カバリング技術と製織技術を活用した織物CFRP基材の開発
三河繊維技術センター

記事更新日.17.11

あいち産業科学技術総合センター 
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1.はじめに 

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、「軽くて強い」材料であり、優れた力学特性からスポーツ、航空機、自動車などの軽量かつ高強度を求める分野を中心に用途拡大が進んでいます。特に、炭素繊維の織物、編物、組紐などを基材とした炭素繊維複合材料(CFRP)であるテキスタイルコンポジットが注目されています。テキスタイルコンポジットは、自動化に適している、賦形性に優れるなどの利点があり、CFRPの生産性や性能向上が期待されています1)2)3)。その中でも、織物は、たて糸とよこ糸を交錯させてシート状にしたものです。炭素繊維を織物にすることで、一方向部材に比べ少ない積層枚数で強度の等方性を出すことが可能です。しかし、炭素繊維は剛性が高く、屈曲しない材料のため、汎用の織機での製織が非常に困難であると考えられます。また、製織時に繊維が損傷し飛散するため、電気回路がショートして事故になる可能性が高く、専用の建屋と織機が必要となります。したがって、既存の設備でCFRP用基材を作製するためには炭素繊維の保護技術を開発するとともに、製織条件を検討する必要があります。

本研究では、炭素繊維の外側に樹脂となるナイロン繊維を被覆したカバリング技術注1)と製織技術を活用することで、少ない積層枚数で強度の等方性などに優れ、汎用の整経機注2)や織機等の設備で製造可能なCFRP基材を製造する技術を開発しましたので紹介します。

2.炭素繊維複合糸の作製 

炭素繊維を保護し、織物に製織するために、ナイロン繊維での カバリングを実施しました。カバリング糸に熱可塑性であるナイロン繊維を用いることで、熱プレス時にナイロン繊維が溶融して炭素繊維と接着するマトリックス樹脂となり、容易に成形体を作製できると考えられます。しかし、カバリング糸は炭素繊維を保護するためのものであり、カバリング糸の量が多いと成形時に炭素繊維間にナイロン樹脂が含浸し難くなります。そのため、カバリング糸の太さ、撚り回数等を調整することで、製織可能で成形時に含浸注4)し易くなるカバリング条件を検討しました。ダブルカバリング構造注3)として、カバリング条件を検討することにより、カバリング糸のズレが生じにくい炭素繊維複合糸を作製することができました。炭素繊維1000本(1K)及び、炭素繊維3000本(3K)から成る糸にナイロン繊維をカバリングして作製した複合糸が下図です。表面が白くなっているのは、ナイロン繊維が完全にカバリングしていることが分かります。

3.炭素繊維織物の作製 

織物CFRPの強度は、炭素繊維量と成形時の樹脂との含浸の量が影響します。適正な炭素繊維量を設計することで、樹脂の含浸性が向上することが考えられます。よって、織物規格の検討を行うことで織物自体の強度の向上が期待できます。これまで、織物規格を検討した例はあまりないため、まず最適な糸本数、組織についての検討を行いました。炭素繊維織物において、織物密度を上げることは成形後の繊維体積率の向上に繋がります。しかしながら、炭素繊維複合糸は剛性が高いため、密度を高くしすぎると製織が困難となり、炭素繊維複合糸に折損が生じることが予測されます。そこで、製織可能な織物の規格をカバーファクタ値注5)から検討して最適設計することで製織が可能であると考え、カバリング炭素繊維複合糸織物の規格を検討して織物試織を行いました。炭素繊維1K、3Kの炭素繊維のカバリング糸のズレや炭素繊維の折損はほとんど見られず、汎用の整経機・織機で炭素繊維織物を製造することが可能となりました。

4.CFRP成形体の作製、評価

作成した炭素繊維織物からプレス温度、時間、圧力を検討してCFRP成形体を作製しました。自動車部品では、数が多く、コスト低減が必要であることから、低温度で短時間の成形で、高い強度を持つCFRP基材が必要であると考えられます。これらの状況を踏まえた上で、プレス条件を検討しました。目標条件の成形温度300℃以下かつ成形時間15分以下のプレス条件でCFRP成形体を作製することができました。また、この板材試料を用いて3点曲げ試験を実施しました。曲げ応力295MPa、曲げ弾性率59GPaとなり目標値である曲げ応力198MPa、曲げ弾性率50GPaを達成することができました。

5.おわりに

1K及び3Kの炭素繊維にナイロン繊維をカバリングすることで様々な種類のカバリング炭素繊維複合糸を作製することが可能となりました。また、炭素繊維をカバリングすることにより、製織時に発生する炭素繊維同士の擦れによる損傷や飛散を抑えることが可能となり、汎用の整経機、織機での製織が可能となりました。作製したカバリング炭素繊維織物を熱プレスによって成形条件を検討し、目標値300℃以内のプレス条件でCFRP成形体を作製することができました。さらに、3点曲げ試験を行い、目標値曲げ応力198MPa、曲げ弾性率50GPa以上のCFRP成形体を作製することができました。

今後、更に樹脂の含浸性を向上して物性値を向上するため、炭素繊維複合糸の改良に取り組んでいきます。

 

注1) カバリング
芯となる糸の周りにカバー(被覆)したい糸をコイル状に巻きつける撚糸工程。今回は、炭素繊維を芯糸として、その周りにナイロン繊維をカバーした炭素繊維複合糸を作製した。
注2) 整経機
織物のたて糸を作製する装置。整経機で糸を並べてから、織機のビームを巻き取り、たて糸となる。
注3) ダブルカバリング構造
芯糸となる炭素繊維に対して、ナイロン糸2本を使ってカバリングした複合糸。
注4) 含浸
熱プレス成形にすると、ナイロンが溶融して炭素繊維1本1本の隙間に溶融したナイロンが入りこんで行く現象。炭素繊維の奥まで含浸すると強度が向上する。
注5) カバーファクタ
織物にした時の、糸と空間の割合。糸と空間が1:1の場合、カバーファクタ値は14となる。


※本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構の研究成果最適展開支援プログラムA-STEPフィージビリティスタディ探索タイプとして実施しました。

参考文献
  1)長谷部,奥村,木水,神谷:石川県工業試験場研究報告,64,7,(2015)
  2)茶谷,福田,池口 :あいち産業科学技術総合センター研究報告,1,90,(2012)
  3)田中:あいち産業科学技術総合センター研究報告,3, 88,(2015)