調湿建材の性能評価について
常滑窯業技術センター 記事更新日.12.03.01
あいち産業科学技術総合センター
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■はじめに
近年の室内環境は、冷暖房機の性能向上により快適になりました。一方で、断熱化や気密化が進み、結露の発生や過乾燥などが起こりやすい状態にあります。その解決策の一つとして、電気やガスといったエネルギーを使わずに室内の湿度を調整できる調湿建材の利用が考えられます。
 調湿建材は多孔質材料であり、内部に大量の水分を蓄えるための細孔を持っています。室内の湿度が高ければ空気中の湿気を吸って湿度を下げ、逆に室内の湿度が低ければ、建材内部に蓄えられた水分を放出して湿度を上げます。これにより、室内の結露や過乾燥を防ぎ、快適な湿度範囲を保ちます。
 社団法人日本建材・住宅設備産業協会(以下「建産協」と称す)では、調湿建材登録・表示制度を設け、建産協の基準を満たした製品に調湿建材マークの表示を認めています。
 また、財団法人建材試験センターでは、独自の調湿性能評価基準に基づいた調湿建材の品質・性能の証明を行っています。
 いずれの団体の評価においても、性能面で重要となる評価項目は、吸放湿量と平衡含水率です。

■吸放湿量
吸放湿量は、ある一定の試験時間における単位面積あたりの吸湿量または放湿量であり、比較的短時間における建材の調湿性能を示します。  吸放湿量の測定は、JIS A 1470-1:2008(建築材料の吸放湿性試験方法−第1部:湿度応答法)によります。概略を以下に示します。  まず、試験体(板状のもの)を、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中に入れ、質量が一定になるまで待ちます(以下「恒量」と称す)。その後、試験体表面以外から湿気を吸収・放出しないように、表面以外の面をアルミテープ等で覆います。これを相対湿度75%に設定した恒温恒湿槽の中に入れ、12時間にわたって試験体の質量を10分毎に電子天秤で測定します。これが吸湿過程です。吸湿過程の終了後、引き続き放湿過程に入り、相対湿度50%に設定した雰囲気中で、同様に12時間の測定を行います。試験開始時からの質量増加量を、試験体表面の面積で除することで吸湿量を求めます。放湿量は、吸湿過程終了時からの質量減少量から同様に求めます。  建産協の基準では、中湿域(相対湿度範囲50-75%)の吸湿量については、3時間後では15g/u 以上、6時間後では20g/u 以上、12時間後では29g/u 以上必要です。また放湿量については、放湿過程終了時の放湿量が、吸湿過程終了時の吸湿量の70%以上としています(図1)。ただし、放湿量が70%未満である場合でも、吸放湿試験を4 サイクル繰り返し、1〜4 サイクルの放湿量がすべて20 g/u以上であれば調湿建材として認められます。ちなみに、建材試験センターの評価基準では、この性能は等級1(調湿建材として最低限有するべき性能)に相当します。  なお、この試験方法の欠点は迅速な評価ができないことです。これは、事前の恒量操作に時間がかかるためで、試料によっては1ヶ月以上必要な場合があります。

■平衡含水率
調湿建材の調湿機能は無限に持続するのではなく、建材内部に保持できる水分量に依存します。平衡含水率は、調湿建材が平衡状態で内部に保持することができる、単位体積あたりの水分量であり、調湿機能の持続力の目安になります。平衡含水率は相対湿度が低い場合には小さく、相対湿度が高い場合には大きくなりますので、ある相対湿度における値で比較します。また、含水率勾配は、湿度変化に対する平衡含水率の変化を示す数値であり、これが大きい程、調湿性能が高いと言えます。
 平衡含水率の測定はJIS A 1475:2004(建築材料の平衡含水率測定方法)によります。試験の概略を以下に示します。
 まず、試料を乾燥させて、質量と体積を測定します。乾燥温度は試料の材質により、40, 70, 105℃とします。試験温度は23℃とし、乾燥試料を最も低い相対湿度雰囲気中に入れて恒量させ、質量を測定します。その後、段階的に相対湿度を上げた雰囲気に試験体を入れて同様の測定を行い、各相対湿度における平衡含水率を求めます。平衡含水率は、試験開始時からの質量増加量を、試験体の体積で除することで得られます。
 相対湿度雰囲気は恒温恒湿槽で設定する他に、飽和塩水溶液を用いることでも設定できます。この場合、MgCl2・6H2Oは相対湿度33%、 Mg(NO3)2・6H2Oは53%、NaClは75%の雰囲気として用いられます。
 建産協の基準では、相対湿度35, 55, 75%の吸湿過程における平衡含水率を求め、最小自乗法を用いて一次式に回帰させ、含水率勾配および相対湿度55%における平均平衡含水率を求めます。含水率勾配は0.12s/m3/%以上、平均平衡含水率は5kg/m3以上必要です(図2)。この性能は、建材試験センターの評価基準における等級1に相当します。
 なお、平衡含水率の測定においても、吸放湿量の場合と同様に迅速な評価ができないのが欠点です。平衡含水率測定は恒量操作を逐次的に行うため、試料によっては数ヶ月必要な場合があります。