透という経営者の努力を加えた時、改善はカイゼンに変わりま す。
そして、改善をカイゼンに昇華させるのは経営者の皆さんであることを心に留めおき 下さい。  
 
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【特集1】経理業務もトヨタ式カイゼンが変える
トヨタ式カイゼンとはどのようなものか
(1)カイゼンとは「哲学」である  
以前、トヨタグループで行ったカイゼンのワークグループに参加した際に、参加メンバーのなかで「カイゼンとは何か?」という議論が行われたことがありました。
このとき参加者が異口同音に口にしたのは「カイゼンとは哲学である」というものでした。
 トヨタ式カイゼンに深く関わった者は皆、カイゼンという言葉に「哲学」としての響きを感じるようです。
よく「カイゼン」と「改善」は違うのかという質問をされることがあります。
海外でトヨタ式カイゼンが浸透するのに伴いカイゼンが世界語になった、という説明が一般的にはされるようですが、少々違うように感じます。
カイゼンに深く関わった者はこの「改善」と「カイゼン」を使い分けており、そこに「哲学」としての意味を持たせるかどうかで判断していると思います。
トヨタ式カイゼンの凄さは、改善を企業哲学として全社員に浸透するべく企業努力が行われているという点です。
ヒト・モノ・カネ・情報の経営資源が投入されるあらゆる場面で常に改善の可能性がないかを考えます。
カイゼンを行う担当者は、それをさながら自然の摂理であるかのように行い、そして永続的に続けていきます。
経営者は、「改善」を企業哲学として浸透させ「カイゼン」に昇華させることが企業競争力の源泉であるとし、そのための経営上の施策を行っていきます。  
以下、トヨタ式カイゼンを経理業務に活用するための方法論をご説明していきますが、経営者が真に目指す姿はその方法論を身に付けることではなく、企業哲学として組織内に根ざすことこそが真のカイゼンであることに留意いただきたいと思います。  
(2)トヨタ式カイゼンの柱となる2つの視点  
トヨタ式カイゼンは、2つの視点から成り立っているといえます。
ひとつは「ジャスト・イン・タイム」、そしてもうひとつは「自働化」です。
トヨタ式カイゼンを理解していただくために、この2つの視点をできる限り簡便にしてご説明させていただきたいと思います。
ジャスト・イン・タイム  
ジャスト・イン・タイムは、「必要なときに必要なだけ取りに行く」という仕組みです。 必要ではないときに物を作るために在庫が発生すると考えます。
少し事例を使ってわかりやすく説明します。
例えば、ある工程にAさん、Bさん、Cさんの作業者3名がおり、Aさん→Bさん→Cさんの順に仕掛品が流れるとします。
Aさんは1時間に300個加工することが可能です。Bさんは少し能力が劣り、1時間に200個加工することが可能です。
そしてCさんは新人のため、1時間に100個しか加工することができません。
このとき、その工程では誰の生産能力を最も尊重して生産計画を立てるべきでしょうか?
直感的には、最も能力の高いAさんを尊重し、その作業レベルに及ばないBさん、Cさんが“足を引っ張っている”と思われがちです。
しかしトヨタ生産方式では違います。
この工程で最も“足を引っ張っている”のはAさんだと考えます。
この事例では、Aさんが300個加工しBさんに渡すのですが、このときBさんの生産能力は200個ですから、100個分の在庫が発生します。
さらにCさんの生産能力は100個のみですから、Cさんの前にもさらに100個の在庫が滞留します。
併せて200個の在庫を発生させるわけです。
トヨタ生産方式では、この工程で最も生産能力の低いCさんを尊重し、Aさん・Bさんに「速すぎる!もっとゆっくり作れ!」と指示します。
(もちろんCさんの能力を高めるべく、Aさん・Bさんの能力を活用します)
そしてその指示を実現させるために「必要なときに必要なだけ取りに行く」仕組みとし、不必要な数量を作成しないようにするのです。
このとき、その工程では生産能力は変わらないにも関わらず、在庫は一切発生しなくなります。
在庫は企業が全力で取り組まなければならない“リスク”です。
在庫は、相当分のキャッシュを必要とし、さらにその管理のための人員・システムなどの付加価値を生み出さないコストを発生させます。
トヨタ生産方式が通常の視点とは大きく異なることをご理解いただけたかと思います。
ジャスト・イン・タイムの基本的な考え方は、業務負荷を「平準化」することで、ヒト・モノ・カネ・情報のムダを排除するというところにあります。この「平準化」を達成するために「必要なときに必要なだけ取りに行く」という仕組みが構築されるわけです。 今回は詳細なご説明は致しませんが、トヨタ生産方式のかんばんは、この「平準化」を達成するための道具といえます。
自働化  
「自動化」の誤字ではないかと思われた方も多いかと思います。
これは誤字ではなく意図的に「自働化」としています。
現在の製造現場では多くの機械設備が利用され「自動化」されていることに異論はないかと思います。
トヨタグループでも当然のように機械設備での「自動化」が行われていますが、トヨタグループでは単なる「自動化」では、機械に常に見張り番が必要なため人員削減が進み難いこと、また異常が出たときに後工程で品質不良の回復のための多大な工数が発生することから不十分であると考えています。
トヨタグループでは、機械に「異常管理」の仕組みをビルトインさせるようにしています。
機械設備に異常が発生したときに自動停止する機能を必ず付けるようにすることで、作業者に複数の機械持ちを可能にさせ、また前工程で品質を造り込むことで後工程の付加価値のない作業を軽減させることが可能となります。
このように、機械に異常管理の視点を加えることを、トヨタグループでは「自働化」と呼んでいます。
この「自働化」の基本的な考え方は、前工程で品質を造り込むことで後工程の付加価値の無い作業を軽減させることにあります。
経理業務と製造現場で共通する改善の視点
(1)生産工学を根幹とするトヨタ生産方式と
       BPR(Business Process Reengineering)
 
ここまで、生産現場で成長を遂げてきたトヨタ式カイゼンの視点をご説明してきました。
ここからは、この「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」の視点を応用した、経理業務向けの方法論をご説明させていただきたいと思います。
世界で高い評価を受けているトヨタ生産方式に対して、特異な生産方式であるという印象を持たれている方が多いのを感じます。
しかし、実際のトヨタ生産方式は非常に柔軟性のあるものであり、広く普及している生産工学を根幹としながら、前述した「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」の視点を活用した生産方式だといえます。
企業哲学として常にカイゼンを求めるトヨタ式カイゼンであれば当然といえそうです。
一方、経理業務改善の歴史を見ると、生産工学を根幹としながら経理業務プロセスの見直しを図る方法として「BPR(Business Process Reengineering)」という手法が欧米で発展してきたことに気付きます。
90年代のERP(Enterprise Resource Planning)などの情報システムの普及に併せて、経理業務プロセス改善の必要性が高まったことから、BPRが急速に発展、広がりを見せています。
このBPRの業務プロセスの改善手法は、生産工学の工程分析手法などを経理業務向けに応用したものです。
トヨタ式カイゼンによる経理業務カイゼンは、このBPRを柱としてトヨタ生産方式の2つの視点(「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」)を加えることで成立しています。
生産工学にトヨタ生産方式の2つの視点を加えることでトヨタ生産方式が成功を成し遂げたのと同様に、BPRに2つの視点を加えることで、経理業務改善手法を大きく進化させています。
(2)ジャスト・イン・タイムの経理業務改善への応用
ジャスト・イン・タイムの基本的な考え方は、「必要なときに必要なだけ取りに行く」ことで、業務負荷を平準化するというものでした。 この「必要なときに必要なだけ取りに行く」という視点で経理業務を設計することがポイントとなります。
一般的に経理業務は、業務プロセスの前方部署からのデータ取得を月次バッチで行い、運用されています。
固定資産計上業務などがその典型例です。
固定資産の事業供用開始は月中に随時行われており、本来固定資産計上処理を随時行うことが可能なのですが、取得に関する情報が月次バッチで流れてくるために、月初に集中して固定資産計上処理が行われているケースが散見されます。
そのため、業務の集中する月初に合わせて人員配置を行っている企業が非常に多く存在します。
以前、典型的な設備投資産業である鉄道会社をコンサルティングさせていただいたのですが、そこでは月初に集中して処理を行う固定資産計上業務に数十人という人員を配置していました。
この鉄道会社では「ジャスト・イン・タイム」の視点により、日次バッチでデータ取得を行う業務プロセスに変えることで、その配置人員は半分以下にまで減少しています。 具体的な業務プロセス変更の方法論は後述します。
(3)自働化の経理業務改善への応用
「自働化」の基本的な考え方は、前工程で品質を造り込むことで後工程の付加価値の無い作業を軽減させるというものでした。
経理業務の業務プロセスを「見える化」すると、その大半がチェック業務などの前方工程の品質の悪さから生じている作業であることが分かります。
経理業務カイゼンでは、業務プロセスを『業務フロー』や『Function Chart』などのツールを使い、詳細レベルで業務を「見える化」していきます。
そして、その「見える化」された各業務を、付加価値を生み出す業務であるか否かで分類をしていくのですが、その大半が付加価値を生み出さないチェック業務となっています。
この分類する過程は、生産工学で行う“加工”“非加工”の分類と同じです。
この各チェック業務に対して、「なぜこのチェック業務が発生するのか」を考え、チェック業務の発生要因を生み出している前方工程の業務改善を行っていきます。
非常に地道な作業ですがその効果は大きく、経験値から経理業務の4分の1程度の削減が可能です。
基本手順と進め方
業務改善の基本手順は、「手順1 分析対象範囲の決定」「手順2 現状調査」「手順3 業務分析」「手順4 解決策の作成」および「手順5 解決策の実行」で構成されています。
各手順の進め方と留意点を整理すると下記のようになっています。
手順1:分析対象範囲の決定
■進め方
1)
問題が発生している業務担当者にヒアリング(概略)を行います。
2)
ヒアリング結果を『Function Chart(概要)』に整理します。
3)
『Function Chart(概要)』をもとに、問題を引き起こしている可能性がある業務を推測し、分析の対象とする業務範囲を決定します。
『Function Chart』では、業務プロセスを階層によって区分し、業務ごとに
・担当部署
・作業場所
・作業時期(タイミング・リードタイム)
・処理件数
・業務遂行人員(管理職・総合職・一般職等に区分)
・作業時間(同上)
・作業工数(同上)
・利用システム
・インプット情報(システム名、帳票名、データ項目)
・アウトプット情報(同上)
・制度上の制約の有無
・専門性の必要性
・備考
を記載していきます。

(注)スペースの都合上、処理件数より右列は掲載を省略しています。

■留意点
分析の対象範囲は、問題が発生している業務のみではなく、問題発生の原因となっている可能性がある業務まで幅広く持たせます。
手順2:現状調査
■進め方
1)
業務担当者にヒアリング(詳細)を行います。
2)
ヒアリング結果を『Function Chart(詳細)』に整理します。ヒアリングにあわせ、業務にて利用または作成される帳票とデータを集めます。
3)
『Function Chart(概要)』をもとに、『業務フロー(現状)』の作成を行っていきます。
■留意点
1)
作成する『業務フロー(現状)』は、参加者すべてが共通の現状理解となるように、一定の作成ルールを遵守する必要があります。
2)
ヒアリング時に調査・収集する関連帳票及びデータは、その記載方法等まで含めて十分に理解する必要があります。
手順3:業務分析
■進め方
1)
『業務フロー(現状)』及び『Function Chart(詳細)』をもとに、表れている問題点(=表象的事象)を抽出します。
2)
「問題点構造分析(=なぜを5回繰り返す)」によって表象的事象を引き起こしている原因(=核となる問題点)を見つけ出します。
3)
「核となる問題点」に対する「解決の方向性」を検討します。
■留意点
1)
「核となる問題点」は、その解決を行うことで表象的事象を解決できる、という性質を持っている必要があります。
2)
「核となる問題点」の発見に「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」の視点を活用することが重要です。
手順4:解決策の作成
■進め方
1)
「解決の方向性」に基づき解決策を具体化していきます。
2)
解決策の作成を行うにあたって認識される障害を、その性質によって「解決可能な条件」と「制約条件」に区分し、「解決可能な条件」に対する検討をしていきます。
3)
制約条件を所与の条件として、『業務フロー(新業務)』の作成を行っていきます。
■留意点
1)
解決策の作成過程で現れる障害の大半は「解決可能な条件」に位置づけられます。障害を「制約条件」として位置づける前に、もう一度見直してみることが大切です。
2)
解決策の作成にData Flow Diagramを利用することも効果的です。
手順5:解決策の実行
■進め方
1)
具体化された解決策の担当者、期限等を決め、Action Listに整理していきます。
2)
定期的に進捗会議を行い、Action Listにて進捗状況の管理を行っていきます。
■留意点
作成された解決策によって新業務が実際に稼動できるまで、定期的に進捗会議を行うことが重要です。
まとめ
トヨタ式カイゼンが経理業務の改善にも応用でき、また大きな効果を生み出すものであることをご説明してきました。
その方法論は、経理業務改善の手法であるBPRの「手順1 分析対象範囲の決定」「手順2 現状調査」「手順3 業務分析」「手順4 解決策の作成」および「手順5 解決策の実行」という基本手順に、トヨタ生産方式の2つの視点(「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」)を加えるというものでした。
最後にお伝えしたいのは、生産現場はもちろん経理業務においても、カイゼンを企業哲学として浸透させることが最も重要であるということです。
 トヨタグループでは、入社時の社長挨拶、そして新入社員教育からカイゼンの重要性を説き始めます。
そして配属された各部署においてもカイゼン・マインドが広がっており、社員は皆、当然のように「カイゼンマン」として成長していきます。
このカイゼンという企業哲学が組織に浸透していることにトヨタグループの強さの源泉があるのです。
改善の手法は全社員が学び取ることができます。
しかし、改善をカイゼンに昇華させるのは経営者の皆さんであることを心に留めおき下さい。
改善に企業哲学の浸透という経営者の努力を加えたとき、改善はカイゼンに変わります。
PROFILE
梶浦 潮(かじうら うしお)

梶浦税理士事務所所長

<経歴> 愛知県立半田高等学校卒業
              慶應義塾大学経済学部卒業

アーサーアンダーセン(世界5大会計事務所) 経営コンサルティング

≪主なプロジェクト実績≫
・ 大手鉄道会社(東証1部)
   決算早期化
   経理業務BPR(業務改善)
   業績評価指標
・大手総合商社(東証1部)
   予算実績管理手法の導入
   EVA導入
・大手電力会社(東証1部)
   経理業務BPR(業務改善) 
   シェアードサービスセンター設計
・大手金融会社(東証1部)
   経理業務BPR(業務改善)
   経理システム導入
・大手鉄道会社(東証1部)
   経理業務BPR(業務改善)

株式会社デンソー 財経センター
・経理業務向けトヨタ式カイゼン手法の開発
・シェアードサービスセンター設計
・業績評価指標の設計

名古屋鉄道株式会社 関連事業部 ・グループ経営計画策定
・M&A(合併・買収・清算)
・名古屋鉄道連結決算書作成、等に実績

<資格> 税理士
              Oracle認定コンサルタント

※愛知専門家グループ
中小企業支援を目指す有志で結成した「愛知専門家グループ」を運営し 、 無料の経営者セミナーの開催等を通じて中小企業経営者の経営支援を行なっています。
 

連絡先 
梶浦税理士事務所
〒470-2103  愛知県知多郡東浦町石浜黒鳥26-73 
TEL/FAX 0562-84-2575
http://www.kajiura.biz
E-mail  info@kajiura.biz
ブログ  http://plaza.rakuten.co.jp/kajiura/

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