セラミックファイバー製断熱材について
産業技術センター 常滑窯業試験場

記事更新日.18.07

あいち産業科学技術総合センター 

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1.はじめに 

セラミックファイバー製断熱材は、その優れた断熱性能と耐熱温度により、工業炉で使用される耐火れんがや断熱れんがのバックアップ材、内張り材として広く採用されています。
セラミックファイバーはファイバーの材質によりアルミナファイバー(AF)、リフラクトリーセラミックファイバー(RCF)、生体溶解性ファイバー(AES)に大別されます。
これらのセラミックファイバー製断熱材について紹介いたします。


2.セラミックファイバー製断熱材の用途と形状 

セラミックファイバー製断熱材にはその用途に対応して「バルク」(図1参照)、「ブランケット」(図2参照)、「ボード」(図3参照)等の形状があります。原綿形状をしたセラミックファイバーを「バルク」と呼び、これが基本的な形態となります。バルクは繰返しの圧縮荷重を受けた際の変形・復元性能に優れるため、工業炉に使用される耐火れんがや断熱れんがの隙間に充てんするバックアップ材として使用されます。また、他形状の製品の前工程品でもあります。
バルクを層状に積層しニードルパンチングすることにより不織布形状にしたものは「ブランケット」と呼ばれ、工業炉に使用される耐火れんがや断熱れんがの内張り材として使用されます。
バルクをバインダーで固めて成形したものは「ボード」と呼ばれ、ブランケットと同様に内張り材として使用されます。この他に薄いシート状や紐状の製品もあります。



3.セラミックファイバー製断熱材の断熱性能

セラミックファイバー製断熱材は非常に細い径の繊維が互いに絡み合った構造をしています(図4参照)。熱がその中を伝わる際に熱は繊維どうしの接触点を経由せざるを得ないため、熱の通り道がとても狭まることにより熱が伝わりにくくなります。
また、繊維間に存在する空気を介して熱が伝わる場合についても、繊維により空気が大変細かく仕切られているため、ファイバーの間を空気がすり抜けて流れることが困難になっています。
停滞状態の空気の熱伝導率は極めて低いため、総体的に優れた断熱性能を示します。衣料品や寝具に使用されている綿製品を連想していただければご理解しやすいかと思います。

4.アルミナファイバー(AF)

AFは主にムライト-アルミナ系繊維からできています。このため3種のセラミックファイバーの中で最も耐熱温度が高く、通常1200〜1700℃の温度域で使用されています。ただし、ムライト-アルミナ系材料はとても融点が高いため溶融射出法で紡糸することができず、ゾルゲル法で製造されるため高価な製品となります。

5.リフラクトリーセラミックファイバー(RCF)

RCFはシリカ骨格の中にアルミナが入込んだ非晶質の繊維からできています。通常1100〜1300℃の温度域で使用されますが、AFよりも安価ですので最も普及しています。
RCFの構造(非晶質シリカを主成分とする非常に細い繊維)はアスベスト(石綿)の構造によく似通っています。このため人体が吸引した場合の発がん性が危惧されるようになりました。平成27年11月1日に「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令」及び「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令」が施行・適用されました。
この改正により、RCFは労働安全衛生法施行令に基づく表示対象物及び特定化学物質障害予防規則に基づく管理第2類物質に追加され、健康障害防止措置が義務付けられました。
主な措置を挙げますと@局所排気装置の設置、A保護衣・呼吸用保護具の装着、B作業記録の作成、C作業環境測定、D作業者の健康診断となります。さらにB、C、Dにつきましては結果記録の30年間保管義務が付随します。これらの規制によりRCFの使用が避けられていくことが予想されます。

6.生体溶解性ファイバー(AES)

AESはAlkaline Earth Silicate Fiberの略称で、シリカ骨格の中にマグネシアとカルシアが分散した非晶質の繊維からできています。AESの構造もアスベスト(石綿)によく似通っていますが、AESは吸引等で人体に摂取されたとしても体内の水分によって分解・排出される特質を持っています。
このため、生体溶解性ファイバーには発がん性リスクがないとされています。この特性により海外ではBSF(Bio-Soluble Fiber)と略称されています。
このように生体安全性に優れたAESですが、RCFに比べ耐熱温度が劣るため通常950〜1150℃の温度域で使用され、使用条件が限定されています。耐熱温度以上の高温にさらされるとAESは収縮して小さくなります。その結果施工された断熱材の目地が広がってしまい、その隙間から熱が逃げるため、断熱性能が低下することが予想されます(図5参照)。
このようなセラミックファイバー成形体の熱収縮を抑制する手段の一つにコーティング材を塗布することによりセラミックファイバー成形体の表面部を固定する方法があります。
産業技術センター常滑窯業試験場では、このコーティング材のフィラーとして炭化ケイ素粉末が有用であることを発見しました。炭化ケイ素粉末を配合してコーティング材を調製したところ、コーティング材によりAESボードの耐熱温度を150℃ほど改善できることを確認しました(図6参照)。

7.おわりに

セラミックファイバー製断熱材には、以下の大変優れた特徴があります。

@ 耐熱性能が高い
A 断熱性能が高い
B 繰返しの加熱・冷却による亀裂や剥離が発生する現象が起きにくい
C 体積あたりの熱容量が小さいため、ワークの急速加熱に有利
D 形状の変形・復元性能に優れるため、シール性能が高い

基本形状となる原綿形状によりA〜Dの長所が発揮されますが、逆にこの形状がため機械的強度が足りず、使用期間中に構成する繊維が剥落するため定期的な補修作業が必要となります。この短所を補強する手段としてコーティング材の塗布は有効な方法となっています。

■■参考文献■■

永縄勇人,福原徹,大野大輔:あいち産業科学技術総合センター研究報告,6,40(2017)
永縄勇人,福原徹,大野大輔,橋本忍:月刊機能材料,36(11),40(2016)
藤井幹也:繊維と工業,64(10),322 (2008)
大霜紀之:繊維と工業,64(10),328 (2008)

イソライト工業株式会社製品カタログ 高温断熱ウール

厚生労働省ウェブサイト
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121.html

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000101692.pdf