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2006.04月号 No.48 通巻249 04月03日発行
自然科学研究機構 
分子科学研究所 加藤政博教授
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【科学技術は今(22)】
夢の光、シンクロトロン放射光が開く未知の世界
シンクロトロン放射光とは、光速に近いスピードで回る電子が発する強い光である。分子や原子の状態を観察するのに優れた利点をもつ“夢の光”といわれている。本日は、自然科学研究機構 分子科学研究所 極端紫外光研究施設(UVSOR)の加藤政博教授を訪問した。(取材は(財)科学技術交流財団上原政美、三菱UFJサーチ&コンサルティング(株)松山豊が担当)。
放射光研究施設とは?
加藤 電子が光に近いスピードで飛んでいるときに、曲げられるとシンクロトロン放射光という強い光を出します。遠赤外から極端紫外、X線にわたって波長が連続し、この光を利用して、物質の構造や特性といった物性研究に生かそうというのが放射光研究です。

シンクロトロン光

シンクロトロン放射

― 放射光の研究はいつごろからはじまったのでしょうか
加藤 そうですね、1960年代から放射光を利用した研究がはじまりましたが、最初は、素粒子実験のための加速器から副産物として生まれる放射光を利用していました。このころの放射光施設を、「第一世代」といっています。
― 放射光の元は加速器の副産物だったのですね
極端紫外光研究施設 UVSOR
加藤 そうです。放射光研究が、だんだん活発になると、放射光研究向けに装置を作ろうということで、1970年代からは、放射光専用に設計された「第二世代」が造られるようになってきました。この極端紫外光研究施設、UVSOR(ユーブイソール)は、この「第二世代」に属しまして、1982年から研究施設として利用されました。もうかれこれ25年、4半世紀も経つ研究施設です。とはいうものの、この間に、研究のさまざまなニーズに応えるために2003年には、高性能化の大改良が加えられて最先端の研究を支えています。
― 施設はどのような構造になっているのでしょうか
加藤 UVSORの放射光源は、電子ビームを発生させる入射器、電子ビームを周回させながら長時間貯蔵するストレージリング、高輝度の放射光を発生させるための挿入光源などからなります。

入射器

― それぞれ、どういったものですか
加藤 それでは、電子と光の流れに沿ってご説明しましょう。まず、地下の別室に電子ビームを発生させる装置があります。テレビのブラウン管についているのと原理的には同じの電子銃で、最初に電子を生成します。その後、電場をかけてまず直線で15MeVまで加速します。次に小さなドーナッツ型のシンクロトロンへ電子が入射され、さらに40倍のエネルギーまで電場をかけながらぐるぐる回りながら加速します。
― 飛んでいる電子はどうやって曲げているのですか
加藤 強力な磁石で曲げるのですね。そのためにドーナッツの周りに大きな磁石がたくさんついているのです。こうして、小さなシンクロトロンで加速した後、大きな部屋にある一周53mのストレージリングへ電子が入射されます。
― なるほど、シンクロトロンを2段階に利用して加速していくわけですね
加藤 そうです。この大きなドーナッツ状のストレージリングで750Mevまで加速された電子は、8箇所に置かれた磁石で軌道を曲げられながら、ぐるぐると光に近いスピードで回っています。この曲がっているときに、強力な放射光が出ているのですね。

ストレージリング

― いくつもの観測ラインがついているのですね
加藤 曲げている偏向箇所1箇所で2本の光を取り出しています。また、直線部にはアンジュレータといわれる装置があり、ここでは電子を小刻みに蛇行させることで、もっと強い光を放出させています。電子は、光を放出するとエネルギーが減りますので、電場で加速しながら、約6時間ぐるぐる回し、その間、発生している放射光を利用することができます。

アンジュレータ放射

世界に誇るUVSORの研究成果
― 放射光施設というと、SPring-8(スプリングエイト)が有名ですね
加藤 そうですね。放射光施設には、発生する光によって特徴があります。SPring-8はX線の領域まで短い波長の光が出ることが特徴です。この施設は、極端紫外光という名が示すように、紫外線より短い波長の光を利用するところが違います。
― 波長の違いがどのように影響するのでしょうか
加藤 SPring-8はX線ですから、物質の結晶構造等の観測に向いている光なのです。いっぽう、こちらのUVSORの極端紫外光は、物質がどのような波長の光を吸収するのかを観測して、対象の電子の状態を観測するのに向いている光なのです。
― たとえばどのような研究成果があるのでしょうか
加藤 たとえば、携帯電話に使われているリチウムイオン電池の電極での電子のやりとりの状態が、放射光の実験結果と量子化学計算を組み合わせることで解明が進んでいます。また、有機半導体薄膜で電子のエネルギー状態の観測を通じてデバイスの光学的・電気的性質の研究に貢献したり、次々世代の紫外レーザー・LEDの発光の状況を観測したりと世界の第一線の研究成果が生まれています。
― かなり、人気のある研究施設なのですね
加藤 現在年間120件を超える研究課題申請、800人の利用がありまして、活発にUVSORを利用した研究が行われています。
― 一般の企業は使えないのでしょうか
加藤 可能ですが申し込みはそれほど多くありません。ここは大学の共同利用施設なので、大学の先生との共同研究の中で企業が抱える問題をここで実験すること が多いようです
― 兵庫にあるSPring-8等も企業からの利用ニーズが高いと聞きますが
加藤 先ほど申し上げたように、SPring-8は物質の結晶や構造を見るのに向いているX線領域の光を出します。金属や無機材料、タンパク質の構造等の研究に向いていて企業の利用も多いようですね。
名古屋大学でも放射光施設建設の動きが
― 製薬でのタンパク質構造分析、自動車関連研究所の触媒、二次電池、燃料電池、ナノデバイス等での研究がされているようですね
加藤 物質構造を観測する光としては、X線が出る放射光施設が必要です。愛知県には、先ほどの自動車関連のほか、セラミックス等、材料系の企業も多く、今、名古屋大学が中心となって、小型の放射光施設を建設しようという機運が高まっていて私も一部で協力しています。
― どのような放射光施設なのですか?
加藤 名古屋大学光科学ナノファクトリー新設計画(NSSR 計画)といわれるもので、名古屋大学小型放射光源設置促進委員会が作られ、(財)科学技術交流財団も建設促進を支援しているものです。施設としては、ここのUVSORが一周52mですが、これより少し大きいくらいです。X線を出す放射光施設というとSPring-8のように非常に規模が大きくなってしまうのが普通ですが、名古屋大学の計画では超伝導の電磁石を利用することで小型でありながら必要十分な強度のX線を出すことができる設計になっています。
研究部体制のもと自由電子レーザー等多方面での研究を推進
― 話は戻りますが、UVSORでの今後の展開についてお教えください
加藤 UVSORはここ5年間の改良により、極端紫外光源としては世界的にもトップレベルの高性能光源になりました。我々は単にこの高性能を維持しながら運転を続けていくだけでなく、光源加速器の更なる性能向上、新しい光発生法の研究、ビームラインの性能向上に関する研究開発にも積極的に取り組んでいきます。
― なかでも加藤先生はどういった分野でのご研究をお考えでしょうか
加藤 そうですね、放射光を利用した自由電子レーザー(電子ビームを用いたレーザー発振)の研究などで最高出力等世界的な成果をあげてきました。これからは高性能化された加速器を利用し、自由電子レーザーのより高度化やテラヘルツ領域での放射に関する研究等をさらに発展させていきたいと考えています。
― ありがとうございました
PROFILE

加藤 政博(かとう まさひろ)

自然科学研究機構 分子科学研究所 極端紫外光研究施設(UVSOR) 教授 

1981年東北大学理学部卒 
1986年東京大学大学院理学系研究科中退 理学博士 
高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所助手を経て2000年3月分子科学研究所助教授着任 
2004年1月より現職

連絡先
自然科学研究機構 分子科学研究所
〒444-8585 岡崎市明大寺町西郷中38
TEL 0564-55-7206
E-mail:mkatoh@ims.ac.jp

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