いぶし瓦の色味変化について
産業技術センター三河窯業試験場

記事更新日.21.09

あいち産業科学技術総合センター 

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1.はじめに 

 三河窯業試験場は三州瓦の産地にある陶器瓦等の技術支援を行う試験場であり、粘土瓦に関する様々な調査・研究を行っています。その中で、今回は色味変化したいぶし瓦(図1)についての調査結果を紹介します。

2.いぶし瓦の色味変化について

 愛知県西三河地区周辺において生産される三州瓦は、日本三大瓦の一つに数えられます。その中でもいぶし瓦は、銀色光沢の炭素膜を形成した美観性に優れる瓦です。
 いぶし瓦は、粘土を高温で焼成後、炭化水素ガス等で燻化することで、その表面に炭素膜を形成させています。しかし、経年後に、そのいぶし膜の色味が変化することがあります。
 そこで、いぶし瓦の色味変化の原因を調べるため、新品のいぶし瓦と色味変化したいぶし瓦について、XPS分析(X線光電子分光分析)を行いました。
 XPS分析は、X線照射による光電効果で飛び出した光電子を検出し、化学状態を分析する手法で、化学物質の組成等の深さ方向の情報を得ることができます。そのXPS分析を利用して、いぶし瓦の表面から内部にかけて観察しました。


 図2に新品のいぶし瓦、図3に色味変化したいぶし瓦のXPS分析結果をそれぞれ示します。
 横軸は瓦の表面からの深さであり、左方向が瓦の表面、右方向が瓦の内部になっています。
 また、縦軸は各深さにおける構成元素の割合を示しています。なお、鉄の原子割合については、右側の縦軸に示しています。
 新品のいぶし瓦では、深さ1.3μm程度でいぶし膜の成分である炭素にほぼ覆われており、瓦の内部に向かうにつれ、鉄化合物、ケイ素化合物及びアルミニウム化合物といった素地の成分が増えていました。なお、酸素については、前述の成分と結合した形で素地中に存在しています。
 それに対して、色味変化したいぶし瓦では、新品のいぶし瓦と比べ、表面付近で炭素成分が減少し、鉄化合物等の素地の成分が現れていました。このうち、さびの成分でもある酸化鉄化合物が色味変化の原因であると考えられています。

3.おわりに

 三河窯業試験場では、これまでいぶし瓦に関する様々な調査を行い、瓦素地中での化学物質の状態や挙動を調査してきました。2020年度は、焼成条件等が化学物質の組成に与える影響を調べ、2021年度は、いぶし瓦を人為的に変色させる加速試験を行っています。