イオンクロマトグラフィーによるイオン性物質の分析について
産業技術センター

記事更新日.19.05

あいち産業科学技術総合センター 

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1.はじめに 

近年、製品の安全・安心への高まりとともに、分析に基づく信頼性の高い製品づくりが求められます。そのため、最終製品だけでなく各プロセスにおいても品質管理が求められ、様々な成分の分析を迅速に行うことが必要となっています。
この様な中、各種のイオン性物質の定性、定量分析ができるイオンクロマトグラフィー(以下、IC)の重要性が高まっています。ICは、製品評価(各種の電池素材や表面処理剤など)、プロセス管理(冷却水、洗浄液など)、及び不良要因の解析(プリント基板などの不良原因となるイオン残渣、製造工程において発生する塩化物イオンや硫酸イオンなどの汚染物質、アミン類などの異臭物質など)において、必要な分析方法となっています。


2.イオン性物質の分析 

イオン性物質には、塩化物イオン、フッ化物イオン、有機酸などの負に荷電した陰イオンと、アルキルアミン、アンモニアなどの正に荷電した陽イオンがあります。滴定法、比色法および電極法などでこれらの個々のイオン性物質の測定は可能です。しかし、多くの分析試料は、様々なイオン性物質やその他の物質などが混在しており、特定の成分だけを分析するには、先に挙げた方法は適さないことがあります。したがって、複数のイオン性物質が混在する環境試料(工場排水、上水、排気ガス等)や食品の分析においては、特定の成分を分離して測定可能なICが分析法として指定され、ICの普及に伴い多くの工業分野でICが用いられる傾向にあります。


3.イオンクロマトグラフィーの特徴

図1に、ICの機器構成例及び各機器の役割を示します。ICは、液体クロマトグラフィーの一つで、複数の成分を含む液体試料を注入部から系内に投入し、目的成分の分離に適した溶液(溶離液)と共にポンプでカラムに送ります。分離用の樹脂(イオン交換樹脂など)を詰めたカラム内で、目的成分は樹脂との親和性の差などにより他の成分と分離され、個々の成分の電気の通りやすさ(電気伝導度)により検出されます。分離用の樹脂の種類、分離温度、溶離液の濃度など、目的成分の分離に適した条件を選択することで、様々なイオン成分を分離することができます。また当センター保有のICの様にサプレッサという装置がある場合、検出器の手前で溶離液の電気伝導度を下げると共に目的成分の電気伝導度を高くすることができます。これにより、目的成分のピーク強度が高まり、ppm以下の高感度での分析を可能としています。


図2に混合標準液のクロマトグラムを示します。


この様にICは、一度の分析で複数のイオン性物質を同時に分析できます。また、硝酸イオン(NO3−)、亜硝酸イオン(NO2−)等、酸化状態の異なるイオン種も同時に検出・定量できます。
一方、ICは未知成分の分析には適しておらず、目的成分の標準物質の入手が必要です。また、ICは、試料に界面活性成分やタンパク質が多く含まれる場合は、カラムの劣化を促進したり、分析ノイズの原因となるため、安定した分析値を得ることができません。その場合、必要に応じて、前処理を行って分析します。測定前には、試料に含まれる成分に関してできるだけ多くの情報を得ておくことが分析を容易にします。

4.おわりに

当センターでは、塩化物イオン、有機酸などの陰イオンと、アルキルアミン、アンモニアなどの陽イオンの両方を測定できるイオンクロマトグラフを保有しています(図3)。液体試料だけでなく、固体試料から溶出するイオン性物質の分析もできます。自動車、電池、めっき、樹脂、紙、繊維、食品、窯業など様々な分野の製品分析に対応できます。抽出方法も含めて、ICによるイオン性物質の測定の相談や依頼分析を受け付けています。お気軽にお問合せください。