高速引張試験機について
三河繊維技術センター

記事更新日.21.07

あいち産業科学技術総合センター 

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1.はじめに 

 現在、製品開発の手法としてシミュレーション技術が設計に活用されており、開発の効率化にはそれらの精度向上が重要となっています。特に衝突解析では、高速領域を含む幅広いひずみ速度での物性値が必要とされ、高速引張試験のニーズは高まっています。また、新しい材料の特性や開発した製品の性能、安全性を評価するために、引張衝撃時の破壊特性・破壊形態を測定する需要も高くなっています。
そこで今回は、当センター保有の高速引張試験機の概要と測定事例を紹介します。

2.高速引張試験機について

 本装置では、最速20m/sで高速引張試験を行うことができます(最大試験力10kN)。得られたデータから、強度、変形特性、吸収エネルギーなどの解析も可能です。
 加速方式は油圧式で、油圧ポンプでエネルギーを蓄えた後に高速サーボ弁にてピストンの速度をコントロールします。速度制御のためには助走機構が重要で、十分な助走領域を確保することで正確な速度で試験を行うことができます。
 図1、表1に試験機の外観および主な仕様を示します。試験片は、板形状だけでなく丸棒形状、繊維形状にも対応しており、専用治具を用いることで3点曲げ試験も可能です。また、付属する恒温槽を用いることで、試験環境を-40℃~+150℃まで調整して試験することもできます。

3.測定事例の紹介

3−1.樹脂成形品のひずみ速度依存性

  炭素繊維で強化したナイロン樹脂で作製した射出成形試験片について、0.1/sから10/sまでのひずみ速度で高速引張試験を行い、万能引張試験機による静的試験の結果(図2のひずみ速度0.01/sでの結果)と比較しました。ひずみ速度が大きくなるにつれて、試験片にかかる応力は大きくなる一方、ひずみは小さくなることが分かります。このように、高速引張試験機を用いることで、様々なひずみ速度における物性値を取得することができます。

3−2.熱処理による樹脂成形品の物性変化

 代表的なプラスチック材料であるポリプロピレン樹脂は、成形後に熱処理を加えることで衝撃特性が変化することが報告されています1)。そこで、ポリプロピレン射出成形品に熱処理(140℃、2時間)を施し、未処理品との物性変化を高速引張試験機で測定しました。
 結果を図3に示します。熱処理を加えたポリプロピレン射出成形品は、未処理品と比較して破断までの変形量が増加し、耐衝撃性が改善することが確認できます。

4.おわりに

 三河繊維技術センターでは、高速引張試験に関する相談や依頼試験を実施しています。
 これまでに、プラスチック、金属、繊維など単体の材料に加え、接合体や製品形状での評価も行っています。当試験をご検討の際には、お気軽にご相談ください。

参考文献
 1)北尾幸市,鶴田秀和:「高分子論文集」,52(8),497-503(1995)