入会して最初に参加したのは新入会員に対するオリエンテーションでした。この時の話で初めて経営理念という言葉を知りました。中小企業といえども経営理念をきちんと確立して成文化しなければいけないということでした。しかし、私は内心反発を感じていました。それは、経営理念も大切かも知れないけれど、それよりも明日どのようにして売り上げを増やすのか、そして利益にどう結びつけたらいいのか、それを知りたいと思っていました。また経営理念というのは大企業がもっているもので、たかが10人程度の企業が大企業の真似をして作ったところで絵に描いた餅にしか過ぎないと思っていました。 先輩が厚く語りかけているにも関わらず、私は反発こそすれ理解も感動もまったくいたしませんでした。そんなことで実際に成文化したのは5年後のことでした。初めて経営理念という言葉を知ってから、色々な人たちに経営理念の話を聞いてだんだんその気になっていったわけで、それには少し時間が掛かってしまいました。
オネストン株式会社は私が創業したものであり、登記上も私が代表取締役であることは間違いありません。形式的には私もれっきとした経営者であったわけです。しかし、創業当時は社員は若い女性事務員がたった1人だけでした。創業直後に以前世話になった大企業の商社へ独立創業の挨拶に行きました。私の名刺には役職は入れてありませんでした。それは社員1人の会社ではとても恥ずかしくて代表取締役などと書き込む気になれなかったからです。しかし、その商社の人に、会社の規模ではなく全て私が最高の責任者です、という意味で代表取締役という言葉を入れなさい、と諭されました。
以前勤めていたところは総勢15名ほどの会社でしたから、色々な体験を積ませていただきました。その体験から自分でも社長くらいは出来るという思いで創業しました。それは自信過剰といっても良いくらいのうぬぼれだったと思います。一方で名刺に代表取締役という肩書きを書き込めなかったという弱気というか控えめさもありました。しかし、うぬぼれと控えめなところを比較すれば、断然うぬぼれが強かったと思っています。それが経営理念に対する反発的な感情として表れていたと思います。
入会して最初の1年は義務的に参加をしていましたが、いろいろな方と知り合うことが出来ました。仕事の取引上である程度知っている業界もありましたが、製造業といってもお菓子や酒類、あるいは食品製造業となると全く未知の世界の人たちでした。私の在籍期間28年間でお会いしていない業種の人は、多分非合法の世界の人だけだろうと思っています。それだけありとあらゆる業界・業種の人たちとお会いしお話を伺うことが出来ました。
そういった他業種の経営者の経営体験報告が大変役立つことがあります。経営上の問題では常に経営者と社員との関係はどうあるべきかというのがあります。経営者としての経験は浅いが個人的な能力が高い人ほど社員に対する指示命令は強く多いものです。そうしたやり方ではなかなか効果が上がらないものです。そうした失敗の経験から、社員との関係を見直して、即ち経営者自身の社員に対する接し方を変革することによって、新しい生き生きとした職場環境を作り上げるのに成功をした、という報告を聞いたことがあります。こうした報告を聞きますとわが意を得たりと思う人も沢山いるはずです。
創業からしばらくの間は中途採用ばかりでした。当然のことですが金型のカの字も分からない社員ばかりでした。その頃は私が営業の先頭に立つしかありませんでした。全て私の指示で動いていました。しかし、10年、20年という時が経てばベテランが育ってきます。そうなれば私の指示も決して最善とはいえなくなってしまいます。ベテランが育ってきたという喜びと自分の出番がなくなってきているという寂しさを同時に味わいながら任せて安心という気分にもなってきます。
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